本能寺燃ゆ

hiro75

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第一章「純愛の村」

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 そんな心配をよそに、十兵衛はすいすい進んでいく。

 ときより、上を見たり、下を見たりしている。

 と、立ち止まって、じっと下を見つめ、うんと頷くとまた歩き出す。

 ずんずんと奥へと入っていくが、大丈夫なのだろうか、迷うことはないのだろうかと思う。

 が、それは杞憂のようだ。

 十兵衛がときどき上のほうを見ているのは、枝木に括り付けられた布きれを探しているからのようだ。

 どうやら事前に印を付けていたようだ。

 ならば少しは安全かと、あとに続いた。

 どのぐらい歩いただろうか。

 全身汗だく、足は泥だらけ、なるほど十兵衛が毎日汚れて帰ってきた訳だ。

 ひもじい思いをしている者は、ひとりふたりと脱落していく。

 荘三郎も、もう歩けそうにないようだ。

 かなり息があがっている。

 源太郎も疲れた。

 これ以上足があがらない。

「あの……、明智様、まだ歩くので?」

「もう少しです」

 相変わらず十兵衛は笑っている。

 これで何もなければ、ただでは済まないのだが………………そう思ったとき、十兵衛が言った。

「ほら、聞こえるでしょう」

「はい?」

「耳を澄ましてください」

 源太郎は辺りを見回す。

 荘三郎も、村人も耳を傾ける。

「あれは……」、さわさわと何かが流れ落ちるような音………………、「水?」

「そこです」

 十兵衛の指さした場所に、きらきらとまるで瑠璃玉のように輝く川が現れた。

「水だ!」

 庄屋以下、男たちが走り寄る。

 両手で水を汲み、顔を洗う者、ごくごくと喉を鳴らす者………………源太郎も、両手を突っ込み、両手で掬って、一滴一滴味わうように飲み干した。

 ひと心地ついて、十兵衛を見た。

 彼は、にこにことして村人たちをみている。

「明智様は、もしかしてこれをお探しだったので?」

「ええ、難儀しました」

 どうやら、上の村と話し合いをしていたと思った十日間あまり、川を探していたようだ。

「しかし、何故川を?」

 川を探すよりは、上の村と話して、堰を開けてもらった早いだろう。

 第一こんな山奥から村まで水を引くのも難しい。

「それも考えましたが……」

 十兵衛は、例え川の堰をあげても、水量が減っている現状では、上の村も下の村も惨状を変えることはできないだろう。

 数日持つかどうか。

 であるなら、新しい水源を探した方がいい。

 水源がふたつあれば、今後どちらかの水量が減っても対応できる。

 それを見越して水源を探していたという。
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