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夜
しおりを挟む※この物語の世界では、ソーサーが現代と同じ使われ方をしています。
風で窓がガタガタ揺れている。
もうすぐ嵐が来るのかもしれない。
昼間は、とても良く晴れていたのに。
ミチェーリ様が眠るベッドの側に置かれた椅子に座ったまま、窓から遠くを見つめる。
クラウド様とレイン様のいる場所は大丈夫だろうか。
ガチャ、とミチェーリ様の部屋のドアが開いた。
入ってきたのは、お茶のセットを持ったフォッグ様。
「おい、お茶を淹れてきてやったぞ」
「ぇ……、僕のためにお茶を淹れてきてくれたのですか?」
「ぁぁ、そうだ。交替の時刻だしな」
ネージュ様とマリベルさんがシュトルム王太子殿下の公務へ同行しているため、僕はミチェーリ様の部屋でフォッグ様と交替で仮眠をとりながら一緒に過ごす事になっていた。
だけどすぐに、ご自分の部屋へ行ってしまったフォッグ様。
だから僕は、今夜ひとりで子守をするのかと思っていたのに。
まさか交替の時間を覚えていて、しかもお茶を淹れて来てくださるなんて。
「嬉しいです、ありがとうございます」
部屋の中にあるテーブルの所へ移動する。
僕の目の前に、お茶の入ったティーカップをフォッグ様が置いてくれた。
フォッグ様と二人、小さな明かりを置いたテーブルを挟んで向かい合って座る。
湯気が上がっているカップを手にするとフォッグ様は、ふー、ふー、と息を吹きかけてから口にしていた。
『私は王太子という立場上、毒見のされていないものを口にする事が無いから、つい気になってしまってね。でもデュオンも、用心するに越したことはないからよく知らない相手から何か貰っても、すぐ口にしない方がいいよ』
なぜか急に、以前シュトルム王太子殿下に言われた事が頭に浮かんだ。
でもフォッグ様はよく知らない相手ではないし、目の前で先にお茶を飲んでいる。
「どうした、飲まないのか?」
「ぁ、いただきます」
フォッグ様に促され、慌ててお茶を口に含む。
今まで飲んだことの無い、甘い味のするお茶だった。
フォッグ様は公爵家の方だから、通常では手に入らないような珍しいお茶を入手できるのだろう。
ミチェーリ様のお世話をしている間ずっと水分を摂っていなかった僕は、少しぬるくなっていたお茶を一気に飲み干し空になったカップをソーサーへ置いた。
「喉が渇いてそうだな。もう一杯淹れてやろうか」
「ぁ、ありがとう、ございます……。いただき、まふ……」
ん……?
ほんの少しだけ、自分の体調に違和感を覚える。
一瞬だったけれど、眩暈がしたような気がして。
目の前でお茶を注いでくれているフォッグ様を見ていたら、だんだん瞼が重くなってきた。
……あれ…………?
ね、むぃ……?
ぐッと唇を噛んだ。
必死に眠気と闘う。
昨晩クラウド様とレイン様に導かれ激しくイッてしまったとはいえ、睡眠時間は充分だったはず。
交替時間だから眠ってしまってもいい時間だけれど。
子どものお世話に関して経験の浅いフォッグ様の事を、ネージュ様は心配していた。
出発前、ネージュ様が不安な気持ちを僕に少しだけもらしていたから、なるべく今夜は寝ないでミチェーリ様のお側にいようと思っている。
だから、まだ寝るわけにはいかない。
それなのに……。
今までに感じた事の無い眠気が僕を襲ってくる。
起きていたいのに、目が開かない。
どうして……
…………
……
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