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黒髪黒目は前世のまま
しおりを挟む……これはいったい、どういう状況だろう……??
面談を行うために宰相と騎士団長の後についていって入った応接間のような部屋。
僕は今その部屋のソファに座り、騎士団長の方のナチュール侯爵にうしろから抱きしめられている。
ソファに座っているというよりも、騎士団長の膝の上に座っているような状態で。
「俺たちと違って黒髪黒目だから、こうして近くで見てもあの頃のままだな。もう離さないぞ、優陽……ッ」
「っ!?」
怜にそっくりな声で言われ、心臓が飛び出るかと思った。
正面のソファに座る宰相の方のナチュール侯爵が、呆れたようにため息をつく。
「確認するのが先だろう? デュオン、きみは八雲怜という人物を知っている?」
「っ……知って、ます……」
「そう……、八雲怜とは恋人同士で、付き合っていたけれど別れた過去がある。だけど本当は八雲怜と別れたくなかった、かな?」
宰相の言葉に驚き過ぎて、コクコクと頷く事しかできない。
とても悲しそうな眼差しで、宰相が微笑んだ。
「別れたのは、父に何か言われたのだと後から知ったよ。つらい思いをさせてすまなかったね」
「誰にも文句を言わせないくらい仕事で認めさせたら、優陽を迎えに行くつもりだった。でも結局、過労で身体を壊しちまって……。優陽、すまない」
僕を抱きしめる騎士団長の腕にグッと力がこもる。
宰相はゆっくりと首を横に振り、再びため息をついた。
「今はデュオンだよ。優陽と呼んだら皆が訝しがるから、今の名前に慣れないと」
「そうか……優陽、誰かにデュオ、と呼ばれる事はあるか?」
本当は先に、なぜ二人が怜と同じ顔と声で、どうして前世の僕――優陽を知っているのか凄く聞きたかった。
だけど騎士団長の質問の方が先だから、僕が先に答えないと。
「あ、ありません。みんな僕の事はデュオンと呼びますから」
「では俺はデュオと呼ぼう。俺だけの特別な呼び方だ。デュオ、俺の事はレイ、と呼んでくれ」
「れ、怜!?」
宰相が、三度目のため息をつく。
「ダメだよ、レイン。いきなり愛称呼びなんてさせたら、デュオンが周りからなんて言われるか」
「デュオに何か言う奴がいたら、俺が黙らせてやる」
「レインの性格から考えて『デュオ』と呼ぶのは問題ないだろうけどね。レインの事は、皆が呼ぶように名前に様をつけるのが妥当だろう」
僕を抱きしめている騎士団長は、レイン様という名前らしい。
「それならせめて、俺たちだけの時くらいレイ、と呼んでほしい」
「レイン、気持ちは分かるけどデュオンが自然に使い分けて呼べるまで待つべきだと思うよ。私はデュオンの意思を大切にしたい。それに今は、名前の呼び方で議論している場合じゃないだろう?」
「そうだな……」
面談時間は五分程度と言われていた事を思い出す。
宰相が優しい眼差しで僕を見つめた。
「デュオン……私たちはね、デュオンと一緒にいるために今日まで準備をしてきたんだよ。詳しくは後でゆっくり話したいけど、このあと三人で話す機会が作れるかどうかは、デュオン、今日のきみ次第だ」
「今日の僕、次第……?」
「八雲怜を知っている私たちの話を、聞きたいと思う?」
コクリと頷く。
「それなら王宮で過ごせるように、王太子殿下と妃殿下から自分達の子の世話を任せてもいいと認められなければならない。デュオンならできるよ、がんばって」
殿下に認められなければならないって……?
そんなの無理に決まってる。
ふたりには聞きたい事がたくさんあるけれど
平民の僕が王族に認められるなんてありえない。
「クラウド、そんな風に言ったらデュオが緊張しちまうだろう? デュオ、いいか、試験なんて無視して普段通り子どもたちと接してくればいい。孤児院での様子は俺も聞いている。デュオはデュオのままで、頑張らなくていい」
騎士団長のレイン様が、僕を抱きしめたまま大きな手でわしわしと僕の頭を撫でた。
僕は僕のままで、いいの……?
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