9 / 45
げっぷが上手
しおりを挟む広間に戻った僕は、予想はしていたけど驚いた。
子どもたちの泣き声が凄かったから。
この国では、子どもが泣いていても放っておくのが良しとされている。
その方が自分で泣き止み自立した逞しい子に育つ、というのが理由。
子どもが泣いていても、抱き癖がつくからと言って抱っこしない人が大半。
この国の育児書でも、泣いている子をあやしてはいけないと書いてあったりする。
時代や国によって常識は違うし、子どもとの接し方にたった一つの正解は存在しないから、その考えを否定するつもりは無い。
だけど僕は、育児書を読むよりも子どもの表情を読むことを大切にしたいと思っている。
だから泣いている子を抱っこして、小さな背中に手のひらを当て優しくポンポンとした。
そうして欲しいという声で、この子が泣いていたから。
この中では一番小さそう、まだ首もすわってない。
そんな僕を見て、受験者の中にはクスクス笑っている人もいる。
お世話係の試験を受けに来たくせに育児の方法も知らず非常識だと思われているのかもしれない。
抱っこしていた子がいつの間にか寝てしまったので僕の上着を敷いて、そぅっとそこへ下ろした。
続いてすぐそばで泣いている子の様子を見る。
その子はおしめが濡れていた。
おしめについては、数時間ごとの決まった時間に替える、というのがこの国では主流の考え。
そうする事で早めに排泄のリズムが整うという理論らしい。
なので時間がくるまで、子どもたちは濡れたおしめのままで過ごす。
もしかしたら、それが正解なのかもしれない。
でも僕は、ついつい子どもが排泄したタイミングでおしめを替えてしまう。
その方が肌もかぶれないし、なにより子どもたちが嬉しそうだから。
僕がおしめを替え始めたら、そばにいた人が懐中時計を取り出して時間を確認したあと僕を見て鼻で笑った。
無知だな、と蔑まれているのかな。
「普段通り子どもたちと接してくればいい」と騎士団長のレイン様に言われてなかったら、いたたまれない気持ちになっていたかもしれない。
レイン様の言葉のおかげで、周りの視線を気にせず子どもの様子を気にかける事ができている。
この子もおしめを替えたら泣き止んでもう嬉しそうに笑っているし、よかった。
おしめを替えたのでお手洗いの場所を聞き、手を洗ってから戻ってみると食事の時間になっていて子どもたちがミルクを飲んだり、食べ始めているところだった。
食事の時間になり受験者と子どもが一対一のペアになっていたので、人数が分かりやすい。
受験者は面談中の人と僕も含めて30人いて、子どもの数は面談で抜ける分を考慮しているのか29人だった。
まだ泣き止まないうちに食事の時間になってしまったせいか、泣きながらスープを飲んでむせている子もいる。
手を洗いに行っていて僕がいなかったため一人だけ残っていた子は、先ほど寝かしつけた子だった。
僕が近づくとちょうど起きて泣き出したその子。
食事の時間だけど今すぐミルクを飲ませたらむせてしまうと思う。
落ち着くまで少し抱っこしてから、ミルクを飲ませた。
「上手に飲めてるね、おいしい?」
飲み終わったのでたて抱っこして背中をさする。
「げっぷが上手にできたね。すごいよ」
小さな声で言ったつもりだったけど聞こえたのだろう。
気がついたらすぐそばにいる受験者が怪訝そうな顔で僕の方を見ていた。
この国では、まだ言葉が分からない赤ん坊に言葉がけをする人は少ない。
だから「げっぷが上手」なんて赤ん坊に話しかける僕は、かなり特異な存在に見えたのかもしれない。
26
お気に入りに追加
1,253
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる