19 / 21
第4章 少女編 9才〜12才
4
しおりを挟む「結果は、この通りです。いずれは調べなくてはいけませんでした。それはレイン様、あなたにも分かっていたことでしょう」
「……なんてことだ」
「彼女を魔法学校へ入れるのはどうでしょう。魔法の基礎から教えてくれます。何より彼女は魔法を学びたがっている」
「だめだ、リリアは魔法や争いの類とは程遠い世界で生きていくんだ」
「しかし、これだけ魔法の素質があって、彼女もやる気があるのに。これじゃリリアが可哀想です!」
珍しく声を荒げるルイスに、横からギルも口を挟む。
「レイン様、悪いが俺もそう思うぜ。彼女は魔法だけじゃなく、剣術も学びたがってる。誰かに嫁がされるのは絶対嫌なんだってよ」
ここからは会話しか聞こえない。皆の表情も窺い知ることもできない。だけど不穏な雰囲気が更に悪化していることは声の変化から感じ取れた。
2人に説得されて、レイン様の気持ちは変わってくれるか。どうしよう、私に何かできることは、
その瞬間、ぐっと、更に重みを増す魔素。変わってくれる?私にできること?とんでもない。
ーーめちゃくちゃ怒ってる……っ。
思わず両手を床へついてその衝撃に耐える。酸素が薄い、嫌な汗が全身から吹き出す。すでに、ナンシーは気を失ってしまった。自分の体に溜め込んだ魔素を体内に覆ってバリアを張る。なんとかこれで凌げるだろうか。
「レイン様、いえ、レイン、それわざとですね。それ以上はやめて下さい。私やギルは良いが、他の皆の体に障る」
「なに、普段抑えているものを出しただけだ。城主の俺が窮屈な思いをしているのはおかしいだろう」
何、一体広間で何が起きてるの?!はぁはぁと息を荒げながら、なんとか意識を繋ぎ止める。
しかし、それも無駄な抵抗だと言わんばかりに、
「それに言うことを聞けない悪い子に育てた覚えはないんだがな、」
「「レイン!」」
2人の叫び声が重なって、広間に響く。
「え?」
与えられたのは一瞬。頭の中に疑問符だけ浮かばせることだけ許される。次の瞬間、自分の意識と体は恐怖に支配されることとなる。
「なぁ、リリア」
ブワッと鳥肌が立つ。姿形はレイン様なのに、纏う雰囲気がいつもとはまるで違う。禍々しい何かが自分の目の前に現れる。
「い、いや、やめて近寄らないで」
何をされた訳でもない、ただそこに存在しているだけで、まるで自分の命を掌握されているような感覚。全く未知で恐ろしい感覚に、涙がボロボロ溢れてきた。体ががくがくと震えて、魔素のバリアもどきもはれなくなる。
「リリアを怖がらせるな」
ルイスとギルが、私を守るようにレイン様の前へ立ちはだかる。
「おかしいな、お前達は、もっと恐ろしい争いにリリアを巻き込もうとしているのに」
「そうですが、リリアはまだ9才ですよ!魔素の扱いを覚えてまだ間もない。あなたの素の姿にはとても耐えられない。一体そうまでして、リリアに何をしようと、」
はっとしたようにルイスが更に大きな声を出す。
「まさか?!」
そんなルイスの様子にギルももどかしいようで、口調が荒くなった。
「なんだよ、ルイス!はっきり言え!」
「この人は、リリアから魔法を奪うつもりだ」
「あぁ。魔法を奪い、魔法に関する記憶を全て消す」
……魔法を奪う、記憶を消す?
いやだ、そんなの絶対嫌だ。
遠くで、ルイスの叫ぶ声が聞こえる。あぁ、もうだめだ、とその場にへたり込もうとした時、
真っ黒になったフィーが視界に飛び込んできた。
『ねぇ、リリア、こんなお城出て行っちゃいましょうよ』
夢なんだろうか、フィーの声が聞こえる。それに苦しくないし、まとわりつく恐怖からも解放されてなんだか清々しい気分。
『フィー?あなた喋れるの?』
『そんなこと今はどうだっていいわ。あの人あなたのこと全然分かってないのね。こんなに素晴らしいものを持っているのに』
『そうなの、私は強い魔法を覚えてレイン様の役に立ちたいのに。分かってくれないの』
『あなたを理解してくれる人は、ちゃんと他にいる。ついてきて!』
目の前に、ドンっと現れたキラキラした金属製のドア。ドアの縁には繊細な細工が施されている。赤色に輝いているのは宝石だろうか。
ドアが開くと一本の光の線が奥へさぁーっと広がっていく。まるで道標のように。
さぁ、おいで!と言うフィーの声に導かれるまま、ドアの中へ入ろうとする。
「いけない、リリア!」
レイン様の叫び声が聞こえて振り向こうとした時、私はすでにドアの中の世界に入ってしまっていた。そして、ドアは勢い良くバタンと締め切られた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる