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納期は二週間と長めに貰っていたのに、最初の一週間はあっという間に過ぎてしまい、折り返しである木曜日、匠はすっかりPCの前で固まってしまっていた。
資料は充分に集めたし、それを元に自分なりにいいデザインをしていると思う。けれど、やはりどうしても納得のいかない部分があり、どうするべきかずっと悩んでいるのだ。
「電池切れ?」
こつん、と頭を突かれて匠は顔を上げる。隣の席にカバンを置きながらこちらを怪訝な目で見るのは水谷だった。打ち合わせから戻ってきたらしい。
「いや、動いてます、けど……」
「――ああ、例のテラスハウス、ね」
「の、真ん中です……」
防音、採光、通風――どれをとっても両隣に劣ってしまう。売価で調整すればいいのだが、匠としてはもっと何かいいアイデアがあるのではないかと思ってしまうのだ。妥協はしたくなかった。
「そうねぇ……窓の位置を工夫すれば採光と通風の問題はクリアしそうだけど」
「はい。今、こんなふうに設置してみてて……リビングは朝から夕方まで明るくなるように南側に大きく窓をつけてそこから各部屋に風が抜けるように窓をつけようかと」
水谷にPC画面を見せて匠が言う。水谷はしばらく鋭い目で設計図を見ていたが、不意に、うん、と頷いた。
「いいんじゃない? あとは建材の話になってくるかな。予算と相談して、ベストなものを選んでいくしかなさそうね」
そっちの資料調べてみたら、と水谷が言う。やはりそれしかないようだと思った匠はため息混じりに、はい、と頷いた。
それじゃあ調べるか、と席を立ち上がった時だった。オフィスの入り口から、こんばんは、と元気な声が響いて匠が視線を向けた。
「サクラハウスです、依頼書届けに伺いました」
入り口近くに居た受付けの女子社員にファイルを手渡したのは東屋だった。他愛もない話を楽しそうに女子社員としてから、ふとこちらを見やる。匠と目が合うと嬉しそうに近づいてきた。
「久しぶり、匠くん。調子どう?」
「悪くないよ。納期には間に合わせるから」
匠はそう言って笑うが、東屋は画面に映る設計図を見つめて渋い顔をした。
「……真ん中、空洞?」
「あ、いや、そこはまだ……なんだけど……」
痛いところを突かれてしどろもどろになる匠に、東屋は、ふーん、と冷めた返事をする。信用されてないのはよくわかった。自分だってそう思うかもしれない。
「ごめん……でも頑張るから、このままやらせて、東屋さん」
匠が東屋を見上げ言うと、東屋は今度は長いため息を吐いた。
「ずるいよ、匠くん。そんな顔でそんなこと言われて嫌だなんて言えないだろ」
東屋の言葉に、匠は、ありがとう、と頭を下げる。そこに、でも、と東屋の声が落ちてきて匠は顔を上げた。
「ここをどうするか、はちゃんと考えなくちゃ、な」
「う、うん……」
「で、だ。リノベーションの現場までデートしないか?」
「……へ?」
突然の言葉に匠が首を傾げる。それを見て小さく笑った東屋が言葉を繋げる。
「今、うちで買い取った中古マンションのリノベーションをしてるんだ。その現場ならヒントが転がってるかも」
東屋が、どう? と聞いて微笑む。匠にとっては願ってもない誘いだ。マンションならば自分が抱えている問題を解決するヒントもあるかもしれない。見ておいて損はない。
「行く! 行きたい!」
「じゃあ明日早速行こうか。週末だしそのまま飲みに行けるから終業後がいいかな」
明日何かある? と聞かれ、匠は大きく首を振った。用事があったって蹴る内容だ。
「じゃあ、明日仕事終わったら連絡するよ」
東屋が言って笑う。匠が頷くと、東屋のスマホが不意に音を立てた。画面を見た東屋が小さくため息を吐く。
「仕事だ。じゃあ、また明日」
東屋はそう言うと電話に出ながら匠に片手を振った。匠もそれに応えるように片手を挙げる。東屋はそのままオフィスを出て行った。
匠はそれを見送ると、大きく息を吐いて椅子に座り込んだ。
資料は充分に集めたし、それを元に自分なりにいいデザインをしていると思う。けれど、やはりどうしても納得のいかない部分があり、どうするべきかずっと悩んでいるのだ。
「電池切れ?」
こつん、と頭を突かれて匠は顔を上げる。隣の席にカバンを置きながらこちらを怪訝な目で見るのは水谷だった。打ち合わせから戻ってきたらしい。
「いや、動いてます、けど……」
「――ああ、例のテラスハウス、ね」
「の、真ん中です……」
防音、採光、通風――どれをとっても両隣に劣ってしまう。売価で調整すればいいのだが、匠としてはもっと何かいいアイデアがあるのではないかと思ってしまうのだ。妥協はしたくなかった。
「そうねぇ……窓の位置を工夫すれば採光と通風の問題はクリアしそうだけど」
「はい。今、こんなふうに設置してみてて……リビングは朝から夕方まで明るくなるように南側に大きく窓をつけてそこから各部屋に風が抜けるように窓をつけようかと」
水谷にPC画面を見せて匠が言う。水谷はしばらく鋭い目で設計図を見ていたが、不意に、うん、と頷いた。
「いいんじゃない? あとは建材の話になってくるかな。予算と相談して、ベストなものを選んでいくしかなさそうね」
そっちの資料調べてみたら、と水谷が言う。やはりそれしかないようだと思った匠はため息混じりに、はい、と頷いた。
それじゃあ調べるか、と席を立ち上がった時だった。オフィスの入り口から、こんばんは、と元気な声が響いて匠が視線を向けた。
「サクラハウスです、依頼書届けに伺いました」
入り口近くに居た受付けの女子社員にファイルを手渡したのは東屋だった。他愛もない話を楽しそうに女子社員としてから、ふとこちらを見やる。匠と目が合うと嬉しそうに近づいてきた。
「久しぶり、匠くん。調子どう?」
「悪くないよ。納期には間に合わせるから」
匠はそう言って笑うが、東屋は画面に映る設計図を見つめて渋い顔をした。
「……真ん中、空洞?」
「あ、いや、そこはまだ……なんだけど……」
痛いところを突かれてしどろもどろになる匠に、東屋は、ふーん、と冷めた返事をする。信用されてないのはよくわかった。自分だってそう思うかもしれない。
「ごめん……でも頑張るから、このままやらせて、東屋さん」
匠が東屋を見上げ言うと、東屋は今度は長いため息を吐いた。
「ずるいよ、匠くん。そんな顔でそんなこと言われて嫌だなんて言えないだろ」
東屋の言葉に、匠は、ありがとう、と頭を下げる。そこに、でも、と東屋の声が落ちてきて匠は顔を上げた。
「ここをどうするか、はちゃんと考えなくちゃ、な」
「う、うん……」
「で、だ。リノベーションの現場までデートしないか?」
「……へ?」
突然の言葉に匠が首を傾げる。それを見て小さく笑った東屋が言葉を繋げる。
「今、うちで買い取った中古マンションのリノベーションをしてるんだ。その現場ならヒントが転がってるかも」
東屋が、どう? と聞いて微笑む。匠にとっては願ってもない誘いだ。マンションならば自分が抱えている問題を解決するヒントもあるかもしれない。見ておいて損はない。
「行く! 行きたい!」
「じゃあ明日早速行こうか。週末だしそのまま飲みに行けるから終業後がいいかな」
明日何かある? と聞かれ、匠は大きく首を振った。用事があったって蹴る内容だ。
「じゃあ、明日仕事終わったら連絡するよ」
東屋が言って笑う。匠が頷くと、東屋のスマホが不意に音を立てた。画面を見た東屋が小さくため息を吐く。
「仕事だ。じゃあ、また明日」
東屋はそう言うと電話に出ながら匠に片手を振った。匠もそれに応えるように片手を挙げる。東屋はそのままオフィスを出て行った。
匠はそれを見送ると、大きく息を吐いて椅子に座り込んだ。
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