召喚されたアラサー元ヤンはのんびり異世界ライフを満喫……できません

七夜かなた

文字の大きさ
27 / 34
第四章 騎士団の洗礼

しおりを挟む
 美人のはにかむ姿は絵になる。
 というか、どんな仕草も様になっている。

「団長、クルーチェが参りました」

 思わず見惚れていたところに、秘書官のカスティーリャがノックして言った。

「クルーチェ?」

 副神官と紫紋が顔を見合わせる。

「来たか。入れ」

 団長が答えると、扉が開いてカスティーリャが入ってきた。

「失礼します! ピエール・クルーチェ、団長がお呼びと伺い参りました」

 元気な声がカスティーリャの向こうから聞こえる。カスティーリャが脇に避けると、頭頂部をこちらに向けた赤い髪が見えた。

「頭を上げていい」
「はっ」

 団長の言葉で頭を上げたピエールは、そこにいた人物を見て「あ」と声を上げた。

「兄上」
「ピエール」

 緑の瞳を見開き、兄のファビアンを見て、それから紫紋に視線を向ける。

「クルーチェ…副神官もクルーチェだから、ややこしいな。彼がシモン・カドワキ。異世界から聖女様と共に召喚された守護騎士だ」
「紫紋です」
「ピエールだ。カドワキ…守護騎士?」

 ピエールが目を凝らし、まじまじと紫紋を見つめる。それから紫紋の手の甲にある印に視線を移す。

「聖女の召喚を行うとは聞き及んでおりましたが、彼も? 彼が守護騎士というのは、本当なのですか」

 ピエールは団長と兄を交互に見て、説明を求める。
 
「詳しくはわかりません。ですが、彼が聖女様と共に召喚され、守護騎士であることは間違いありません」   
「本当に守護騎士なのですか?」

 すぐには信じられないのか、彼は同じ質問をする。

「しかも普通の守護騎士ではありません。彼の聖力は私よりも多く、測定器の限界を超えています」
「兄上よりも…上?」

 緑の瞳を見開かせ、彼は値踏みするように紫紋を見る。

「それで、君をここに呼んだのは他でもない。カドワキ殿は今日から騎士団で世話をすることになったので、色々と面倒を見てやってほしいのだ」
「私が…ですか?」

 団長の言葉に驚いた彼は、食い入るように紫紋を見る。

「彼は剣についてはまったくの素人だ。君は後輩の指導も良く見ていると聞いている。適任だろう」
「私もそう思います」
「い、いえそんな…」

 団長と兄、二人に太鼓判を押され、ピエールは照れくさそうにする。
 どちらかと言えば女性的な雰囲気の副神官と違い、騎士なだけあってピエールは精悍な顔つきをしている。
 灰色にも緑にも見える瞳と、赤い髪の毛も、まったく副神官と似たところはない。
 しかも照れた顔は、副神官の場合は色気があったが、ピエールは褒められて嬉しそうに尻尾を振るワンコのようだ。
 紫紋はここに来る直前に話していた一馬や、紫紋を頭とか、総長と言って慕ってくれる仲間を思い出した。

『あいつらと、また会えるだろうか』

 柄にもなく紫紋の胸に寂しさが去来する。

「彼は寮舎に入る。最上階の続き部屋が空いていただろう。そこのひとつを彼に使ってもらう」
「あそこをですか? あそこは王族の方々が騎士団に入団した時や、外国からの要人が騎士団を視察に来た時に使う部屋です」

 どんな部屋なのか知らないが、紫紋は、ホテルのスイートルームを思い出した。

「だが、今王族は誰も所属していないし、カドワキ殿は言わば外国からの要人だ」
「あの、俺は別に普通の部屋でも…」
「そういうわけには、いかない。それからクルーチェ、君は暫くはその向かいにある部屋を使え」

 紫紋の提案は団長によって、あっさり却下されてしまった。

「よろしいのですか?」

 ピエールの瞳が輝く。またもや彼のお尻に尻尾が見えた気がした。

「副神官も、それで異論はありませんね」

 団長が自分の采配について、確認する。

「そのようにしていただけるなら、神殿としても不足はありません」

 自分のことなのに、他人が勝手に決め、それを副神官に確認することに、紫紋は戸惑いを感じたが、この世界で自分は右も左もわからない。
 出来るだけ自分で出来ることはして、甘えすぎないようにしようと、紫紋は思った。

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる

桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」 首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。 レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。 ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。 逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。 マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。 そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。 近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

処理中です...