26 / 26
第四章 騎士団の洗礼
4
しおりを挟む
「あのナダレルに意見しただと?」
物凄い剣幕で団長が詰め寄る。
それがいいことなのか悪いことなのかわからないが、事実なので紫紋は頷く。
「その時のナダレルの顔を見てみたかったものだ」
紫紋の反応を見て、口惜しそうに言う。紫紋は状況が読めず、説明を求めて副神官を見た。
「大神官様と団長は色々意見が合わないこともあり、度々衝突するのです」
「騎士団の者を荒くれ者と馬鹿にして、時には脳筋だと言う。騎士がいなければ自分の身も護れぬくせに、上から目線で物を言うのが気に入らない。そのくせ身内には甘い」
「ここ最近世界樹の瘴気化により魔獣討伐の機会も多くなり、手が回らないことからソードマスターに頼り切りな部分もあって、それをよく会議などで揶揄されているのです」
「騎士の代わりはいるが、治癒や、浄化を担う神官は希少で、換えが効かない。そう言ってあやつは自慢げに言うのだ」
憎々しげな口調に、二人のこじれ具合がわかる。
そういえば、大神官も騎士団がどうのとか言っていた。
それぞれの言い分があるのだろうが、そこに巻き込まれそうな予感がして、紫紋は困り顔で副神官と目を合わせる。
すると彼も肩をすくめ、密かにため息を吐く。
「国王陛下でも滅多に意見することはない。そのあいつに、意見したのか。ハハハ」
団長は豪快に口を開けて笑う。
「団長、笑いすぎですよ」
副神官としては、自分の上司が笑われているのだから複雑な気分なのだろう。そこは副神官が注意する。
「すまん、いや、物怖じしない強者だな、カドワキとやら。これはこれからが楽しみだ」
「は、はあ…」
初見では結構敵意もあったのに、手の平を返したように上機嫌な態度に、紫紋は拍子抜けする。
「改めて、ようこそ騎士団へ。カドワキ殿そしてこれからよろしく」
団長はすっと立ち上がり、紫紋に手を差し出し握手を求めた。
「よろしくお願いします。シュイナー団長」
「うむ。 何か困ったことがあれば、遠慮なく私に言ってくれ」
「ありがとうございます。何分この世界での常識をまったく知りませんので、ご迷惑をおかけすることが多々あると思いますが、よろしくご指導ご鞭撻をお願いします」
カドワキファームの社長として培った営業スマイルと営業トークを駆使し、紫紋はその手を握り返す。
「ですが、特別扱いは無用です。俺はここでは新入りですから、新入りと同じように扱ってください」
「シモンさん、あなたは聖女様の守護騎士です。それに、あなた自身も膨大な聖力を保持する稀有な方です。当然他の騎士とは違いますよ。そこまでされなくてもよろしいかと」
「気遣ってくれるのはうれしいが、聖力の保持量について、俺が自分の力で獲得したものではないから、それが多いとか少ないとかで、優劣をつけたくはない」
「彼の言う通りだ。クルーチェ副神官、彼のことを思うなら、ここは他の騎士たちと同じように扱うべきだ。いや、逆に難しい課題を与えて、それをこなす、くらいの才能がなければ、周りは納得するまい」
紫紋の覚悟を聞いた団長が、副神官にそういう。
団長が父親、副神官が母親と言った役割のように、互いに持論を口にする。
「心配ありがとう。でも、俺はもう大人で、保護されるべき子供じゃない」
「心配する気持ちはわかるが、過保護は良くない」
「別に過保護なわけでは…」
「俺より飛花ちゃんのことを、気にかけてやってほしい。気丈な子みたいだが、それでも不安だらけだと思う。飛花ちゃんが恙無く暮らせているなら、俺も俺のことに集中できるから」
「わかりました」
副神官はまだ納得出来なさそうだったが、最終的には頷いた。
「ありがとう」
「いえ、ですが、無理はならさないでください。聖女様も大事ですが、あなたも大事なお方なのですから」
副神官は紫紋の手を両手で握りしめ、真剣に訴える。その薄青の瞳は心から紫紋を心配しているのがわかる。
「わかっている。無理して怪我をしたりしたら、かえって迷惑をかけるから」
どうやら副神官はかなりの心配性らしい。その心配を少しでも軽く出来ればと、紫紋もその手を握り返した。
「ならいいですが…」
「出会ったばかりのなのに、随分仲が良い。クルーチェ副神官は、カドワキ殿のことが気にかかるようだな」
「わ、私は今回召喚に関わった者として、単純に責任を感じて、シモンさんのここでの生活か気になっただけです」
団長に揶揄われ、副神官はうっすら頬を染めた。
物凄い剣幕で団長が詰め寄る。
それがいいことなのか悪いことなのかわからないが、事実なので紫紋は頷く。
「その時のナダレルの顔を見てみたかったものだ」
紫紋の反応を見て、口惜しそうに言う。紫紋は状況が読めず、説明を求めて副神官を見た。
「大神官様と団長は色々意見が合わないこともあり、度々衝突するのです」
「騎士団の者を荒くれ者と馬鹿にして、時には脳筋だと言う。騎士がいなければ自分の身も護れぬくせに、上から目線で物を言うのが気に入らない。そのくせ身内には甘い」
「ここ最近世界樹の瘴気化により魔獣討伐の機会も多くなり、手が回らないことからソードマスターに頼り切りな部分もあって、それをよく会議などで揶揄されているのです」
「騎士の代わりはいるが、治癒や、浄化を担う神官は希少で、換えが効かない。そう言ってあやつは自慢げに言うのだ」
憎々しげな口調に、二人のこじれ具合がわかる。
そういえば、大神官も騎士団がどうのとか言っていた。
それぞれの言い分があるのだろうが、そこに巻き込まれそうな予感がして、紫紋は困り顔で副神官と目を合わせる。
すると彼も肩をすくめ、密かにため息を吐く。
「国王陛下でも滅多に意見することはない。そのあいつに、意見したのか。ハハハ」
団長は豪快に口を開けて笑う。
「団長、笑いすぎですよ」
副神官としては、自分の上司が笑われているのだから複雑な気分なのだろう。そこは副神官が注意する。
「すまん、いや、物怖じしない強者だな、カドワキとやら。これはこれからが楽しみだ」
「は、はあ…」
初見では結構敵意もあったのに、手の平を返したように上機嫌な態度に、紫紋は拍子抜けする。
「改めて、ようこそ騎士団へ。カドワキ殿そしてこれからよろしく」
団長はすっと立ち上がり、紫紋に手を差し出し握手を求めた。
「よろしくお願いします。シュイナー団長」
「うむ。 何か困ったことがあれば、遠慮なく私に言ってくれ」
「ありがとうございます。何分この世界での常識をまったく知りませんので、ご迷惑をおかけすることが多々あると思いますが、よろしくご指導ご鞭撻をお願いします」
カドワキファームの社長として培った営業スマイルと営業トークを駆使し、紫紋はその手を握り返す。
「ですが、特別扱いは無用です。俺はここでは新入りですから、新入りと同じように扱ってください」
「シモンさん、あなたは聖女様の守護騎士です。それに、あなた自身も膨大な聖力を保持する稀有な方です。当然他の騎士とは違いますよ。そこまでされなくてもよろしいかと」
「気遣ってくれるのはうれしいが、聖力の保持量について、俺が自分の力で獲得したものではないから、それが多いとか少ないとかで、優劣をつけたくはない」
「彼の言う通りだ。クルーチェ副神官、彼のことを思うなら、ここは他の騎士たちと同じように扱うべきだ。いや、逆に難しい課題を与えて、それをこなす、くらいの才能がなければ、周りは納得するまい」
紫紋の覚悟を聞いた団長が、副神官にそういう。
団長が父親、副神官が母親と言った役割のように、互いに持論を口にする。
「心配ありがとう。でも、俺はもう大人で、保護されるべき子供じゃない」
「心配する気持ちはわかるが、過保護は良くない」
「別に過保護なわけでは…」
「俺より飛花ちゃんのことを、気にかけてやってほしい。気丈な子みたいだが、それでも不安だらけだと思う。飛花ちゃんが恙無く暮らせているなら、俺も俺のことに集中できるから」
「わかりました」
副神官はまだ納得出来なさそうだったが、最終的には頷いた。
「ありがとう」
「いえ、ですが、無理はならさないでください。聖女様も大事ですが、あなたも大事なお方なのですから」
副神官は紫紋の手を両手で握りしめ、真剣に訴える。その薄青の瞳は心から紫紋を心配しているのがわかる。
「わかっている。無理して怪我をしたりしたら、かえって迷惑をかけるから」
どうやら副神官はかなりの心配性らしい。その心配を少しでも軽く出来ればと、紫紋もその手を握り返した。
「ならいいですが…」
「出会ったばかりのなのに、随分仲が良い。クルーチェ副神官は、カドワキ殿のことが気にかかるようだな」
「わ、私は今回召喚に関わった者として、単純に責任を感じて、シモンさんのここでの生活か気になっただけです」
団長に揶揄われ、副神官はうっすら頬を染めた。
8
お気に入りに追加
106
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
僕のお兄様がヤンデレなんて聞いてない
ふわりんしず。
BL
『僕…攻略対象者の弟だ』
気付いた時には犯されていました。
あなたはこの世界を攻略
▷する
しない
hotランキング
8/17→63位!!!から48位獲得!!
8/18→41位!!→33位から28位!
8/19→26位
人気ランキング
8/17→157位!!!から141位獲得しました!
8/18→127位!!!から117位獲得
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
どんな展開になるのか楽しみに読んでます。
が、今の所シモンさん、素直というか?だいぶチョロいですね?この先大丈夫でしょうか!?
続きをお待ちしています。
初感想ありがとうございます。
人が良くてチョロいです。
異世界の事情もよくわからず、転がされそうです。