召喚されたアラサー元ヤンはのんびり異世界ライフを満喫……できません

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
26 / 33
第四章 騎士団の洗礼

しおりを挟む
「あのナダレルに意見しただと?」

 物凄い剣幕で団長が詰め寄る。
 それがいいことなのか悪いことなのかわからないが、事実なので紫紋は頷く。

「その時のナダレルの顔を見てみたかったものだ」

 紫紋の反応を見て、口惜しそうに言う。紫紋は状況が読めず、説明を求めて副神官を見た。

「大神官様と団長は色々意見が合わないこともあり、度々衝突するのです」
「騎士団の者を荒くれ者と馬鹿にして、時には脳筋だと言う。騎士がいなければ自分の身も護れぬくせに、上から目線で物を言うのが気に入らない。そのくせ身内には甘い」
「ここ最近世界樹の瘴気化により魔獣討伐の機会も多くなり、手が回らないことからソードマスターに頼り切りな部分もあって、それをよく会議などで揶揄されているのです」
「騎士の代わりはいるが、治癒や、浄化を担う神官は希少で、換えが効かない。そう言ってあやつは自慢げに言うのだ」

 憎々しげな口調に、二人のこじれ具合がわかる。
 そういえば、大神官も騎士団がどうのとか言っていた。
 それぞれの言い分があるのだろうが、そこに巻き込まれそうな予感がして、紫紋は困り顔で副神官と目を合わせる。
 すると彼も肩をすくめ、密かにため息を吐く。

「国王陛下でも滅多に意見することはない。そのあいつに、意見したのか。ハハハ」

 団長は豪快に口を開けて笑う。

「団長、笑いすぎですよ」

 副神官としては、自分の上司が笑われているのだから複雑な気分なのだろう。そこは副神官が注意する。

「すまん、いや、物怖じしない強者だな、カドワキとやら。これはこれからが楽しみだ」
「は、はあ…」

 初見では結構敵意もあったのに、手の平を返したように上機嫌な態度に、紫紋は拍子抜けする。

「改めて、ようこそ騎士団へ。カドワキ殿そしてこれからよろしく」
 
 団長はすっと立ち上がり、紫紋に手を差し出し握手を求めた。

「よろしくお願いします。シュイナー団長」
「うむ。 何か困ったことがあれば、遠慮なく私に言ってくれ」
「ありがとうございます。何分この世界での常識をまったく知りませんので、ご迷惑をおかけすることが多々あると思いますが、よろしくご指導ご鞭撻をお願いします」

 カドワキファームの社長として培った営業スマイルと営業トークを駆使し、紫紋はその手を握り返す。

「ですが、特別扱いは無用です。俺はここでは新入りですから、新入りと同じように扱ってください」
「シモンさん、あなたは聖女様の守護騎士です。それに、あなた自身も膨大な聖力を保持する稀有な方です。当然他の騎士とは違いますよ。そこまでされなくてもよろしいかと」
「気遣ってくれるのはうれしいが、聖力の保持量について、俺が自分の力で獲得したものではないから、それが多いとか少ないとかで、優劣をつけたくはない」
「彼の言う通りだ。クルーチェ副神官、彼のことを思うなら、ここは他の騎士たちと同じように扱うべきだ。いや、逆に難しい課題を与えて、それをこなす、くらいの才能がなければ、周りは納得するまい」

 紫紋の覚悟を聞いた団長が、副神官にそういう。
 団長が父親、副神官が母親と言った役割のように、互いに持論を口にする。

「心配ありがとう。でも、俺はもう大人で、保護されるべき子供じゃない」
「心配する気持ちはわかるが、過保護は良くない」
「別に過保護なわけでは…」
「俺より飛花ちゃんのことを、気にかけてやってほしい。気丈な子みたいだが、それでも不安だらけだと思う。飛花ちゃんが恙無く暮らせているなら、俺も俺のことに集中できるから」
「わかりました」

 副神官はまだ納得出来なさそうだったが、最終的には頷いた。

「ありがとう」
「いえ、ですが、無理はならさないでください。聖女様も大事ですが、あなたも大事なお方なのですから」

 副神官は紫紋の手を両手で握りしめ、真剣に訴える。その薄青の瞳は心から紫紋を心配しているのがわかる。

「わかっている。無理して怪我をしたりしたら、かえって迷惑をかけるから」

 どうやら副神官はかなりの心配性らしい。その心配を少しでも軽く出来ればと、紫紋もその手を握り返した。

「ならいいですが…」
「出会ったばかりのなのに、随分仲が良い。クルーチェ副神官は、カドワキ殿のことが気にかかるようだな」
「わ、私は今回召喚に関わった者として、単純に責任を感じて、シモンさんのここでの生活か気になっただけです」 

 団長に揶揄からかわれ、副神官はうっすら頬を染めた。
     
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました

猫むぎ
BL
外の世界に憧れを抱いていた少年は、少女漫画の世界に転生しました。 当て馬キャラに転生したけど、モブとして普通に暮らしていたが突然悪役である魔騎士の刺青が腕に浮かび上がった。 それでも特に刺青があるだけでモブなのは変わらなかった。 漫画では優男であった聖騎士が魔騎士に豹変するまでは… 出会う筈がなかった二人が出会い、聖騎士はヤンデレと化す。 メインヒーローの筈の聖騎士に執着されています。 最上級魔導士ヤンデレ溺愛聖騎士×当て馬悪役だけどモブだと信じて疑わない最下層魔導士

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

処理中です...