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第四章 騎士団の洗礼
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「あのナダレルに意見しただと?」
物凄い剣幕で団長が詰め寄る。
それがいいことなのか悪いことなのかわからないが、事実なので紫紋は頷く。
「その時のナダレルの顔を見てみたかったものだ」
紫紋の反応を見て、口惜しそうに言う。紫紋は状況が読めず、説明を求めて副神官を見た。
「大神官様と団長は色々意見が合わないこともあり、度々衝突するのです」
「騎士団の者を荒くれ者と馬鹿にして、時には脳筋だと言う。騎士がいなければ自分の身も護れぬくせに、上から目線で物を言うのが気に入らない。そのくせ身内には甘い」
「ここ最近世界樹の瘴気化により魔獣討伐の機会も多くなり、手が回らないことからソードマスターに頼り切りな部分もあって、それをよく会議などで揶揄されているのです」
「騎士の代わりはいるが、治癒や、浄化を担う神官は希少で、換えが効かない。そう言ってあやつは自慢げに言うのだ」
憎々しげな口調に、二人のこじれ具合がわかる。
そういえば、大神官も騎士団がどうのとか言っていた。
それぞれの言い分があるのだろうが、そこに巻き込まれそうな予感がして、紫紋は困り顔で副神官と目を合わせる。
すると彼も肩をすくめ、密かにため息を吐く。
「国王陛下でも滅多に意見することはない。そのあいつに、意見したのか。ハハハ」
団長は豪快に口を開けて笑う。
「団長、笑いすぎですよ」
副神官としては、自分の上司が笑われているのだから複雑な気分なのだろう。そこは副神官が注意する。
「すまん、いや、物怖じしない強者だな、カドワキとやら。これはこれからが楽しみだ」
「は、はあ…」
初見では結構敵意もあったのに、手の平を返したように上機嫌な態度に、紫紋は拍子抜けする。
「改めて、ようこそ騎士団へ。カドワキ殿そしてこれからよろしく」
団長はすっと立ち上がり、紫紋に手を差し出し握手を求めた。
「よろしくお願いします。シュイナー団長」
「うむ。 何か困ったことがあれば、遠慮なく私に言ってくれ」
「ありがとうございます。何分この世界での常識をまったく知りませんので、ご迷惑をおかけすることが多々あると思いますが、よろしくご指導ご鞭撻をお願いします」
カドワキファームの社長として培った営業スマイルと営業トークを駆使し、紫紋はその手を握り返す。
「ですが、特別扱いは無用です。俺はここでは新入りですから、新入りと同じように扱ってください」
「シモンさん、あなたは聖女様の守護騎士です。それに、あなた自身も膨大な聖力を保持する稀有な方です。当然他の騎士とは違いますよ。そこまでされなくてもよろしいかと」
「気遣ってくれるのはうれしいが、聖力の保持量について、俺が自分の力で獲得したものではないから、それが多いとか少ないとかで、優劣をつけたくはない」
「彼の言う通りだ。クルーチェ副神官、彼のことを思うなら、ここは他の騎士たちと同じように扱うべきだ。いや、逆に難しい課題を与えて、それをこなす、くらいの才能がなければ、周りは納得するまい」
紫紋の覚悟を聞いた団長が、副神官にそういう。
団長が父親、副神官が母親と言った役割のように、互いに持論を口にする。
「心配ありがとう。でも、俺はもう大人で、保護されるべき子供じゃない」
「心配する気持ちはわかるが、過保護は良くない」
「別に過保護なわけでは…」
「俺より飛花ちゃんのことを、気にかけてやってほしい。気丈な子みたいだが、それでも不安だらけだと思う。飛花ちゃんが恙無く暮らせているなら、俺も俺のことに集中できるから」
「わかりました」
副神官はまだ納得出来なさそうだったが、最終的には頷いた。
「ありがとう」
「いえ、ですが、無理はならさないでください。聖女様も大事ですが、あなたも大事なお方なのですから」
副神官は紫紋の手を両手で握りしめ、真剣に訴える。その薄青の瞳は心から紫紋を心配しているのがわかる。
「わかっている。無理して怪我をしたりしたら、かえって迷惑をかけるから」
どうやら副神官はかなりの心配性らしい。その心配を少しでも軽く出来ればと、紫紋もその手を握り返した。
「ならいいですが…」
「出会ったばかりのなのに、随分仲が良い。クルーチェ副神官は、カドワキ殿のことが気にかかるようだな」
「わ、私は今回召喚に関わった者として、単純に責任を感じて、シモンさんのここでの生活か気になっただけです」
団長に揶揄われ、副神官はうっすら頬を染めた。
物凄い剣幕で団長が詰め寄る。
それがいいことなのか悪いことなのかわからないが、事実なので紫紋は頷く。
「その時のナダレルの顔を見てみたかったものだ」
紫紋の反応を見て、口惜しそうに言う。紫紋は状況が読めず、説明を求めて副神官を見た。
「大神官様と団長は色々意見が合わないこともあり、度々衝突するのです」
「騎士団の者を荒くれ者と馬鹿にして、時には脳筋だと言う。騎士がいなければ自分の身も護れぬくせに、上から目線で物を言うのが気に入らない。そのくせ身内には甘い」
「ここ最近世界樹の瘴気化により魔獣討伐の機会も多くなり、手が回らないことからソードマスターに頼り切りな部分もあって、それをよく会議などで揶揄されているのです」
「騎士の代わりはいるが、治癒や、浄化を担う神官は希少で、換えが効かない。そう言ってあやつは自慢げに言うのだ」
憎々しげな口調に、二人のこじれ具合がわかる。
そういえば、大神官も騎士団がどうのとか言っていた。
それぞれの言い分があるのだろうが、そこに巻き込まれそうな予感がして、紫紋は困り顔で副神官と目を合わせる。
すると彼も肩をすくめ、密かにため息を吐く。
「国王陛下でも滅多に意見することはない。そのあいつに、意見したのか。ハハハ」
団長は豪快に口を開けて笑う。
「団長、笑いすぎですよ」
副神官としては、自分の上司が笑われているのだから複雑な気分なのだろう。そこは副神官が注意する。
「すまん、いや、物怖じしない強者だな、カドワキとやら。これはこれからが楽しみだ」
「は、はあ…」
初見では結構敵意もあったのに、手の平を返したように上機嫌な態度に、紫紋は拍子抜けする。
「改めて、ようこそ騎士団へ。カドワキ殿そしてこれからよろしく」
団長はすっと立ち上がり、紫紋に手を差し出し握手を求めた。
「よろしくお願いします。シュイナー団長」
「うむ。 何か困ったことがあれば、遠慮なく私に言ってくれ」
「ありがとうございます。何分この世界での常識をまったく知りませんので、ご迷惑をおかけすることが多々あると思いますが、よろしくご指導ご鞭撻をお願いします」
カドワキファームの社長として培った営業スマイルと営業トークを駆使し、紫紋はその手を握り返す。
「ですが、特別扱いは無用です。俺はここでは新入りですから、新入りと同じように扱ってください」
「シモンさん、あなたは聖女様の守護騎士です。それに、あなた自身も膨大な聖力を保持する稀有な方です。当然他の騎士とは違いますよ。そこまでされなくてもよろしいかと」
「気遣ってくれるのはうれしいが、聖力の保持量について、俺が自分の力で獲得したものではないから、それが多いとか少ないとかで、優劣をつけたくはない」
「彼の言う通りだ。クルーチェ副神官、彼のことを思うなら、ここは他の騎士たちと同じように扱うべきだ。いや、逆に難しい課題を与えて、それをこなす、くらいの才能がなければ、周りは納得するまい」
紫紋の覚悟を聞いた団長が、副神官にそういう。
団長が父親、副神官が母親と言った役割のように、互いに持論を口にする。
「心配ありがとう。でも、俺はもう大人で、保護されるべき子供じゃない」
「心配する気持ちはわかるが、過保護は良くない」
「別に過保護なわけでは…」
「俺より飛花ちゃんのことを、気にかけてやってほしい。気丈な子みたいだが、それでも不安だらけだと思う。飛花ちゃんが恙無く暮らせているなら、俺も俺のことに集中できるから」
「わかりました」
副神官はまだ納得出来なさそうだったが、最終的には頷いた。
「ありがとう」
「いえ、ですが、無理はならさないでください。聖女様も大事ですが、あなたも大事なお方なのですから」
副神官は紫紋の手を両手で握りしめ、真剣に訴える。その薄青の瞳は心から紫紋を心配しているのがわかる。
「わかっている。無理して怪我をしたりしたら、かえって迷惑をかけるから」
どうやら副神官はかなりの心配性らしい。その心配を少しでも軽く出来ればと、紫紋もその手を握り返した。
「ならいいですが…」
「出会ったばかりのなのに、随分仲が良い。クルーチェ副神官は、カドワキ殿のことが気にかかるようだな」
「わ、私は今回召喚に関わった者として、単純に責任を感じて、シモンさんのここでの生活か気になっただけです」
団長に揶揄われ、副神官はうっすら頬を染めた。
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