皎き忌み子と太陽の皇子

七夜かなた

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第一章 巡礼の街

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 イルジャの言っている意味がわからないまま、寝る時刻になったので、二人は共に寝台に入った。
 イルジャは左腕を負傷しているので、傷に触れないようにアルブがイルジャの右側に寝転ぶ。
 
「イルジャって温かいね」
「そ、そうか…普通だと思うが」

 暗闇でこうして誰かに側にいてもらえることが、こんなにも心強いことだとは思わなかった。
 これもほんの一時のことだと思いながら、アルブはこの瞬間を心に刻む。イルジャがここを去ってまた一人になったら、暫くはこの日を懐かしく思うだろう。

「アルブは、ずっとここに一人で住むのか?」

 不意にイルジャが尋ねた。アルブの不安を察したのか。

「他の場所に行こうと思ったことはないのか?」 
「ここしか…僕は知らないから…考えたこともなかった」

 ここで捨てられ、この森で師匠に育ててもらった。他の場所で暮らす自分を想像したことがなかった。

「他所へ行ったって、知り合いもいないし、僕の体質だと色々と大変だから」

 見知らぬ土地で、どうやって生きて行けばいいのかわからない。しかも太陽の光を避けなければいけない状況だ。ギネシュでも奇異な目で見られるのに、他所ではもっと酷い目にあうかもしれないのだ。

「ここには住む家もあるし、畑だってある」
「もし俺と一緒に行こうと言ったら、いやか?」
「イルジャと?」

 アルブの驚いた声が暗闇の部屋に響く。

「自分のことも覚えていないのに、アルブの面倒を見るとか、偉そうなことは言えないが、俺のことを知っている人が見つかったら、その人に頼んでみる」
「……どうして?」
「ここがアルブにとって大事な場所だとは思うが、こんな人気のない寂しい場所に、アルブを置いて行くのは不安なんだ」

 寝台がギシリと鳴る。イルジャが仰向けから体を動かし、こちらを向いたのがわかった。
 
「アルブは、俺がいなくなったら寂しくないか?」

 心の内を見透かした質問に、アルブはどきりとした。
 
「誰にも干渉されず一人暮らすのは、気楽だとは思う。でも、周りに頼れる人がいたほうが安心だろう?」
「……わ、わからないよ。何年も一人だったし」

 一年前は時間にしてほんの数分のやり取りだったので、イルジャとまともに話をしたのは、今日を入れてまだ二日。
 これまでの人生で、片手で数えるほどの人としか関わってこなかったアルブは、人との距離感がわからない。
 なんとなくこのまま一人でここで生きて、いつか命を終えて土に還るものと思っていた。
 他の人たちはそれぞれの生活がある。アルブがどこで何をしていようと、どうなっていようと、その人たちの人生に何の影響もない。
 もしアルブが死んだことを知ったとしても、良くて「ああ、そうなんだ」と、一瞬思ってくれるだけで、自分たちのいつもの生活に戻るだろう。
 一人が気楽かと言われても、それしか選択肢がなかったのだから、アルブには選びようがない。

「でも、イルジャがいなくなったら、暫くは寂しいだろうな」
 
 何の打算もなく、ただ素直な気持ちを言った。
 遭ったばかりだというのに、なぜかイルジャのことが気になるのは本当だ。
 イルジャは、色々な言葉をアルブにくれる。
 人肌の心地よさも、イルジャに教えてもらった。

「でも、イルジャにはイルジャの居場所があって、それは僕のいる場所かどうかはわからない。今はたまたま僕の居場所にイルジャがいる。それだけ」
「俺自身、自分が何者かまだわからないから、アルブの生活を保証するだけの力があるのかどうかはわからない。だから贅沢な暮らしを約束することはできない」
「だけど、外から巡礼に来る人たちは皆それなりに偉い人たちばかりだから、きっとイルジャもそうだと思うよ。『イルジャ様』って呼ばれていたもの」

 だから尚更に思う。自分はイルジャの側にずっといられるような存在ではない。
 自分のことを忘れた、今のイルジャだから一緒にいられるのだ。
 
「だったら、きっとアルブ一人の面倒くらい見られる筈だ」
 
 身分差というのは、上の位にいる者からすれば、大した事のないものに思えるかも知れない。
 でも、下の者からすればそれはとても大きい。
 見下ろすより見上げるほうが、大変に思えるものだ。
 
「今すぐ答えは求めない。でも、考えてみてくれ」

 環境が変わることに対するアルブの不安を感じ取ったのか、その夜イルジャはそれ以上誘うことはしなかった。

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