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春とは言え夜はまだ肌寒い。

庭のあちこちに焚かれた篝火の周りにいた人々も、一人また一人と帰っていくのを眺めていた。

「セレニア様、窓辺は冷えますよ。さあ、暖炉の傍へ来て温めたワインでもお召し上がりください」

「ありがとう、メリッサさん」

言われたとおりに窓から離れて部屋の中央にいる彼女の元へと歩いていく。

「今日から正式にビッテルバーク辺境伯夫人になられたのですから、どうぞメリッサとお呼びください」

ワインの杯を手渡しながらそう言われた。

「ごめんなさい……でも小さい頃からの習慣はなかなか抜けないわ」

今日は私とジーン様の結婚式。

あれから一年はあっという間だった。

ティアナさんの結婚式に出るために首都へ初めて行き、国王陛下と初めて謁見した。

陛下はジーン様の甥ということで、ジーン様に面差しがよく似ていらっしゃった。

陛下との謁見の間は終始緊張ぎみで、謁見の間を退出するころにはすっかり喉が渇ききっていた。

その後ティアナさんの結婚式に参列し、他の親族の方たちにも顔合わせを行った。

ティアナさんの母上のミリアーナさんは、ジーン様の亡くなったお母上方の親族の中でも力がある方で、彼女が私を受け入れてくれたことで、私のことを皆が比較的好意的に受け入れてくれた。

「何を思い出している?」

暖炉の前に温かい敷物を広げクッションを並べて座り、温めたワインを両手に挟んで暖炉の日を見つめていると、ジーン様が身支度を終えて部屋に入ってきた。

「もうよろしいのですか?」

腰丈のシャツとゆったりした紐結びのズボンを着たジーン様が後ろから私を包み込むように抱き寄せる。

「今夜は新婚初夜だ。いつまでも花嫁を放っておけない」

振り返った私の唇に唇が触れる。私の手から半分になったワインの杯を奪うと、自分もそれを口にして、また口づけして口に含んだワインを口移しで飲ませた。

「ん……」

少し口から洩れたワインを辿って、顎から喉へと唇を這わせ、鎖骨をなぞられる。

「このひと月は寂しかった」
「私も……一人で寝ることがあんなに侘しいものだとは思いませんでした」

一年前のあの日からジーン様とは夜を共にしていたが、このひと月の間私はドリフォルト家の邸で寝泊まりしていた。

式を挙げるまでのけじめだとメリッサさんから言われたからだ。

「染みが出来てしまったな」

夜着の深い襟元の縁に出来たワインの染みを見てジーン様が言った。

既に肩の下まで襟繰りが引き下げられて、鎖骨の辺りにチリリとした痛みを感じた。

「ようやく名実ともに君は私の妻だ。今夜はひと月お預けになった分、覚悟して」

琥珀のジーン様の瞳が暖炉の炎を映して赤く輝いた。

視線だけで裸にされた気分になって、恥ずかしさに縮こまる。

「セレニア?」

私が視線を反らし身を固くしたことに気づき、ジーン様の顔に不安が過った。

「その……改めてそんなことを言われると……それに久し振りで何だか……は、初めてのときより恥ずかしくて……結局……胸も……大きくならなくて」

直視できなくて腕で顔を隠そうとしたのをジーン様に腕を掴まれ止められた。

そのまま腕を交差させられ頭の上に片手で縫い止められる。
もう片方の手は頬に添えられて、親指が唇をなぞる。

「大丈夫……君は美しいよ。心配しないで…私も同じくらいどきどきしているから」
「ジーンが……」
「嘘だと思うなら確かめてごらん」

ジーン様が私の後頭部を優しく抱き自分の胸に耳があたるように引き寄せる。

ドクドクドクと、まるで走ってきたばかりのように心臓が激しく脈打っている。

「すごい……」

耳に響いてくる激しい鼓動に思わず呟いた。

「君の花嫁姿を見てから、ずっとこんな調子だ。私の花嫁は世界一美しい」

胸に耳を当てているため、ジーン様が話す振動が直接伝わってくる。

「ジーンだって……本当にこんな素敵な人の花嫁になれるのかと有頂天になってしまいました」

掌をそっと彼の胸に当て、うっとりと囁いた。頬の手が顎に降りてきて上を向かされると、ジーン様の顔が降りてきて、再び唇が重ねられた。

口づけは次第に深くなり、唇を割って舌が入ってくると同時に敷物の上に仰向けに倒された。

「ん……あ……」

ワインの芳醇な香りが鼻腔を擽り、口腔内を舐めまわすジーン様の舌を自分からも絡めていく。

くちゅくちゅと互いの唾液が混じりあう音が響き、やがて大きくて温かい手が胸をやわやわと揉み込みだした。

ジーン様の膝が足を割って入り、太ももの前がぐりぐりと下半身の敏感な部分に擦り付けられた。

「あん……はあ……」

重なった唇に隙間から切ない喘ぎ声が洩れ、お腹にジーン様の雄の象徴が固く押し当てられる。

自分が彼を興奮させているのだと思うと、胸に誇らしげな思いが沸き上がってきた。

「ずいぶんキスもうまくなった。息ができなくて四苦八苦していたのに」
「ジーンが……全部教えてくれたんです。キスも……愛される喜びも……包んでくれる温かさも…この腕に包まれると、とても安心するんです」

脇から背中に腕を回して肩を掴み、隙間が失くなるようにぴたりと身を寄せて言うと、お腹に当たっていたものがますます硬く圧迫感が増す。

「可愛いことを言うようになったな」

「ジーンにしか言いません」

耳元で囁くと、次の瞬間には着ているものを全て剥ぎ取られた。

「当たり前だ」


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