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ジーン様は店内を見てまわり、宝石を散りばめた髪留めを手に取った。
ジーン様は私の髪をかきあげ、髪留めを付けた。
「思った通り君の髪に映える。これを貰おう」
思ってもみなかった贈り物だった。
「とてもお似合いですよ」
オーナーが店にある大きな卓上の鏡を向けてくれた。
右のこめかみ辺りに付けられた髪留めがお店の灯りに反射して輝いている。
「ありがとう……ございます。大事にします」
ジーン様から婚約者としての初めての贈り物。
一生の宝だ。
「私も何か……」
「それは必要ない。私の贈り物を付けて喜んでくれる君が見られた。何かを貰いたかったから贈ったのではない。気を遣わなくていい。それに贈り物はこれで終わりではない。いちいち返していてはきりがないぞ」
「お羨ましいですな。ご婚約、おめでとうございます」
オーナーがジーン様の言葉を聞いて呟いた。
そんなことを言われたことがなかった。
「お待たせ」
そこへ買い物を終えたティアナさんが近寄ってきた。
「あら素敵な髪留め。ジーンの見立てにしては趣味がいいわね」
「私にしては、は余計だ。もういいのか?」
「ええ、荷物はお屋敷に届けて貰うわ。さあ、次に行きましょう、時間が勿体ないわ」
急き立てるようにティアナさんはそこから次々と歩いて店をまわった。
行く先々で品物の物色に時間を費やす。
そしてどこへ行ってもジーン様と私はオーナーの接待を受け、婚約祝いにと何かを勧められた。
「ジーン……行く先々で何かを買わなくても……」
「言っただろう?これで終わりではないと」
「でも……」
「何を遠慮しているの。男が女のためにお金を遣うのは当たり前でしょ。ジーンが気にするなと言っているのだから、黙って受けとればいいの」
「そう言うことだ。この件に関してはティアナの意見が正しい」
三軒目の宝石点でダイヤのネックレスを買おうとしたジーンを止めた。
二対一。結局私は言い負かされてそこでもジーン様はネックレスに加えて対のイヤリングも買った。もちろん、ティアナさんの分も。
「喉が乾いたわ。どこかでお茶でもしない?」
既に買い物を始めて四時間が経っていた。
「お茶ならさっきの店でも出してくれただろう?」
「それとこれとは別よ。私はちゃんとしたお茶を頂ける店で飲みたいの」
「この先にカフェがあります。この時間ならそれほど混んでいないでしょう」
「じゃあ、そこに案内して」
三人で歩いてカフェに向かう。
途中でも何人かに声をかけられ、お祝いを言われた。
「本当に田舎ね。皆があなたのことを知っているのね」
「田舎もバカにしたものではない。都会とは違う良さがある」
「バカにしているわけではないわ。うちも観光地とは言え田舎だから」
田舎を特に毛嫌いしているわけではないようだ。
カフェにはすぐ着いた。
ここも他の所と同様、店に入ると全員の注目を浴びた。
お茶の時間を過ぎているのでお客はまばらだった。
「これは閣下…ようこそいらっしゃいしました。こちらへどうぞ、個室へ案内いたします。」
店主が応対に出て来て、個室へ案内しようとする。
「いや、ここで大丈夫だ。気を遣わなくていい」
「ですが…」
「変に気を遣われても困る。ここへ来る度にこれでは次から来られなくなる」
「そう言うことでしたら、こちらへ」
店主が私達を案内したのは二階の日当たりの良い所だった。
「ここは何がおいしいの?」
ティアナさんはメニューを見ない。いつも一緒にいる人が(主に男性)が注文するそうだ。
「相変わらずだな」
「そのかわり頼んでくれたものは文句を言わずに食べるわ」
「それは誰も君の嫌いなものを頼まないからだ」
「皆私の好みを熟知してくれているのよ」
「そうとも言えるな。これとこれを。セレニアも同じものでいいか」
「はい」
ジーン様が三人分のお茶とケーキを注文する。
「疲れたのではないか?」
二人のやり取りを見ていると疎外感が沸き上がってくる。自然と暗い顔をしていたのを疲労と思ったのかジーン様が訊ねる。
「大丈夫です。普段と違う買い物の仕方に圧倒されただけです」
「いつもあんな買い物をしているわけではない」
「わかっていますけど、びっくりしました。私には初めてのことばかりで」
「あれくらいで驚いていてはだめよ。首都へ行けばジーンは国王の叔父でもあるのだから、その伴侶のあなたもそう言う目で見られるわ」
「私……」
自分が目の前のジーン様しか見ていなかったことに気づく。
「ティアナ、そうセレニアを怯えさせるな。何も特別なことはない。陛下は仰々しいことはお嫌いだから、お会いすることがあっても堅苦しく思うことはない」
「やはり、陛下に……お会いしないわけには……」
「婚約の許可を頂いたから、結婚式までには一度ご挨拶にとは思っている」
国王陛下との謁見にひきつく。
「困ります、お客様」
その時、下から言い争う声が聞こえてきた。
ジーン様は私の髪をかきあげ、髪留めを付けた。
「思った通り君の髪に映える。これを貰おう」
思ってもみなかった贈り物だった。
「とてもお似合いですよ」
オーナーが店にある大きな卓上の鏡を向けてくれた。
右のこめかみ辺りに付けられた髪留めがお店の灯りに反射して輝いている。
「ありがとう……ございます。大事にします」
ジーン様から婚約者としての初めての贈り物。
一生の宝だ。
「私も何か……」
「それは必要ない。私の贈り物を付けて喜んでくれる君が見られた。何かを貰いたかったから贈ったのではない。気を遣わなくていい。それに贈り物はこれで終わりではない。いちいち返していてはきりがないぞ」
「お羨ましいですな。ご婚約、おめでとうございます」
オーナーがジーン様の言葉を聞いて呟いた。
そんなことを言われたことがなかった。
「お待たせ」
そこへ買い物を終えたティアナさんが近寄ってきた。
「あら素敵な髪留め。ジーンの見立てにしては趣味がいいわね」
「私にしては、は余計だ。もういいのか?」
「ええ、荷物はお屋敷に届けて貰うわ。さあ、次に行きましょう、時間が勿体ないわ」
急き立てるようにティアナさんはそこから次々と歩いて店をまわった。
行く先々で品物の物色に時間を費やす。
そしてどこへ行ってもジーン様と私はオーナーの接待を受け、婚約祝いにと何かを勧められた。
「ジーン……行く先々で何かを買わなくても……」
「言っただろう?これで終わりではないと」
「でも……」
「何を遠慮しているの。男が女のためにお金を遣うのは当たり前でしょ。ジーンが気にするなと言っているのだから、黙って受けとればいいの」
「そう言うことだ。この件に関してはティアナの意見が正しい」
三軒目の宝石点でダイヤのネックレスを買おうとしたジーンを止めた。
二対一。結局私は言い負かされてそこでもジーン様はネックレスに加えて対のイヤリングも買った。もちろん、ティアナさんの分も。
「喉が乾いたわ。どこかでお茶でもしない?」
既に買い物を始めて四時間が経っていた。
「お茶ならさっきの店でも出してくれただろう?」
「それとこれとは別よ。私はちゃんとしたお茶を頂ける店で飲みたいの」
「この先にカフェがあります。この時間ならそれほど混んでいないでしょう」
「じゃあ、そこに案内して」
三人で歩いてカフェに向かう。
途中でも何人かに声をかけられ、お祝いを言われた。
「本当に田舎ね。皆があなたのことを知っているのね」
「田舎もバカにしたものではない。都会とは違う良さがある」
「バカにしているわけではないわ。うちも観光地とは言え田舎だから」
田舎を特に毛嫌いしているわけではないようだ。
カフェにはすぐ着いた。
ここも他の所と同様、店に入ると全員の注目を浴びた。
お茶の時間を過ぎているのでお客はまばらだった。
「これは閣下…ようこそいらっしゃいしました。こちらへどうぞ、個室へ案内いたします。」
店主が応対に出て来て、個室へ案内しようとする。
「いや、ここで大丈夫だ。気を遣わなくていい」
「ですが…」
「変に気を遣われても困る。ここへ来る度にこれでは次から来られなくなる」
「そう言うことでしたら、こちらへ」
店主が私達を案内したのは二階の日当たりの良い所だった。
「ここは何がおいしいの?」
ティアナさんはメニューを見ない。いつも一緒にいる人が(主に男性)が注文するそうだ。
「相変わらずだな」
「そのかわり頼んでくれたものは文句を言わずに食べるわ」
「それは誰も君の嫌いなものを頼まないからだ」
「皆私の好みを熟知してくれているのよ」
「そうとも言えるな。これとこれを。セレニアも同じものでいいか」
「はい」
ジーン様が三人分のお茶とケーキを注文する。
「疲れたのではないか?」
二人のやり取りを見ていると疎外感が沸き上がってくる。自然と暗い顔をしていたのを疲労と思ったのかジーン様が訊ねる。
「大丈夫です。普段と違う買い物の仕方に圧倒されただけです」
「いつもあんな買い物をしているわけではない」
「わかっていますけど、びっくりしました。私には初めてのことばかりで」
「あれくらいで驚いていてはだめよ。首都へ行けばジーンは国王の叔父でもあるのだから、その伴侶のあなたもそう言う目で見られるわ」
「私……」
自分が目の前のジーン様しか見ていなかったことに気づく。
「ティアナ、そうセレニアを怯えさせるな。何も特別なことはない。陛下は仰々しいことはお嫌いだから、お会いすることがあっても堅苦しく思うことはない」
「やはり、陛下に……お会いしないわけには……」
「婚約の許可を頂いたから、結婚式までには一度ご挨拶にとは思っている」
国王陛下との謁見にひきつく。
「困ります、お客様」
その時、下から言い争う声が聞こえてきた。
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