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「少し見てくる」

ジーン様も何か気づいたらしく、私にそう声をかけると入り口に向かう。

私は不安になって少し離れて彼の後ろからついていった。

「招待状のない方はお通しできません」
「だから、それは必要ないだろう、招待客の同伴者なのだから。とにかく、中へいれてくれればその者を探して説明させる」
「そのようなことはできません、ここをどこと思われているのですか、身元のわからない者が簡単に入れるところではありません」
「身元のわからない者だと、何て失礼なやつだ。私はグラントだ!ルイージ・グラント。こっちは息子のカーター。ここに来ているセレニア・ドリフォルトを呼んでくれ」

ヘドリックさんと押し問答をしているのは、思ったとおりグラント叔父だった。

カーターと二人で夜会服に身を包んでいる。

「何の騒ぎだ」

ジーン様が三人の傍に行き、声をかけた。

「旦那様……この方たちが招待状をお持ちでないのに中へ通して欲しいと……」
「あ、セレニアではないか」

ジーン様への説明をしている途中を遮って、グラント叔父が後ろにいる私に手を振って大声で叫ぶ。
その不作法さに顔をしかめる者と嘲笑する者とがいて、私は顔を赤らめた。

「おじさん……どうして」

ジーン様は顔をしかめた方で、叔父の不作法さはジーン様には既に知られていたが、やはり恥ずかしい。

「何用か。招待をした覚えはないし、ご覧のとおり今日は立て込んでいる。話があるなら後日約束を取り付けてから来てもらいたい」

ジーン様はどうやら叔父を招いていなかったらしく、不機嫌を隠そうともせず、私と叔父の間に割って入った。

「……確かに……私は閣下の領地の者ではありませんので、招待を受ける程ではございませんが、私はセレニアの祖父方の縁者として、あの子のことを気に掛けて……」
「お、おれとセレニアはいずれ夫婦になる。妻になる者が招待を受けているなら、未来の夫として参加して当然だ」
「な!」
「は?」

不意にカーターが父親の話を遮り、私を指差した。

「な、何を!そんな約束は……」
「まだ喪中だから黙っているつもりだったが、皆さんにお知らせするいい機会だ。ほら、カーター、セレニアの傍に行きなさい」
「はい」

「やめて、彼と結婚なんて」
「あら、そうだったの。おめでとうございます」

振り返るとキャサリンを始め、お茶会のメンバーが立っていた。

「知らなかったわ。そんな話が進んでいたなら一言言ってくれれば」
「そうですよ。喪中でも何でも、いい話ではありませんか」

「ち、ちが……」

「辺境伯様、そう思いませんか?」

違うと言いたいのに、彼女たちは次から次へと祝いの言葉を口にして聞き入れてはくれない。

キャサリンがジーン様に同意を求め、彼が私やグラント叔父、カーターを順番に見渡した。

「閣下、このような場でいきなり報告となって申し訳ありませんが……」

叔父の魂胆はわかっている。多くの名士が集まるここで私とカーターの婚姻を周知の事実としてしまいたいのだ。

「ジーン様、私は……」
「セレニアは何も言わなくていい」

ジーン様は否定しようとする私の前に手をかざし制した。

「今宵は私の帰還を皆が祝福してくれている。皆が善意で来てくれている場で騒ぎを起こすのは控えてもらいたい」
「も、申し訳ありませんでした。ですが、この者が……」

叔父がヘドリックさんを睨み付ける。ヘドリックさんは叔父に指を指され、申し訳ありませんでしたと頭を下げた。

「彼は仕事をしただけのことだ。彼の仕事振りに文句があるなら、雇っている私に非があることになる」
「そ、そのようなことは……閣下を非難しているのでは……」

雇い人の不始末は雇い主にも責任がある。遠回しにジーン様を雇い主として非難したことになると気付き、叔父が慌てて言い繕う。

「わかっていただければいいのです。閣下には色々と誤解を与えるような場面ばかりお見せしておりますが、これは我がドリフォルト家の内情です。どうかご理解ください」
「叔父さん、閣下に対してそんなこと…………」
「セレニア……大丈夫だ」

ジーン様に向かって口を出すなと不遜な物言いをしたことを咎めようとしたが、ジーン様が私を止めた。

「なるほど……私はこの辺り一帯を治める領主で、辺境伯の地位を賜っているが、ドリフォルト家の主の婚姻にとやかく口を挟む権利はないと、そう言うのだな」
「権利などと大げさな……こちらのゴタゴタに閣下を巻き込むことが身内の恥であると思っているまでです」
「確かに、そちらの言うことにも一利ある。閣下などと崇め立てられて、魔獣は切ったが実際は困っている女性一人護ってやれない半端者だ」
「そ、そこまでは……」

ちらりと私を見て、ジーン様は二人の前に立ちはだかった。既に会場にいる殆どの人達がこちらに集まり、展開を見守っている。

(すまない、後で話し合おう)

ジーン様の唇がそう動いたように思った。
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