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93.これではきりが無かね
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「これではきりが無かね。少しこちらからも行っか。逃げや?」
オナガが忠告するなり、コウガクは迷わず攻撃を止め護る態勢に切り替えた。無謀に挑むことはない。判断力は高いようだ。
ぎりぎり躱せるかどうかの間を取って、刀を抜き打つ。下手を打てば多少の怪我はするだろうが、その程度で弱音を吐くならば第七には置いておけない。
「ちええーいっ!」
コウガクは見事に反応して刀の軌道から逃げた。逃げながら、紫の瞳は太刀筋を見ている。
迫る白刃に恐れを抱けば、視界は自然と狭まる。だというのに、コウガクは一つ一つの軌道を追うのではなく、俯瞰するように全体を見ることでオナガの剣を把握する。
それは戦いに慣れていない者が取れる行動ではない。彼が本当に見た目通りの素人であるならば、まるで強くなるための力を与えられているかのようだ。
オナガの中に警戒心が生まれる。
「お前、何者や?」
受け身を取って身を起こしたコウガクに、冷たく問う。
問いの意味が分からないのか、コウガクは眉をひそめた。
「もう一度聞く。お前は何者や? そん力をどこで手に入れた?」
ようやく問い掛けの意味に気付いたのか、コウガクは瞼を落として思案にふけり出す。その無防備な姿はやはり素人のそれだ。
「他言無用でお願いします」
「おお、構わん」
さっさと話せとばかりに、目で先を促す。
「華族ではありません」
「うん?」
「私の半分は華族ではなく、王族です」
何を言いだしたのだ? と、オナガはまじまじとコウガクを見つめてしまう。
「お前、王族ちゅうものが何か、分かっちょるか?」
念のために確認してみる。
「はい」
首肯された。
「先祖に王がおわしても、曾孫から下は華族じゃど?」
「はい」
「お前ん親が王か?」
「祖父が王だったようです」
祖父? とオナガは首を捻る。
「祖父ちゅうこつは、当代、いや、先代か。先々代は女王だったからな」
そこまで呟いて、まさかという思いが過る。
先代とその孫の間に位置するであろう王族の一人を、オナガはよく知っている。王族でありながら平民の男を愛してしまったがゆえに、王となる権利を失った王女。
改めてコウガクを見て見れば、青みがかった薄い色の髪は、王になるのだと言っていた王女の髪と同じだ。濃い紫の瞳は、十四年前に死んだ友人とよく似ていた。
オナガは確かめるため、恐る恐る口を開く。
「先代の末娘は、当代が追放したと耳にした。イン・レイラン様。天女んごつ美しいおなごやったそうじゃ」
中身はじゃじゃ馬も逃げ出すほどの自由な人だったが。
「御名答です。母は有名なのですね?」
苦笑しながら返すコウガクを見て、オナガは息を飲んだ。
オナガも知らぬ間に、二人は子を生していたのか。
どう返すべきか、オナガは考える。
コウガクは自分の母とオナガの関係を知らないように見える。
なぜレイランは黙っていたのか。検衛になればオナガと関わるかもしれないというのに、何も伝えずに入隊させたのはなぜか。
コウガクは他言するなといった。つまりレイランは正体を隠している可能性がある。
当然であろう。平民たちの町に華族が現れるだけでも騒ぎになると言うのに、追放された王族が暮らすと知られれば、それこそ大騒動になることは必至だ。
王女でありながら平民の暮らしにも興味を持ち、変装する術も心得ていたレイラン。平民を装い、カイツとの子を育てたのかもしれない。
手を差し伸べたいと思う。けれど王に目を付けられているオナガが動けば、彼女とコウガクにとって不利に働く可能性もある。
それに、今更になって友と名乗るのは身勝手な気がした。彼女が追放されてからこれまで、オナガは何もしていない。
そしてもう一つ、謎があった。
レイランの息子であるならば、なぜ蕊頂に現れたのか。本物なのか、それともビンスイが用意した偽物なのか。
オナガが忠告するなり、コウガクは迷わず攻撃を止め護る態勢に切り替えた。無謀に挑むことはない。判断力は高いようだ。
ぎりぎり躱せるかどうかの間を取って、刀を抜き打つ。下手を打てば多少の怪我はするだろうが、その程度で弱音を吐くならば第七には置いておけない。
「ちええーいっ!」
コウガクは見事に反応して刀の軌道から逃げた。逃げながら、紫の瞳は太刀筋を見ている。
迫る白刃に恐れを抱けば、視界は自然と狭まる。だというのに、コウガクは一つ一つの軌道を追うのではなく、俯瞰するように全体を見ることでオナガの剣を把握する。
それは戦いに慣れていない者が取れる行動ではない。彼が本当に見た目通りの素人であるならば、まるで強くなるための力を与えられているかのようだ。
オナガの中に警戒心が生まれる。
「お前、何者や?」
受け身を取って身を起こしたコウガクに、冷たく問う。
問いの意味が分からないのか、コウガクは眉をひそめた。
「もう一度聞く。お前は何者や? そん力をどこで手に入れた?」
ようやく問い掛けの意味に気付いたのか、コウガクは瞼を落として思案にふけり出す。その無防備な姿はやはり素人のそれだ。
「他言無用でお願いします」
「おお、構わん」
さっさと話せとばかりに、目で先を促す。
「華族ではありません」
「うん?」
「私の半分は華族ではなく、王族です」
何を言いだしたのだ? と、オナガはまじまじとコウガクを見つめてしまう。
「お前、王族ちゅうものが何か、分かっちょるか?」
念のために確認してみる。
「はい」
首肯された。
「先祖に王がおわしても、曾孫から下は華族じゃど?」
「はい」
「お前ん親が王か?」
「祖父が王だったようです」
祖父? とオナガは首を捻る。
「祖父ちゅうこつは、当代、いや、先代か。先々代は女王だったからな」
そこまで呟いて、まさかという思いが過る。
先代とその孫の間に位置するであろう王族の一人を、オナガはよく知っている。王族でありながら平民の男を愛してしまったがゆえに、王となる権利を失った王女。
改めてコウガクを見て見れば、青みがかった薄い色の髪は、王になるのだと言っていた王女の髪と同じだ。濃い紫の瞳は、十四年前に死んだ友人とよく似ていた。
オナガは確かめるため、恐る恐る口を開く。
「先代の末娘は、当代が追放したと耳にした。イン・レイラン様。天女んごつ美しいおなごやったそうじゃ」
中身はじゃじゃ馬も逃げ出すほどの自由な人だったが。
「御名答です。母は有名なのですね?」
苦笑しながら返すコウガクを見て、オナガは息を飲んだ。
オナガも知らぬ間に、二人は子を生していたのか。
どう返すべきか、オナガは考える。
コウガクは自分の母とオナガの関係を知らないように見える。
なぜレイランは黙っていたのか。検衛になればオナガと関わるかもしれないというのに、何も伝えずに入隊させたのはなぜか。
コウガクは他言するなといった。つまりレイランは正体を隠している可能性がある。
当然であろう。平民たちの町に華族が現れるだけでも騒ぎになると言うのに、追放された王族が暮らすと知られれば、それこそ大騒動になることは必至だ。
王女でありながら平民の暮らしにも興味を持ち、変装する術も心得ていたレイラン。平民を装い、カイツとの子を育てたのかもしれない。
手を差し伸べたいと思う。けれど王に目を付けられているオナガが動けば、彼女とコウガクにとって不利に働く可能性もある。
それに、今更になって友と名乗るのは身勝手な気がした。彼女が追放されてからこれまで、オナガは何もしていない。
そしてもう一つ、謎があった。
レイランの息子であるならば、なぜ蕊頂に現れたのか。本物なのか、それともビンスイが用意した偽物なのか。
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