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27.レイランは忙しなく目や顔を動かして
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レイランは忙しなく目や顔を動かして、周囲の様子を興味深く観察していた。
「あの演目の主題は、恋ではなくて?」
「そうみたいだね。相変わらず恋について熱心に学んでいるんだね?」
「もちろんですわ。『恋を知らぬ者は人生の半分を損している。人を愛することを知らぬ者に、国を任せることはできない』。お父様が存命中に、私は必ず恋を知ってみせるわ」
国の政に関わることのない平民とは違う。次代の王となるかもしれないレイランの言葉には覚悟が見て取れる。
からかい半分だったカイツは、笑みを引っ込めた。
「レイラン様は王になりたかか?」
「もちろんよ。とは言っても、お父様から玉座を奪いたいわけではないわ。お父様の治世が末永く続けばいいと思っている。けれどその次は? お父様と叔父様は素晴らしい御方だけれど、王族の全てがそうとは言えないわ。だから私が王位を継承できるように、やれることはやっておきたいの」
目の前で繰り広げられているのは、平民の間では人気が高い古典的な恋愛劇。
垠萼で倒れていた神の一柱を見つけ、健気に世話をする平民の少女。けれど神と平民とでは、あまりに立場が違う。
少女は自ら身を引き、神を蕊山に住む華族へと託す。
一人になった少女は神を偲び、共に暮らしていた間に教えられた神曲を歌う。すると不思議なことに、平民たちは華族たちの支配から解き放たれた。
少女を愛した神は、少女に祝福を与えていたのだ。
観客たちから歓声が上がる中、オナガとチュウヒ、カイツは、恐る恐るレイランとセッカの様子を窺う。
平民に混じって観賞し始めたレイランを止めなかったオナガたち。この手の芝居や物語に疎い男たちは、結末を知らなかったようだ。
知っていれば阻止したであろう。
「これは不味くないか?」
「そうですね。王族や華族を批判しているようなものですし」
「セッカは気にしちょらんみたいどんな」
視線は芝居に感動しているセッカに向かう。
華族の支配から平民が逃れるという、王族や華族を批判しているとも取れる内容であることよりも、純粋に少女の献身に感動しているようだ。
次いでレイランへと視線を向けてみる。
こちらは役者が下がった舞台を、身じろぎすることなくじっと見つめている。眉間にはしわが寄り、厳しい表情だ。
「対策を決めておきましょう」
「おう」
「オナガとカイツで、レイラン様の気を逸らしてください。西側に女性に人気の店があるとヤガンから情報を仕入れてきました。その間に、私は役者たちを避難させておきます」
「了解」
男たちの行動は決まった。
「レイラン様、あちらに人気の店があるので、移動しませんか?」
「そうじゃな。セッカも気に入るものがあっかもしれんな」
わざとらしさは拭えないが、彼らは役者ではないのだ。精一杯の愛想笑いを浮かべながら、レイランの意識を舞台から逸らす。その間にチュウヒは舞台裏に回り込んでいく。
ちらりとオナガとカイツに視線を向けたレイランだったが、すぐに舞台へと戻した。
「あの者たちと話がしたいわ」
「あー、レイラン様。役者というのは、芝居の後は疲れ切ってまともに話すこともできないそうですから、後にしませんか?」
「そうじゃな。他ん店も回ってから戻れば、調度よかかもしれん。さ、セッカ、行こう」
「ほらほら、レイラン様。行きましょう」
適当なことを言いながら、レイランを舞台から引き離す。
華族と接することも多い第一部隊。対象に触れずとも立ち位置や身振りなどで望む方向に誘導する方法は、日頃の訓練で身に付けている。
ましてや根が素直なレイランであれば、思いのままに歩かせることなど造作もない。
「ちょっと? お待ちなさい! 私はあの者たちに」
レイランは抵抗を示すが、カイツに誘導されて自然と広場から遠ざかっていった。
「あの演目の主題は、恋ではなくて?」
「そうみたいだね。相変わらず恋について熱心に学んでいるんだね?」
「もちろんですわ。『恋を知らぬ者は人生の半分を損している。人を愛することを知らぬ者に、国を任せることはできない』。お父様が存命中に、私は必ず恋を知ってみせるわ」
国の政に関わることのない平民とは違う。次代の王となるかもしれないレイランの言葉には覚悟が見て取れる。
からかい半分だったカイツは、笑みを引っ込めた。
「レイラン様は王になりたかか?」
「もちろんよ。とは言っても、お父様から玉座を奪いたいわけではないわ。お父様の治世が末永く続けばいいと思っている。けれどその次は? お父様と叔父様は素晴らしい御方だけれど、王族の全てがそうとは言えないわ。だから私が王位を継承できるように、やれることはやっておきたいの」
目の前で繰り広げられているのは、平民の間では人気が高い古典的な恋愛劇。
垠萼で倒れていた神の一柱を見つけ、健気に世話をする平民の少女。けれど神と平民とでは、あまりに立場が違う。
少女は自ら身を引き、神を蕊山に住む華族へと託す。
一人になった少女は神を偲び、共に暮らしていた間に教えられた神曲を歌う。すると不思議なことに、平民たちは華族たちの支配から解き放たれた。
少女を愛した神は、少女に祝福を与えていたのだ。
観客たちから歓声が上がる中、オナガとチュウヒ、カイツは、恐る恐るレイランとセッカの様子を窺う。
平民に混じって観賞し始めたレイランを止めなかったオナガたち。この手の芝居や物語に疎い男たちは、結末を知らなかったようだ。
知っていれば阻止したであろう。
「これは不味くないか?」
「そうですね。王族や華族を批判しているようなものですし」
「セッカは気にしちょらんみたいどんな」
視線は芝居に感動しているセッカに向かう。
華族の支配から平民が逃れるという、王族や華族を批判しているとも取れる内容であることよりも、純粋に少女の献身に感動しているようだ。
次いでレイランへと視線を向けてみる。
こちらは役者が下がった舞台を、身じろぎすることなくじっと見つめている。眉間にはしわが寄り、厳しい表情だ。
「対策を決めておきましょう」
「おう」
「オナガとカイツで、レイラン様の気を逸らしてください。西側に女性に人気の店があるとヤガンから情報を仕入れてきました。その間に、私は役者たちを避難させておきます」
「了解」
男たちの行動は決まった。
「レイラン様、あちらに人気の店があるので、移動しませんか?」
「そうじゃな。セッカも気に入るものがあっかもしれんな」
わざとらしさは拭えないが、彼らは役者ではないのだ。精一杯の愛想笑いを浮かべながら、レイランの意識を舞台から逸らす。その間にチュウヒは舞台裏に回り込んでいく。
ちらりとオナガとカイツに視線を向けたレイランだったが、すぐに舞台へと戻した。
「あの者たちと話がしたいわ」
「あー、レイラン様。役者というのは、芝居の後は疲れ切ってまともに話すこともできないそうですから、後にしませんか?」
「そうじゃな。他ん店も回ってから戻れば、調度よかかもしれん。さ、セッカ、行こう」
「ほらほら、レイラン様。行きましょう」
適当なことを言いながら、レイランを舞台から引き離す。
華族と接することも多い第一部隊。対象に触れずとも立ち位置や身振りなどで望む方向に誘導する方法は、日頃の訓練で身に付けている。
ましてや根が素直なレイランであれば、思いのままに歩かせることなど造作もない。
「ちょっと? お待ちなさい! 私はあの者たちに」
レイランは抵抗を示すが、カイツに誘導されて自然と広場から遠ざかっていった。
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