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04.第六部隊に配属されてから数日が
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第六部隊に配属されてから数日が経過した日、魔物の襲来が告げられ、初の垠萼への遠征を命じられる。
今は魔物が徘徊し、人の住まない土地のなっている垠萼も、元は人が暮らしていた土地だったという。
これ以上、魔物に棲み処を奪わせないためにも、蕊山の近くまで現れた魔物は討伐しなければならない。
それに魔物によっては大切な資源となるのだ。
向かったのは東の垠萼、東萼。待ち構えていたのは地蛇と呼ばれる、直径が人の身長ほどもある巨大な蛇だった。
大きく開けた口は、立ったままでも容易く丸呑みされそうだ。
「適当に逃げ回ってろ。時間になれば第三か第二が駆けつけてくれる。俺たちはそれまでの足止めだ。無駄死にすることは無い」
先輩の隊員は親切心で助言したのだろうが、オナガは首を傾げて不思議がる。
「倒したらいけんとな?」
「倒せるなら好きにしろ」
誰も本気にしていないのだろう。呆れ交じりに応えた隊員だけでなく、近くにいて耳にした隊員たちまでもが、嘲り交じりに鼻で笑う。
「分かりもした」
腰の刀を構えるどころか抜くこともなく、散歩するような足取りでオナガは地蛇に近付いていった。
初めは嘲笑していた隊員たちの顔色が、次第に悪くなる。
「おい、あいつ本気で地蛇に斬りかかるつもりじゃないだろうな?」
「戻って来い! 無茶だ!」
地蛇はただ巨大なだけではない。魔爬の特徴である硬い鱗を持つ。刀では文字通り刃が立たないのだ。
傷を付けるのであればそれ用の武器――例えば戦斧や斬馬刀など――が必要となる。刀で倒すとなると、選び抜かれた王直属の部隊禁衛の隊員に並ぶ実力が必要だろう。
第六部隊の面々が静止の声を掛ける。だがオナガの足は止まらない。その場に焦りが広がっていく。
「戻れ!」
隊員たちは声を張るが、オナガは聞こえていないのか真っ直ぐに地蛇に向かっていく。
「やばいぞ。あいつが地蛇を怒らせれば、俺たちまで巻き添えになりかねない」
「逃げるぞ!」
第六部隊の面々は慌てて蕊山の地下に逃げ込もうと門に向かって走り出した。
「騒がしか人たちじゃな」
オナガは地蛇を視界から外さないまま、背後で騒ぐ隊員たちの声に眉をひそめる。
「お前に恨みはないが、ここは人の縄張りじゃ。許せや。ちええーいっ!」
抜き放った白刃が地蛇の腹に吸い込まれる。しかし傷は付けたが思ったよりも浅く、致命傷には程遠い。
「おお? お前、硬かね」
一振り目で鱗の硬さに気付いたオナガは、即座に間合いを取った。のたうち回る地蛇を見据えながら、腰を落として呼吸を整える。
誰が己に傷をつけたのか。オナガの姿を捕えた地蛇は、口を開けて突進して来た。
一呼吸ごとに深い集中へと落ちていくオナガの世界には、すでに音も無い。余計な景色をそぎ落とした視界は地蛇の姿もおぼろげで、その動きは鈍く見える。
意識することも無く体が右へと傾く。水の中を揺蕩うような緩慢さ。命のやり取りをしているとは思えぬ穏やかな心境。
刹那、意識が引き戻された。
色を取り戻した世界に、なぞるべき太刀筋が光の線となって浮かび上がる。オナガは迷うことなく全身全霊を込めた刃を線に沿わして走らせ、返す刀で更に奥を斬る。
二度、三度と渾身の力で刀を振るうと、オナガの足は意識せずとも地面を蹴って間合いを取った。
刀を鋭く振ってから鞘に戻す。鍔鳴りが呼び水となり、静かだった世界に音が蘇る。
地蛇はオナガを食らったつもりだった。しかし何も食っていないことに気付いて我に返る。その直後には、目玉がくるりと回って倒れた。
「痛くしてしもうて悪かったな。許してくれ」
一度で命を刈ってやることができず、無駄な苦しみを与えてしまったことを、オナガは悔やむ。
動かなくなった地蛇に向けて、彼は両手を合わせて黙祷する。
一方、一連の動きを見ていた第六部隊の面々は、逃げるのも忘れてオナガと地蛇を交互に凝視していた。
「おい、本当に一人でやりやがった」
「嘘だろ? なんであんな化け物が第六に配属されたんだ?」
今は魔物が徘徊し、人の住まない土地のなっている垠萼も、元は人が暮らしていた土地だったという。
これ以上、魔物に棲み処を奪わせないためにも、蕊山の近くまで現れた魔物は討伐しなければならない。
それに魔物によっては大切な資源となるのだ。
向かったのは東の垠萼、東萼。待ち構えていたのは地蛇と呼ばれる、直径が人の身長ほどもある巨大な蛇だった。
大きく開けた口は、立ったままでも容易く丸呑みされそうだ。
「適当に逃げ回ってろ。時間になれば第三か第二が駆けつけてくれる。俺たちはそれまでの足止めだ。無駄死にすることは無い」
先輩の隊員は親切心で助言したのだろうが、オナガは首を傾げて不思議がる。
「倒したらいけんとな?」
「倒せるなら好きにしろ」
誰も本気にしていないのだろう。呆れ交じりに応えた隊員だけでなく、近くにいて耳にした隊員たちまでもが、嘲り交じりに鼻で笑う。
「分かりもした」
腰の刀を構えるどころか抜くこともなく、散歩するような足取りでオナガは地蛇に近付いていった。
初めは嘲笑していた隊員たちの顔色が、次第に悪くなる。
「おい、あいつ本気で地蛇に斬りかかるつもりじゃないだろうな?」
「戻って来い! 無茶だ!」
地蛇はただ巨大なだけではない。魔爬の特徴である硬い鱗を持つ。刀では文字通り刃が立たないのだ。
傷を付けるのであればそれ用の武器――例えば戦斧や斬馬刀など――が必要となる。刀で倒すとなると、選び抜かれた王直属の部隊禁衛の隊員に並ぶ実力が必要だろう。
第六部隊の面々が静止の声を掛ける。だがオナガの足は止まらない。その場に焦りが広がっていく。
「戻れ!」
隊員たちは声を張るが、オナガは聞こえていないのか真っ直ぐに地蛇に向かっていく。
「やばいぞ。あいつが地蛇を怒らせれば、俺たちまで巻き添えになりかねない」
「逃げるぞ!」
第六部隊の面々は慌てて蕊山の地下に逃げ込もうと門に向かって走り出した。
「騒がしか人たちじゃな」
オナガは地蛇を視界から外さないまま、背後で騒ぐ隊員たちの声に眉をひそめる。
「お前に恨みはないが、ここは人の縄張りじゃ。許せや。ちええーいっ!」
抜き放った白刃が地蛇の腹に吸い込まれる。しかし傷は付けたが思ったよりも浅く、致命傷には程遠い。
「おお? お前、硬かね」
一振り目で鱗の硬さに気付いたオナガは、即座に間合いを取った。のたうち回る地蛇を見据えながら、腰を落として呼吸を整える。
誰が己に傷をつけたのか。オナガの姿を捕えた地蛇は、口を開けて突進して来た。
一呼吸ごとに深い集中へと落ちていくオナガの世界には、すでに音も無い。余計な景色をそぎ落とした視界は地蛇の姿もおぼろげで、その動きは鈍く見える。
意識することも無く体が右へと傾く。水の中を揺蕩うような緩慢さ。命のやり取りをしているとは思えぬ穏やかな心境。
刹那、意識が引き戻された。
色を取り戻した世界に、なぞるべき太刀筋が光の線となって浮かび上がる。オナガは迷うことなく全身全霊を込めた刃を線に沿わして走らせ、返す刀で更に奥を斬る。
二度、三度と渾身の力で刀を振るうと、オナガの足は意識せずとも地面を蹴って間合いを取った。
刀を鋭く振ってから鞘に戻す。鍔鳴りが呼び水となり、静かだった世界に音が蘇る。
地蛇はオナガを食らったつもりだった。しかし何も食っていないことに気付いて我に返る。その直後には、目玉がくるりと回って倒れた。
「痛くしてしもうて悪かったな。許してくれ」
一度で命を刈ってやることができず、無駄な苦しみを与えてしまったことを、オナガは悔やむ。
動かなくなった地蛇に向けて、彼は両手を合わせて黙祷する。
一方、一連の動きを見ていた第六部隊の面々は、逃げるのも忘れてオナガと地蛇を交互に凝視していた。
「おい、本当に一人でやりやがった」
「嘘だろ? なんであんな化け物が第六に配属されたんだ?」
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