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4・初めての国内視察
4-52・これまでのこと⑤
しおりを挟むきっかけはそう。だからティアリィはミスティに告げず、ピオラについてファルエスタへと旅立った。
当てつけとも取れる行為だ。自覚している。
何より皇后などと言う立場ある者のとる行動じゃない。
わかっている。
いくら執務に支障をきたさないように手を回せたとは言え、無責任にもほどがあるだろう。
それを全て皇帝たるミスティへと告げずに行ったのだ。
いい年をしてなんて子供っぽい真似をしたのか。
子供たちが皆良しとして促してくれたという部分もあった。
そこでようやくティアリィは、ミスティの自分への執着は少々常軌を逸しているらしいと自覚できたのだが、そうなってさえそれ自体に嫌悪はない。
でもその時にはそうせずにはいられなかったのは本当で。
その時に取れた時間は1ヶ月。
決して、長くもない時間だった。
元々そう長くを想定していたわけでもない。
でも、結局はそれでは足りなかったのだろう。
ファルエスタについて、何故かピオラについて学園に通うことになったのは完全に予定外だった。
もう少し時間が欲しいと思った部分は否定しない。
ただ、流石に逃げられはしなかったので、ミスティとはまた触れ合うようになることとなった。
それまでより少しばかり頻度は落ちたものの、ほとんど毎晩のように体を交わしていたのだから、それほど結局は変わらない。
時には子供達との時間を強引に切り上げさせられることまであって、ミスティが大変に嫉妬深いことも痛感した。
「俺、ミスティが好きなんだ。今も好き。こんなの、ミスティだけだ」
この気持ちに嘘はないのに。
思い出す。
あの時。
最後にミスティと会った夜のことだ。
「俺、ミスティが何に怒ってるのかわからなかった。でも、怖くて」
苛立っていることだけが伝わってきて怖かった。
そのまま非常に強引に行われた暴力とも言えるような触れ合いは、今も、思い出したら震えそうになる。
別に殴られたりだとかそういうことはなかったのだけれど、ティアリィのことを一切気遣わない行為だったのは間違いない。
特にティアリィはミスティのことしか知らず、いつもとろとろになるまで大切に扱われ、触れられてきた。時に、と言うよりはそこそこの頻度で強引なことがあっても、あそこまでひどかったのはあれ一度きり。
初めて感じる痛みは、はっきりと、ティアリィの中に影を落とした。
「ねぇ、母様。俺、どうすればよかった? 俺の何が悪かったんだ。なんで、あんな……」
それでも、好きなのだ。
そうなってさえ、気持ちは消えていない。
どうすればいいのかわからない。
こうして2か月ほど離れてみても。結局、ティアリィは動き出せないままだった。
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