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しおりを挟む口はへの字に曲がって、眉尻は何かに困ってでもいるかのように下がっている。
どこか泣きそうな表情。
余程、よくない事でも起こったというのだろうか。
そんな風にも思う顔。
前世の俺は、あるいはこんな表情をよくしていたのかもしれない、漠然と思う。
よくは思い出せないのだけれど。
続けて、数日前まで鏡の中にいた自分自身のことも思い浮かべた。
いつもやんわりと口角を上げ、口元には微笑みを湛えていた。
眉は今と同じように少し下がっていて、眼差しも同じよう、微笑んでいることが多かったので、つり上がった目の形をしているにもかかわらず、どこか自信なさげな、気弱な雰囲気を醸し出していたように思う。
ルニアは基本的には母親似で、目元だけが父に似ているのだけれど、柔和な母の印象とよく似ていて、儚げだとか、そのようなイメージが付きまとっていた。
その時の表情を意図して浮かべてみようとすれば、出来なくはなかったけれど、だけど気を抜けば一瞬で元通り。
余程気を付けなければ気弱な微笑みなど、保てるような気がしなかった。
「ま、一目で別人って思うわな……」
つくづく、よく誤魔化そうと思ったなと呆れてしまう。
それぐらいに、前世を思い出す前と思い出してからとでは顔つきからして全く違っているのである。
最後に思い出したのは、前世で読んでいたBL小説の表紙にいたルニアのこと。
髪色や目の色は同じ、そして顔そのものの雰囲気も、多分大きく剥離はしていなかっただろう、勿論、BLに出てきた人物らしく、表情も厳しく描かれていたけれど。
「吊り目が一番活きてたのが、あの小説の表紙、かぁ……」
なんとも意地悪そうな顔をしていたと覚えている。
もちろん、メインはラティとシェラだったので、ルニアは小さく添えられていただけで、でもそれでもわかるぐらい、性格の悪さが滲み出るような顔で描かれていた。
意識して真似てみると、本から抜き出てきたかのようにそっくりだ。
もっともこちらの顔だって長く続けられるようなものではなかったけれど。
そんな風に、鏡の中で百面相をしていると、視界の端で、シェラが呆れたようにこちらを見ているのが映った。
「ぁっ……」
なんだか恥ずかしくなる。
自分の顔を改めてまじまじと見つめている俺は、シェラにいったいどう見えただろうか。
鏡の中の俺は、頬を羞恥で真っ赤に染めていた。
ますます情けない顔で居た堪れない。
「な、なんだよっ……」
口を尖らせて、詰るような言葉を出してしまったのは、気まずくて仕方なくなったから。
目が合ったので、自分に向けてだと理解したのだろうシェラは困ったような雰囲気になって。
「何も言っていませんが……」
言いがかりも甚だしいと、きゅっと眉根を寄せていた。
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