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しおりを挟む昨日と同じように、読書に勤しむ気にはなれない。
そんな場合ではないことも理解していた。
自分の腹部を見下ろす。
まだ膨らんですらいない其処には、確かに子供が成っている。
ラティと自分の子供。
特に何も問題がなければ、ラティの次にこの国の王になるのだろう子供だ。
もっとも、ラティさえいまだ即位の予定はなく、きっと何十年も先の話なのだけれど。
(ああ、王太子妃としての仕事ってのもあったか……)
思い返してもほとんど何もさせてもらえていなかった。
ルニアはただ、おとなしく、ラティの愛を享受していただけなのだ。
子供が成っているというのもあったし、ラティが望んでいなかったから。ルニアはラティの意向に本当に決して全く逆らっていなかった。
なぜ、それほどまでに、そう疑問に思う程に。
(ラティが怖かっただとか、そういうわけではない。でも、ラティの愛を受け入れなければならないと考えていたのは確かだ……)
覚えている。忘れていない。
前世の記憶を思い出す前までの日々。
高等部は日本と同じ、16歳から18歳までの三年間だ。
卒業して数ヶ月、半年も経っていない時期に、予定通りラティと婚姻を結んだ。
そして長い、二週間以上にも及ぶ初夜の果て、すぐに子供が成って、それで。
そこから更に数ヶ月。ルニアはほとんど何もしていなかった。
ほんの少しの執務、書類仕事と、あとは刺繍をしたり、とっくに履修済みのこの国の歴史書を紐解いたり、そんなことをしていただけ。否。
(この国の現状の状況だとか情勢だとかに気を配ってはいた、か……)
少なくとも把握をするように努めていたとは思う。
だが、今この国には目立った問題などなく、勿論、故国であり隣国であるイバティエイザとの関係も良好。
ルニアは安穏とした日々を享受していたのだ。
文句も言わず、望まれるがままに。それを当然だと受け入れていた。
「なんだろうなぁ、この、歪んでる、感……」
思い返せば思い返すだけ、今の俺からしたら理解すら難しい日々。
なんとなく気が向いて鏡台の前に座ってみる。
そこに映っているのは当然ルニアだ。
淡い薄紫の髪は艶やかで、青紫色の瞳も相俟って、なんというか、まぁ、紫色だった。
一見すると冷たくすら見えそうな寒色。
王族に相応しく、高い魔力を持っているのが、髪や目の色からもわかる。
ラティと同じか、あるいはそれ以上かもしれない魔力量。
目尻はつり上がっていて、無表情でいるときつそうにしか見えない。でも。
「はは。情けない顔……」
鏡の中の俺からは、困惑が滲み出ているかのようだった。
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