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しおりを挟むそれは確かに取り乱しているし、いきなり初対面でそんなことを言われたシェラは、さぞ混乱したのではないかと思うと、今更ながらなんだかひどく申し訳なくも思えて。
だが、今、謝るのもなんだか違うのだろうなとも思って、何も言えない。
なにせもう何年も前の、過去の話だ。
「ルニア様は、それを予知夢か、あるいは、ご自身が意識の外で、おかしな行動をとってしまっているのではないかと、そういったご心配をなさっておられるようでした。そこに夢に出てきた僕を実際に見つけられて、より、不安をお感じになられたのだとか。はじめは僕も、何をおっしゃっておられるのか全く分かりませんでした。でも……」
そうだろうと思う。
シェラとしても戸惑わないわけがないだろう。重ね重ね申し訳ない限りだ。
そこでいったん言葉を切ったシェラは、何を思い出しているのだろう、どことなく視線を遠くした。
「僕は……確かに、覚醒者ですが、生まれつき記憶があって。だから、前世と言っても、ひどく遠いんです。小さい時は、多分、もう少し覚えていたと思うんですけど、今は……いいえ、ルニア様と出会った時にはすでに、すっかりおぼろげになっていて。ただ、その時、ルニア様のお話を聞いていて、なんだか僕も、そう言えばそのようなお話に覚えがあるなと思い出して、それで、前世でそのようなお話を読まれたとか、そう言うことではないかと、僕がお伝えしたんです」
だから、予知夢だとか、そういうものではないのではないかと。
話を聞きながらその時の状況を想像してみて、俺は思った。
シェラ、察しよすぎない? 名探偵かよ。やっぱ天使だな、と。勿論、口に出すのはやめておいたけれど。
「ああ、僕も多分、前世の記憶がなければ、そこまでは思い至れなかったと思いますよ。でも、僕は僕自身、前世の記憶を持っている自覚があったので、そう言ったことには特に関心を持って調べたりもしていて。だから、余計にもしかしたらって」
名探偵は名探偵になるべくして名探偵になっていたらしい。
いや、名探偵ではなくて天使だけれども。
いずれにせよ話を聞いている限り、シェラはただの恩人だった。
「ルニア様は、それで少し安心なさったみたいでした。そのようなきっかけで、親しくさせて頂くようになったのです。僭越ながら、ルニア様には信頼頂けたようで……僕も、それにお応えしたく、今もお仕えさせて頂いております」
だから、覚醒者だということも隠していたわけではないと、シェラはそんな風に言葉を結んでにこと微笑む。
多分きっと、シェラにとっては当たり前のこと過ぎて、わざわざ告げるようなことではなかったというだけの話なのだろう。
生まれつきだというのなら、そうだろうと俺も思う。
シェラの微笑みはめちゃめちゃ可愛いかった。
天使の微笑みだ。
俺は、とりあえずシェラが天使で恩人だということだけを理解した。
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