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しおりを挟むいずれにせよ覚えがなく、思い出せないことだけは確かだ。
「ルニア様は先日、BL小説? のお話をして下さいましたね。とても好きなお話で、僕や殿下もそこに出てきたのだと。その際、ご自身については何もおっしゃっておられなかったかと記憶していますが、そのお話にはルニア様ご自身もお出になっていらっしゃったのではございませんか?」
言われて、昨日自分がシェラに、どんな風に話したのだったかと思い出した。
好きだったBL小説、とりわけラティについて熱く語って、そして……全く意識してのことではなかったが、そうだ、確かに、ルニアについては何も言わなかったような気がする。
だって、俺の最推しはあくまでもラティで、あと、シェラも推しだけど、ルニアはあくまでも適役? と言えば良いのか、そういう役割だったから、主役二人ほどの思い入れがなかったのだ。
だから話題にすら出さなかった。
パチリ、目を瞬かせる俺の言われてみれば、と、きっと顔で言っているだろう様子を見て、シェラが小さく、くすと笑う。
「僕に初めて声をかけてきた時のルニア様は、むしろそこが気になって仕方がなかったようでしたよ? その小説の中でルニア様は、あまり良い描かれ方をしておられなかったのですよね? とても取り乱しておられて、自分はひどいことなんてしないと、僕に訴えかけていらっしゃったのです。もし、知らぬ間にひどいことをしてしまっていたら、遠慮なく教えて欲しいと、そう」
「あ~……なる、ほど?」
確かに、小説の中でルニアというと、随分と悪い奴だった。
それを気に病んだということなのだろう。以前の自分を思い返して、確かに、我ながら気にしそうだなと納得した。
ルニアは、なんと言えばいいのか、あまり悪意、のようなものと触れ合わずに育っている。
少なくとも、覚えている限りはそう。
小説に出てきたルニアは、確かに、以前の俺の周りには、どこを探してもいないだろう悪意の塊のような存在として描かれていた。
それが自分なのだ。取り乱してもまったくおかしくはない。
「ルニア様は……今のルニア様の方が、視野が広くていらっしゃいますね。冷静でもおられる」
柔らかに微笑みながらそう言われて、流石に首を傾げる。
冷静? どこが? 自分では随分とテンパってるとしか思えない。
ただ、以前のルニアとは反応が違うだろうことだけは間違いがなかった。
それに、こんな所で話を止めてはあまり良くないだろうということぐらいはわかるので、敢えて言葉は挟まず、まだ更に続きそうなシェラの言葉をおとなしく待つ。
語られたのは、俺の覚えていない俺の話だ。
「僕とルニア様が、親しくお話させて頂くようになったきっかけは、ルニア様が僕に、お声がけ下さったことでした。突然、僕の名前を確かめるように口になされて……」
そこでいったん言葉を切ったシェラが、当時の俺とのやり取りを思い出しているのだろうことはわかった。
俺も想像してみる。
以前の自分から想定すると、きっと、
『き、君っ……! フロシエラ・ノムリエト?! ほ、ほんとにいた……!』
とか、そんな感じだ。多分。思い出せないけど。
「そして、自分が何か、僕にひどいことをしていないかと、どこか怯えたように確認していらっしゃいました。勿論、その時が初対面でしたので、ひどいことも何もなかったのですけど、よくよくお話を聞いてみると、何やら、夢を見られたのだと」
その夢の中で、ご自身が僕に、よくない事をしておられたのだそうです。
そんな風に続けられて、俺はどんな顔をすればいいのかわからなくなった。
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