41 / 141
11-2
しおりを挟む他でもないシェラ本人が近くにいるのだから、聞かないわけにもいかないだろう。
シェラは戸惑っているようだった。
戸惑わないはずがないだろう。
俺の両親が知っていたということは、俺自身も当然、シェラが前世の記憶を持っていることは、把握していたに違いないのだから。
俺の記憶は、高等部の辺りから一部曖昧になっているようなのだが、当然シェラは、そんなことまでは把握できていないのだ。
少なくとも、いったいどんな記憶がどう曖昧なのかなどと言うことは。
なにせそれは俺自身でさえ、正しく理解しているとはいいがたい部分で、俺がわかっていないというのに、他の誰が把握できるというのだろう。
「隠していた、わけではないのですが……」
返答にも困ると言ったシェラの様子に、俺は小さく首を横に振った。
「ああ、いや、すまない、ごめん……責めているわけじゃないんだ。ただ、思ってもみなくて……えぇっと……どうも俺、その辺りの記憶が……」
曖昧なようで。
そう呟くと、途端、シェラがきゅっと険しく眉根を寄せた。
「どういうことです? ルニア様として過ごされてきたことを、お忘れになっているわけではないと、」
そうおっしゃっていらしたのでは?
逆にそんな風に問い詰められると、今度は俺の方こそ、どう応えるべきか戸惑ってしまった。
「記憶を、失っているだとかいうわけではないとは思うんだけど……ところどころ、曖昧な所があって……」
自分でも正確に、どこがどうとは説明できないのだけれど、具体的に言うならば主に高等部時代のこと、特にどのような経緯でシェラと近しくなったのか、その辺りが思い出せなかった。
おそらくは、シェラが前世の記憶を持っているだとか言うことも、その思い出せない部分の中で知ったことなのではないかと思う。
「なるほど、それで……」
どうやらシェラは俺の曖昧な自己申告だけで、だけど納得できる何かがあったらしい。
そうでもなければ腑に落ちない、と思うような言動があったということなのだろうか。
俺にはやはりよくわからなかった。
「シェラ?」
眉根を寄せた俺に、今度はシェラが小さく首を横に振る。
「いえ、大したことではありません。ただ、少しだけ疑問に感じていたことがあるのは確かなのです。とは言え、いずれにせよ、前世を思い出す、だとか言うことは何をどう混乱なさっていらしても、おかしくはないことですから」
仕方がないと言えば仕方がない。
言いながらシェラは、少し迷うそぶりを見せ、かと思えばすぐに、何かを決めたというように、僅かばかり強い眼差しで、俺を改めて真っ直ぐ見つめてきたのだった。
「ルニア様。少し、お話を宜しいでしょうか?」
訊ねられ、俺は気圧されそうになりながら頷いた。
「あ、ああ、勿論」
断る理由など、どこにもなかったので。
55
お気に入りに追加
2,049
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる