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 他でもないシェラ本人が近くにいるのだから、聞かないわけにもいかないだろう。
 シェラは戸惑っているようだった。
 戸惑わないはずがないだろう。
 俺の両親が知っていたということは、俺自身も当然、シェラが前世の記憶を持っていることは、把握していたに違いないのだから。
 俺の記憶は、高等部の辺りから一部曖昧になっているようなのだが、当然シェラは、そんなことまでは把握できていないのだ。
 少なくとも、いったいどんな記憶がどう曖昧なのかなどと言うことは。
 なにせそれは俺自身でさえ、正しく理解しているとはいいがたい部分で、俺がわかっていないというのに、他の誰が把握できるというのだろう。

「隠していた、わけではないのですが……」

 返答にも困ると言ったシェラの様子に、俺は小さく首を横に振った。

「ああ、いや、すまない、ごめん……責めているわけじゃないんだ。ただ、思ってもみなくて……えぇっと……どうも俺、その辺りの記憶が……」

 曖昧なようで。
 そう呟くと、途端、シェラがきゅっと険しく眉根を寄せた。

「どういうことです? ルニア様として過ごされてきたことを、お忘れになっているわけではないと、」

 そうおっしゃっていらしたのでは?
 逆にそんな風に問い詰められると、今度は俺の方こそ、どう応えるべきか戸惑ってしまった。

「記憶を、失っているだとかいうわけではないとは思うんだけど……ところどころ、曖昧な所があって……」

 自分でも正確に、どこがどうとは説明できないのだけれど、具体的に言うならば主に高等部時代のこと、特にどのような経緯でシェラと近しくなったのか、その辺りが思い出せなかった。
 おそらくは、シェラが前世の記憶を持っているだとか言うことも、その思い出せない部分の中で知ったことなのではないかと思う。

「なるほど、それで……」

 どうやらシェラは俺の曖昧な自己申告だけで、だけど納得できる何かがあったらしい。
 そうでもなければ腑に落ちない、と思うような言動があったということなのだろうか。
 俺にはやはりよくわからなかった。

「シェラ?」

 眉根を寄せた俺に、今度はシェラが小さく首を横に振る。

「いえ、大したことではありません。ただ、少しだけ疑問に感じていたことがあるのは確かなのです。とは言え、いずれにせよ、前世を思い出す、だとか言うことは何をどう混乱なさっていらしても、おかしくはないことですから」

 仕方がないと言えば仕方がない。
 言いながらシェラは、少し迷うそぶりを見せ、かと思えばすぐに、何かを決めたというように、僅かばかり強い眼差しで、俺を改めて真っ直ぐ見つめてきたのだった。

「ルニア様。少し、お話を宜しいでしょうか?」

 訊ねられ、俺は気圧されそうになりながら頷いた。

「あ、ああ、勿論」

 断る理由など、どこにもなかったので。
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