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しおりを挟む俺が今いるのは朝食の後そのまま、テラスの椅子だった。
先程まで使用していた通信用の魔道具は目の前のテーブルの上。
シェラは侍従らしく傍らに立っている。
「座れよ」
話、というのならと、俺はシェラに目の前の席を進めた。
朝食の時に、ラティの座っていた椅子だ。
シェラは一瞬変な顔をして、でも。
「話すんだろ? だったら、そのままじゃ俺も聞きにくい」
そう、重ねて促せば、シェラ自身、それでようやく納得できたのか、渋々という様子を隠さずに、ようやく腰を落ち着けることにしたようだった。
「では、失礼して……」
侍従という立場ゆえもあり、遠慮していたということなのだろう。
シェラはどうにも居心地が悪そうだ。
だけど、こうして改めて向かい合わせに座ると、シェラはやはりどこまでも顔がよかった。
物凄くかわいい。やっぱり、天使か何かなんじゃないかと思う。
濃いめのピンク色の髪とか、主人公のテンプレだ。
「? ルニア様?」
あまりにじっと見つめすぎたのか、怪訝そうに名を呼ばれて、俺ははっと我に返った。
「あ、あ、ごめん、すまない、話し、だったな、えぇっと、それで……」
いったい何の話なのか。
そうだった、何か話があるというので、座ってもらったのだ。
シェラはそんな俺の、きっとどう見ても挙動不審な様子に一瞬きょとんと待たば気をして、だけど次いでくすと噴き出した。
「ふふ……ははっ、そ、そうしてると、ああ、本当に……まるで別人みたいですね……」
これまでのルニアとは、ということだろう。
俺は憮然と口を尖らせた。
「なんだよ……別に、別人ってわけじゃないし……」
俺は別に、ルニア以外の誰かになったつもりなどなく、だけど、確かに、記憶を思い出す前とでは、全く人格からして、違って見えるのだろうということぐらい、流石の俺も自覚していた。
それは俺自身よりもきっと、周囲の者の方が強く感じられるのではないだろうかというのも同時に。
「ふふ。わかってますよ」
シェラが笑う。可愛らしく。
しばらく笑って、ようやく笑いをおさめたシェラは、笑い過ぎで滲んでしまっていた目尻の涙をぬぐいながら、改めて俺を見た。
「ルニア様はルニア様ですものね。それは僕にもわかります。でも、そうですね……ええっと……僕のことを、覚えていないだとか、そういうのでは、ないんですよね……」
迷いながらの言葉に、俺は頷く。
「ああ。高等部では、よく一緒にいたよな。それは、覚えてるんだ」
「ええっと、でも……僕が覚醒者だと知らなかったということは、ご一緒させて頂くこととなったきっかけなどは覚えていない、ということでしょうか?」
この話ぶりだと、きっかけとその事実は切り離せないものだということなのだろう。
俺は少し考えた。否、思い出そうとした。だけど。
「あ~、駄目だ、思い出せない。そうだな、そうなる。今も思い出せなかった!」
記憶はぼんやりとかすみがかって、どうにも判然としなかった。
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