36 / 141
10-1・家族との通信
しおりを挟む「ルニア、部屋から出ることは許可できないけれど、代わりにこれを」
昼食後のお茶も終えて、仕事に戻ると立ち上がりかけたラティが、ああ、そうだ、思い出したとばかりに、そう言いながら差し出してきたのは通信用魔導具だった。
前世で例えるなら、電話のようなものである。とは言え、形状からして持ち運びがそれほど難しいものではないので、どちらかというと、固定電話というよりは携帯電話のようなものだけれども。
「え、それは……いいのか?」
部屋から出るのは許されないのに、外部との連絡は構わないと?
有難く受け取りながらも、正直理解しづらくて不審そうな顔をしてしまう。
ラティはそんな俺にひょいと肩を竦めた。
「君と家族との連絡まで許せないほど、狭量ではないつもりだよ」
そもそも君の今の状態はすでに連絡済みだし、だからこそ向こうも気にしているだろうしね。
君からも連絡を取った方が、ご両親もより安心できるんじゃないかな。
などとも続けられ、連絡先は両親などの家族しか想定されていないことを知った。
ちなみにルニアとしての記憶を辿った限り、これまでルニアが家族以外と連絡を取ったことなどないし、他の連絡先など何処も知らず、そりゃ確かに家族しか想定しないなとすぐに納得もしたけれど。
「それに、君が自分自身を見つめ直す手助けにもなるかもしれない」
話し相手がシェラと、他の侍従や侍女、護衛しかいないというのよりもきっといい。
とも続けながら、だから早く自分の気持ちを整理してくれ、とまで言外に告げられたような気にもなって、ラティにも利点があるということなのだろうなと頷いた。
この厚意は、素直に受け取るべきだろう。
「ありがとう……」
なんとなく面映ゆくなってポソと小さくしか告げられなかった礼に、返ってきたのはやんわりとした、慈しむような微笑みで。
俺は真っ赤に頬を染めて、執務へと戻っていくラティを見送ることとなったのである。
それが少し前のこと。
すっかり片付けられたテーブルの上に、通信用の魔道具だけ乗せて、俺は少しだけ迷っていた。
もちろん、連絡は取るつもりだし、取らない、などと言う選択肢はない。
これまでからしても、ラティのことだからきっと、俺から連絡を取る、という所まで向こうに知らせ済みで、なら、今頃もしかしたら、首を長くして心待ちにしているかもしれないとも思った。
だってルニアが覚えている限り、ルニアの家族というのはそんな人たちだから。
一人、幼い頃から他国で過ごさざるを得なかった俺のことは、家族全員が気にかけてくれていた。
それを俺はちゃんと覚えている。でも。
「流石に緊張する……」
だって、今の俺になって、はじめて家族と話すのだ。
ルニアとでは、随分違ってしまった自覚がある俺としては、緊張しないわけがなかった。
60
お気に入りに追加
2,051
あなたにおすすめの小説
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです
飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。
獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。
しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。
傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。
蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる