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しおりを挟むもし、受け入れてもらえなかったら?
なんて、そんなことは全く思ってもいないし、心配すらしていない。
でもそれは、だから気軽に連絡が取れる、だとかいうのともまた別で。
名状しがたい自分の躊躇いの理由を自分でもうまく見つけられず、ついには俺は、
(ええい、ままよ!)
思い切って、通信を繋げることを選択した。
とは言え勿論、こちらから呼びかけても、あちらで受けてもらえなければ、すぐにはつながらないのだけれど。
その辺りは電話と同じである。
使い方を忘れている、などと言うことはない。
だって、こちらもちゃんと覚えたままでいられた相手側の通信用魔導具の座標を指定し、魔力を流すだけなのだから。
座標の指定さえ、脳裏に思い描くだけで済んだ。
何かを何処かに入力するだとかすらないのである。
(手軽と言えば手軽だよな……)
とも思いながら魔力を流し続ける。
適当に呼び出したらいったん切って、あとは向こうからの折り返しを待とうかな、などとちらと思い始めた時だった。
『ルニアっ?!』
ぶつんっ、などと言う音すらなく、ぶわっと、いきなり、目の前に広がったのは映像で。
その中ではとても品のいい男女が、慌てたような表情でこちらを見ていた。
くすっ、知らず、笑みをこぼしてしまう。
記憶にあるまま、何も変わらないその様子が嬉しかった。
「お久しぶりです、お父様、お母様」
くすくす、収まらない笑いの合間に、何とかそう挨拶を口にした俺の様子を、いったいどう受け止めたのだろうか。
『ルニア……』
彼ら二人は、どこかほっと、安堵した様子を見せ、少しだけ先程よりも落ち着きを取り戻したようだった。
ルニアは、実はそれなりの頻度で、普段から両親や兄弟などの家族と連絡を取り合っていた。
何なら、この通信用魔導具は、ルニア個人の所有している物であるぐらいだ。
この世界において通信用魔導具というものは、それなりに高価で稀少なものとなっている。
何より、使用に必要な魔力量は、貴族でもなければ難しいという程度には多かった。
なにせ例えばこの王宮内にある通信用魔導具の総数さえ、両手の指で足りるほど。
それはたとえどの国であっても、この近隣であれば大きな違いなどない。
各地の領主邸や、もしくは教会、あるいは協会の事務所や商会など大きな施設で一つか二つ、常備しているか、していないかという程度のものなのである。
そんなものを、個人で所有して、頻繁と言えるぐらい、頻度高く使用していたのだから、いかにルニアが家族と良好な関係であったのかがわかるというものだろう。
当然、ルニアに通信用魔導具を持たせたのは両親だったのだ。
最もルニアに、それが決して一般的ではない、などと言う自覚はなかったようだけれども。
(なんで通常の通信用魔導具の使用頻度や用途の知識はあるのに、そこに思い至らなかったんだ、ルニアっ……)
ルニアは決して無知ではない。
だけど、少々……ぼんやりしたところはあったのではないかと、今の俺からすると思えてならなかった。
こんなこと一つとってもよくわかる。
ルニアは周囲から愛されている。
それが、なんだか今の方がよく理解できて。
俺は居た堪れないような気恥しさを覚えずにはいられないばかりなのだった。
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