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しおりを挟むラティが、言いながら少し伏し目がちになっていっていた視線を上げて、改めて俺を見る。
「ルニア」
その眼差しは、やはりどこかやるせなさそうだった。否、寂しそうと言えばいいのか、辛そうと、言えばいい、のか……それでも、微笑んでいる。
そして何よりそこに、ルニアへの好意があることだけは間違いがなかった。
「ラティ様……」
呟いた名は、ラティにどう響いただろうか。静かに、ラティは言葉を続けた。
「時間が欲しいと、昨日君は言っていたね」
俺は頷く。
(あ、その後の思い付きの方はスルーなんですね、ですよね……)
とも、ちらと思いながら、今そんなこと言うべき場面じゃないことぐらい、流石の俺でもわかったので口を噤んだ。
ラティが、そこでそっと視線を逸らした。
窓の外、庭を見る。
俺もつられてそちらを見た。
緑が眩しい。
「私だって何も君に無理を強いたいわけじゃない。君が混乱していることも理解はしているつもりだ。出来れば君自身にも、私を受け入れて欲しい。だから……」
そこで一瞬目を伏せ、そして改めて俺へと向き直った。
俺も知らず雰囲気で察したのだろう、気付けば自然、ラティの方へと向き直っていた。
真っ直ぐな眼差し。
青い煌めきが、やはり眩しかった。
「君が望む通り、時間を取ろうと思う。ただ、そこまで長くは難しい。……君の今の状態もあるからね。そこから考えて、長くても……1週間、かな……勿論、少しでも君の体調が思わしくなさそうだと私が判断すれば、すぐに切り上げさせてもらう」
状態、で示されたのは腹部。
子供には魔力がいる。
一週間、はむしろ持たないのではないかとすら思いながら、俺は控えめに頷いた。
俺だって無理をしたいわけではない。
「約束しよう。少なくともその間、夜は別にするし、君にも過剰には触れたりしないと。ただ、そうだね……日に最低1回は、今のように食事を共に摂らせては欲しい、かな」
それで我慢するから。
と、にこと微笑んだラティの、それがどうやら譲歩らしいと悟って、俺は今度はしっかりと頷いたのだった。
「ああ、でもごめんね、流石にその間はこの部屋にいてね。出させてはあげられないから」
むしろそれが条件かなぁなどと言う言葉に、
(え、結局、軟禁は続行ってこと?)
なんて、少しばかり複雑な気分にもなったりしたけれど。
いずれにせよ、頷く以外の道は、俺には思い浮かばなかったので。
それは俺の最長一週間――……になるかもしれない、軟禁生活の始まりだった。
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