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しおりを挟むその後は、また読書に戻る、というようなことはなく、早々に寝室に向かったのだが、予想していたほどには、昨夜のことを思い出したりなどもせず、それに関しては助かったと言ってもいいだろう。
否、それどころではなかったと言い換えてもよかったかもしれない。
ごろりと、やたら広いベッドに一人、横になった俺の思考を占めていたのは、それでもラティのことだけだった。
ラティは前世からの推しだ。
それは間違いない。
勿論、前世で読んだ小説の通りではないことぐらい理解しているし、そもそも全く同じだなんて考えてもいなかった。
なにせ前世で読んでいたのは小説。
ビジュアルは表紙や数少ない挿絵ぐらいで、他は脳内で勝手にイメージしたものしかわからない。
それでなぜ一目見ただけでラティだとわかったのか。
そんなものは、ルニアとしての記憶も全く失ったわけではなかったからに他ならない。
そうでもなければあんなにもすぐに、イコールで結びついたりなどしなかったことだろう。
シェラについても同じである。ルニアについても。
ルニア……。
何となく自分と、前世で出てきた小説の登場人物とを思い浮かべて、ツンと自分の髪の毛を引っ張った。
髪の長さはそうして初めて少し、視界の端に見える程度。
間違っても長く伸ばしてなんていない。
むしろ、俺とシェラとラティとなら、一番髪が長いのはラティだろう。いつも首の後ろで一つに縛っているからわかりにくいのだけれど。
先程通りすがりざま、鏡台で見た自分自身の容姿を思い出す。
淡い紫色の髪に、青紫の瞳。見るも寒々しい色合いの、ぎょっとするような美貌。
「見た目は同じなのに……」
ルニアのみならず、何故かシェラも、ラティもそう。
例えば髪形などと言う、一番変わりやすい要素一つとっても、前世で見た小説の表紙とぴったり一致するのである。
勿論、あちらはイラストでこちらは現実なのでまったく同じであるはずがない。でも髪色や前髪の癖なんかもよく似ていた。
まるで出来のいいコスプレのように。
あの朝は、本の中からそのまま出てきたようにも見えて、より混乱してしまった部分もあるのだとは思う。
だから、離縁だとかなんだとか口走った。
「そんなの、叶うわけがないのに……」
なにせ俺とラティの婚姻には国同士のしがらみが絡んでいる。
おまけに今、俺のお腹の中にはラティとの子供まで成っていて。
それで離縁だなんて、出来るわけがないのはすぐに分かった。でも。
「あの時は混乱してたんだよなぁ……」
そもそも俺は前世からしても、物語の中のキャラに成り代わりたいだとか思うタイプではなく、壁になって思う存分見守りたいと思う派だったのだ。
あくまでも言わば傍観者がよくて当事者になりたいわけじゃなかった。
そういった欲求が先走った結果だったのだけれど。
なお、その欲望は、今も変わらず俺の中にあるのである。
ラティのことが好きだとか嫌いだとかそういう話ではないし、その基準で行けば間違いなく好きなのだ。
ルニアがラティに対して抱いていた恋心だって、全く忘れてなんかいない。
だから、結局は。
「落ち着ける、時間が欲しい。……それだけなんだけどなぁ……」
今もまだ、混乱は解けていないから。
そんな風に色々とぐるぐる考えながら、気が付けば俺は、ほどなくして眠りに落ちたようだった。
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