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08-2
しおりを挟む少し前の自分の無謀さに溜め息を吐きながら、のろのろとテラスまで移動する。
それなりの大きさの、ソファとまではいかずとも、深く身を沈めると心地よく思える椅子に腰かけ、またしてもだらしなく体を預けた。
今までならありえない力の抜き方に、こんな所もルニアらしくないなとちらと思う。
やはりどう考えても今の俺が、前と同じように振る舞うのは難しそうだった。
予めある程度は用意してあったのだろう、シェラが手早くテーブルに並べてくれた夕食は、王宮でこんなものが食事として出てきたことがあっただろうかと首を傾げるぐらい簡素で。
だけど今の俺は、その簡素さに何故かほっと安堵の息を吐いた。
今の立場を思うと仕方のない部分はあるのだけれど、そもそも、王族だけあって、これまでルニアが摂ってきた食事は三食とも、基本はコース料理のようなものばかりなのだ。
勿論、朝は少し軽めにはなるし、夜は心持ち量も多い。
それを思うと今、テーブルに並べられているのはあっさりしてそうな海鮮のパスタと、とても簡素で。貝の実らしきものと魚の白身に見えるものが和えられていた。
あとはスープとパン、サラダが添えられていて、特にスープには肉団子のようなものが入っているようなので他にメインが出てくるとも思えない。
やっぱりいつもとは違うなとぼんやり思った。
「お気に召しませんでしたか? 体調が思わしくないままでしょうから、軽めの物をご用意致しましたが……特に、思い出された前世は立場があるような方ではなかったのですよね? それを踏まえて少しばかり、庶民よりにもさせて頂きました」
シェラなりに気を使ってくれたようだと知り、俺は慌てて首を横に振る。
「え?! いや、助かったよ、ありがと」
これでいつも通りの豪華と言える夕食など出てきていたら、きっと、ほっと息を吐く、などと言うわけにはいかなかっただろうから。
(マナー、とかは多分、大丈夫だとは思うけどな……)
ルニアとしての記憶も勿論、体に身に着いた習慣のようなものもあった。
特にルニアは隣国の第三王子とはいえ、生れながらの王族なのだ。早々忘れてしまえるようなマナーを教えられたりしていない。
思い返してみると、昼食も、軽食だと出されたサンドイッチのようなもので済ませてしまって、他に改めて摂るなどと言うことはなかった。
ぼんやりと本を読みながら、そこから目を反さず三時のお茶? おやつ? のような物は食べたような気がする。
大変にお行儀が悪かったが、それぐらい本に夢中だったのだ。
シェラも特に咎めたりしなかった。
(物は、あれはフィナンシェのような焼き菓子、だったような……)
それさえ曖昧になっているだなんて、どれだけ本にばかり意識を向けてしまっていたのだろう。
流石に今は、ソファに置いて来てあった。
ほとんど何も考えず、習慣に従って行儀よく夕食を摂って。前世では食べたことのない、だけど妙に舌に馴染む味に、ルニア自身はこれまで同じような料理を口にしてきたのだなと、しみじみと思い知る。
それぞれ料理の名前ひとつわからないけれど、きっとわかる必要はない。
添えられたパンも、流石にやたらと美味しくて温かい。
なんとなく、今、目の前に誰もいなくて、暗い夜の庭しかなくて。……ラティが、居なくて。それが妙に寂しく思えた。
今、俺は決して部屋に一人というわけではない。
侍従も侍女も護衛も、シェラも傍にいる。いないのはラティだけ。
おそらく食堂に行けば、いまだ健在な義父母に当たる国王陛下や王妃殿下にもお会いできることだろう。今までと同じだ。
勿論、彼らにだって、それぞれに用事があることもあり、常に食事を共にしていたわけではないけれど、ルニアはいっそラティよりも義父母にかわいがられていたほどだった。
多分、幼い頃からラティの婚約者として成長していく姿を見られていたというものあるのだろう。
王子妃教育や王妃教育では、流石にラティとは同じとはいかず、その代わりのように王妃殿下が立ち会われることもしばしばだったから余計に。
『ルニアちゃんは本当に可愛いわぁ、ラティとは大違いね』
あの子は本当に可愛げがなくって。
などと折に触れ言われたのをよく覚えている。
王妃殿下のみならず陛下にも同じようなお言葉を頂いた覚えがあり、そんな彼らとお会い出来ればきっと寂しくないだろうなとなんとなく思った。でも。
(一番、足りない、そう思うのは、ラティ……)
目の前にラティがいない。あるいは横に寄り添うぬくもりがない。
今夜はこのまま一人。
それは間違いなくゆっくりと眠れるということに他ならないのに。
(寂しくて仕方がないだなんて……はは。これこそがルニアの感情かな……)
小さく自嘲する。
自分はやはりルニア以外の何物でもない。
そう実感しながら夕食を終えた。
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