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06-5
しおりを挟むそんな俺は、シェラの目にいったいどう映ったというのだろう。
あるいは今まで話した俺の前世の話を、いったいどう受け取ったというのか。
俺の様子を注意深く窺いながら、シェラがおずおずと口を開く。
「それで、あの……結局、ルニア様はどうなさりたいのです?」
聞きたいのはつまり結論。今の俺が、現状をどう考えていて、今後どうしていきたいと思っているのか。
「お話を聞いていると、前世での小説? でしょうか、それに大変にこだわりと関心をお持ちになっていらっしゃることはよくわかりました。同時に、前世でのお気持ちが強くあり、殿下のご寵愛が受け入れがたくなっていることも。確かに、殿下は少々ご寵愛が深すぎる所があるようには僕も思います。ですが、前世から、殿下には好意を抱いていらっしゃったのですよね? 先日、口に出しておられた離縁も、得策ではないことはすでにお分かりのはず。何より記憶などもおありになるとのこと、以前にお有りになった殿下へのご厚意が全くなくなったようにも見えません。それらを踏まえて、いったい今のルニア様は、何を希望しておられるんですか?」
全てを可能な限り理解した上、敢えて訪ねているといった様子のシェラからの質問に、俺は結局口を噤む。
だって、それがわかれば、俺は今こんなにもどうしようもない気分になっていないのだ。
前世のことを思い出した。
それもあり、例えばこの丸2日のことを、あり得ないと思うようになってしまった。
多分、以前のルニアなら、
『ラティ様が必要だと判断なさったのでしょう? だったら、仕方がないことなのではないでしょうか』
なんて、多少の苦しさや怖さなど、受け入れてしまっていたのだと思う。
それぐらいには、ラティのことを信頼していたからだ。
なぜならば初夜にしても夜毎の行為にしても、特にルニアが望んでいたというような覚えがない。
ただひたすらにルニアは、ラティからの愛を受け入れることで、ラティへの愛を示していたに過ぎなかった。
好意があるからこそ、受け入れていたのだ。
その時と同じ気持ちが、今の自分にあるかと尋ねられると、決してあるとは言えなくて。でも。
(ラティのことが『好き』なんだ。それは変わらない。だって推しだし。でも、『好き』の意味が変わってしまったのも本当だ)
ラティはかっこいい。見惚れてしまう、憧れる。
ずっと眺めていたいと思う。いっそ壁かラティの服になって、常に見張っていたいとすら思う。
どんなラティだって、この目につぶさに納めたいし、知りたいとも思う。
例えば細々とした小さなことだって、ラティのことなら知りたい。
だけどそれは、今の立場ではかなわないのではないかとしか思わなかった。
何より俺はラティと触れ合いたいわけではなく、眺めていたいだけなのだ。
だって、推しだから。
推しってそういうものだろう?
少なくとも、俺にとってはそう。それは、前世から変わらない。
愛を囁くラティの姿だって、俺は向けらたいのではなく見つめたかった。
そしてその相手は、出来れば俺も認める天使! シェラだとなおいい。
こうして話していても、聡明なことに間違いはないし、何よりお似合いだと思うのだ。
かっこよくて男らしいラティと、俺より小柄でかわいらしいシェラ。理想のカップルっていうものだ。ラティの相手はシェラ。間違っても、
(ルニアじゃない)
だけど。
だからと言って、あれほどまでに俺へと愛を向けてくるラティを、無下にしたいわけでもなかった。
「それがわかれば、苦労しないんだよぉ……」
溜め息と共に目をつぶる。
弱音を吐く俺を、シェラはやはり気づかわしてに伺っていた。
なんとなく何かを気にしているようには見えたけど、それが何かはわからない。
「殿下のご寵愛を、受け入れたくない、わけではないのですよね?」
ただ今は素直に受け入れられないだけで。
確かめるような問いかけに、俺は頷く。
「うん、そうだな。せめて時間があれば……今は何を言っても、気持ちが追いついてないんだ。全然落ち着けてない」
何なら、前世を思い出したあの朝から、俺の混乱はちっとも溶けていないのである。だから。
「急には無理だよ」
ついていけない。
それが正直な気持ちだった。
「はっ! 離縁できないまでもお飾りになればっ!」
そもそも俺とラティの婚姻には政略的な意図も含まれている。
実際にはシェラと存分にいちゃついてもらって、俺は表向きの妻として、とりあえず今、お腹に成っているこの子だけでも産んでしまえば、後継とかもうるさくなくなるだろうし、誰にとってもwin-winなのでは?!
などと画期的な提案を思いついたと、今度は口に出した俺に、
「ルニア様……」
と、隠しもしない呆れかえったシェラが諫めようと、力なく呼んだ名が、返事のようにじめっと部屋に落ちたのだった。
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