【完結】気がつけば推しと婚姻済みでかつ既に妊娠中だったけど前世腐男子だったので傍観者になりたい

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
28 / 141

07・現実逃避を試みる

しおりを挟む

 シェラの、

『出来るわけないでしょ、そんなこと』

 と、言わんばかりの呼びかけの後、大方の予想を裏切って、昼になってもラティは戻って来なかった。
 てっきり、また、ベッドに拘束されるのでは? と思っていた俺は、なんだか拍子抜けしてしまう。ただ。

「ルニア様、本日はお部屋から出ないようになさってくださいね。退屈かもしれませんが、お疲れであることは間違いないでしょうし、今日は一日ゆっくりと休んで、心と体を落ち着かせてください」

 とも言われ、

(あれ? これって軟禁では?)

 と、ちらと思った。
 とは言え、部屋と言っても、寝室と、ラティやシェラと話した、応接セットのある広い部屋、それに風呂とトイレも直接行けるようについていて、何なら窓際は照らすと言えばいいのか、一部ガラス張りで、ちょっとしたサンルームのようにもなっていた。
 閉塞感はまるでないが、しかし部屋から出られないのは事実。
 拘束などをされているわけでもないけれど、シェラが基本的にはずっと傍で見張るように控えているようだし、他にも護衛が侍従なんかが数人付いているようだった。
 今の、間違っても本調子ではない体調を抱えて、彼らをどうにかできるような気は自分でも全く一切しない。
 何より無理に部屋から出たいだとかいうわけでもなかったので、

(まぁいいか……)

 と諦めて、シェラが促すまま、ゆっくりと過ごすことにする。
 寝室に戻ることだけは、断固として拒否させて頂いたけれども。

(いや、だって、寝室だぞ?! き、記憶がっ……!)

 ラティとのあれやこれや・・・・・・が否が応でも蘇ってしまう。
 より落ち着けなくなるとしか、思えなかったからだった。
 シェラ以外の人の目がほとんどないのをいいことに、ソファに懐きながらだらだらとして過ごした。
 なお、厳密にはシェラ以外の侍従や護衛なども部屋の隅や外に気配を薄めて控えているのだが、流石のルニア一国の王子とでも言えばいいのか、彼らの存在は当たり前すぎてルニアの意識には上らなく、この時の俺も、全く気にもしていなかくて、後々思い返して、

(ああ、やっぱり俺は『ルニア』なんだな……)

 なんて思ったりした。無意識、あるいは習慣というのは恐ろしいなと思わざるを得ない。
 それはともかくとして、そもそも体調が思わしくないのは間違いなく、シェラもそれはわかっているのだろう、特に咎めたてられたりもせず、ラティから指示されているのは、『ルニアを部屋から出さないこと』、その一点であるらしく、

「ルニア様、お時間を持て余すようでしたら、何か本でもお持ちしましょうか?」

 なんて提案されたりもした。

「んー、今はそういう気分じゃないかなぁ……ありがと」

 と、いったん断って、だけどすぐにはっと気づく。

(ん? 本?)

 と。
 読書に限らず、何もする気が起きなかったのは本当なのだが、思い至ってしまったのだ。

(BLってこの世界にもあるのでは?)

 なんてことに。
 ルニアとしての記憶を思い出す限り、この世界では恋愛で性別などはあまり大きな意味を成さない。
 特に子供を成すだとかに関して、性別の関係がないからだ。
 ただし、好みだとかの問題で、お互いに異性を恋愛対象とする場合が多くはあるようではあるのだけれど。逆に言うと、『恋人』に異性を選ぶのはただの好みでしかないということである。
 そういった背景を踏まえて、こちらで恋愛小説というと、登場人物の性別がさまざまであることが主流だった。
 つまり、男同士や女同士、男女あるいはその逆などがごちゃ混ぜに描かれているのである。

(闇鍋か何かかな?)

 とも思うがあながち間違っていないことだろう。
 そしてこちらも好み・・の問題で、性別が固定されている書物も存在した。つまり。

(BLも普通にある!! 恋愛小説の中に!)

 ルニアは、読書自体はそれなりにしていたようだけれども、恋愛小説の類は、あまり好まなかったらしい。
 読んでいたのはもっぱら、歴史書や専門書、そうでなければ資料や、勉強の助けになるものばかりだったようで。

(真面目過ぎないか?)

 と、思う程。多分単純に忙しかったというのもあるのだろう。恋愛小説などの創作物のように、いわゆる娯楽に分類される書物を嗜む余裕がおそらくはなかった。
 なら、前世を思い出す前までのルニアがいったい日中、いったい何をしていたのかというと、それもやはり、勉強・・ばかりだった。
 自主的に色々な知識を詰め込んでいた覚えがある。
 あるいは国政とでも言えばいいのか、国内外のあらゆる情報を可能な限り把握していたようだ。

(少しでもラティ様のお役に立つために……)

 なんて。健気どころの話ではない。

(いったい何をそんなに焦って・・・いたんだろう……)

 娯楽にも目を向けられないぐらいにルニア以前の俺は常に焦燥感に駆られていた。
 何かきっかけがあったと思うのだが、何故か思い出せなくて。
 いずれにせよ、今の俺はルニアと同じような行動をとるつもりなどなく、それどころか。

「いや、シェラ、やっぱり読書する! あのさ、男同士主体の恋愛小説、とかも用意できるよな?!」

 などと申し付けてみる。
 シェラは俺が急に前言を撤回したことに驚いたのか、もしくはその発言内容があまりにも意外だったのか、目を大きく見開いて驚いていた。

「は、はい、もちろんっ、ご用意できますが……」
「なら、それ! 男同士なら何でもいいから、適当に見繕って持って来て! あ、シェラが直接持ってくるんじゃなくていいから、誰かに頼める? 面白そうなやつで!」
「面白そうなやつ? ですか……でしたら、おすすめ、ということでいくつか持って来てもらいますね」

 一応、シェラには他にも仕事があるかもしれないと、直接探しに行ったりはしなくていいと付け足すと、シェラも、もとよりそのつもりだったのか軽く頷いて、近くに控えていた侍従の一人に言付けていた。
 俺は部屋を出ていく侍従を目で追いながら、

(いやぁ、ラティとシェラのイチャイチャは見せてもらえなさそうだし、だったらせめて他でいいから楽しめればいいなぁ!)

 多分、俺は疲れていたのだ。
 ラティとのことばかり考えていて。昨夜、否、今朝までのあまりに爛れ切った閨のことを思い出したくなくて。
 だからそれは、かんっぺきに意識を逸らしたい、あるいは現実逃避がしたいという欲求の表れだった。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...