チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜

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123.杖

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「シア、これ一回しまって」
もうすぐコーラルさんの屋敷と言うところまできてケインが杖を差し出して
レティも不思議そうな顔をする

「コーラルさんを驚かそうと思って」
「驚かす?」
「うん。ほら、僕はいつも足を引きずって歩いてるのを知ってるでしょう?」
「まぁ…うちにもしょっちゅう来てるから当然だな」
「その僕が杖を持って足を引きずらずに歩いたら驚くかなって」
いたずらっ子のような顔をしてケインは言った
「それは絶対驚くわね」
「驚くな」
あのコーラルさんが驚かないはずがない

「わかった。杖は一旦預かるけど、今日は既に結構歩いてるから無理はするなよ?」
「うん」
強がっているという感じはないから多分大丈夫なんだろう
俺は杖をしまってケインを気にかけながら歩くことにした

「シアにレティシアナじゃないか。それにケインも久しぶりだな」
門の前に居たのはジーンさんだった
「久しぶり。セシリオは元気にやってる?」
「ああ。嫁も娘たちも構い倒してるよ。俺が休みの日は譲ってもらってるがな」
家族間で引き取った息子の譲り合いって…
まぁ愛されてるって意味ではいいのか?
「今日はどうした?予定は入ってなかったよな?」
「ああ、突然なんだけどコーラルさん空いてるか?母さんが作ったものでちょっと報告したいことがあって」
「サラサの?ちょっと待ってろ、確認してくる」
ジーンさんはもう一人の騎士に声をかけてから中に走って行った

「噂のシアにようやく会えたよ。俺はテオドール。よろしくな」
人懐っこそうな笑みを浮かべて騎士、テオドールさんは言った
「噂のって…あ、俺の紹介はいらないか。こっちはレティシアナで、こいつは弟のケイン」
「よろしくお願いします」
「お願いします」
レティが頭を下げるとケインも真似をする
「そんなにかしこまらなくていいよ。俺はまだ下っ端だから」
そう言ったテオドールさんは確かにジーンさん達と比べると若そうだった

「シア、入ってくれ」
こっちに向かいながらそう声をかけてきたのは確認しに行ったジーンさんだ
その声にテオドールさんは門を開けてくれた
玄関先まで出迎えてくれた従者と共に俺達は中に入った

「やあシア、サラサの作品の事で報告があるそうだね?」
「ああ。多分実際に見てもらった方が早いと思う」
俺は一旦預かっていた杖をケインに渡す
「木の棒?だが変わった形だね?」
色々考えてはみるものの用途は分からないと首をかしげる
「コーラルさん、僕足を引きずらずに歩けるようになったんだ」
「何?でもここに入ってくるときは…」
「うん。治ったわけじゃないんだ。でもこれのおかげで歩くのが凄く楽になったんだよ」
ケインはそう言って実際に歩いて見せる

「なんと…シア、これはもう登録されているのか?是非とも騎士達に支給したい」
コーラルさんは俺の肩を掴んで尋ねて来る
流石にここまで食いつくとは思わなかった
「ああ。ここに来る前に登録してきた。元々は商業ギルドに登録するだけのつもりだったんだけど、憲兵が負傷した騎士の希望になるって言うから」
「そうだとも。本当に感謝する。彼らは動くことさえできれば働く場所もあるんだ。これまでどれほどもどかしかったか…あとは足を失った者の対応が出来ればなお…」
「あ、その杖2本使えば片足が無くなった人もそれなりに動けるから。流石に両足になると義足が必要だろうけど…」
「義足?」
おっと…当然それもないか

「人口的な足っていうのかな?実際どんなものかは母さんと話してもらった方がいいかも」
「なるほど…それにしてもシアとサラサのいた世界は素晴らしいな」
「へ?」
「我々では諦めるしかないと思われていた状態の者ににまで希望を与えてくれる。サラサがこの世界にきたこと、そしてサラサと同じ世界の記憶を持つシアが生まれたことを神に感謝する」
「そんな大げさな…俺も母さんもどっちかと言えばやらかしてることの方が多いくらいだし…」
「ふむ…そこは否定できんな」
コーラルさんがしみじみ言ったせいで俺達は吹き出してしまった
コーラルさんはこの日すぐに杖の手配をして翌月にはこの町の負傷した騎士全員に杖が支給されることになる
そのうち国中の負傷した騎士に行き渡るのも遠い話ではないだろう
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