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__出ていった二人は。

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 一方その頃、庭園では──。

「はぁ……風が気持ちいいわね、ジョセフ」
「……ああ、そうだね」

 垣根に囲われた噴水、満天の星空。丁寧に育てられた花の香りがより一層ムードを引き立てる。
 人の気配はするものの、こんな暗い場所へ何しに来たかだなんて分かっているから皆丁度よい距離感を保っている。

 だけどクリスティーヌは感じ取っていた。彼のいつもと違う空気をこれでもかと敏感に。

「…………ごめんね、ジョセフ」
「え?」
「さっきは取り乱しちゃって。エマさんが、ジョセフを取り返しに来たのとかと思って……すごく焦っちゃったの」
「そ、そうか。そうだったんだね。私の方こそ……エマの話をきちんと聞いとけばよかったんだ。そうしたら君とパーティーになんて来なかったのに……」
「どうして? 別に堂々としていれば良いじゃない」
「へ?」
「だって、私たち結婚するのよ? あの女が子供を生んだらそれで終わりなんでしょ? なら堂々としていればいいのよ。愛し合ってるのは私達なんだから」
「え、あ……それは……」

 目を泳がすジョセフ。それを刺すような瞳で睨みつける。
 絶対に逃がすものか。今更こんな歳で放り出されるわけにはいかない。
 だから、「ね? そうでしょう?」と念を押す。
 しかしジョセフはすぐに答えようとはしなかった。

「あの、クリスティーヌ、そのことなんだけど……」
「っ……なによ」
「一回距離を置かないか……」
「…………はあ??」

 クリスティーヌから放たれた力強い言葉にビクンと背筋を伸ばすジョセフ。
 この男は如何せん苦手なのだ。こういう裏の顔があるひとが。

「その、周りにもどういうことか説明しないといけないだろう? エマだって嫁いでもらっておきながら流石に失礼だと思うし……」
「何言ってんの?? 失礼受けてるのは私の方じゃなあい?」
「君が……?」
「学生の頃から散々吟味してやっと手に入れた途端に婚約して? それですぐ結婚? はあ??」
「クリスティーヌ……」
「“話したこともない女は愛せない”とか言って私に夢中だったくせに、あの女と結婚して貴男が変わったことぐらい分かってんのよ!」
「ッ、それは……」
「政略結婚なんて性格が合わなくてどうせすぐ離婚するだろうからそのときは、って。忘れたわけじゃないわよね? 私が侯爵家の妻になるのよね? そうじゃなきゃおかしいでしょ? だって私はこんなにも淑やかで品があって貴男の交友関係にも理解があって夜は情婦にもなれるのよ? あんな女より侯爵家の妻に相応しいわよね??」
「クリスティーヌ、」
「分かった! 子供よ! 子供を作りましょ? 愛し合った証拠よ! あんなに何度も愛し合ったんだから! 子供ぐらい出来てても不思議じゃないわよね?」
「え……?」
「ほら。ほらほら早く勃たせて♡ わたしの奥の方にいっぱい出して? そうしたいって前言ってたじゃない?」
「ッちょ、クリスティーヌ……!」

 手慣れた様子でジョセフのベルトを外し、撫でるように扱いて、同時にペールピンクのひらひら柔らかなオーガンジーのドレスを捲る。
 それからジョセフが好きそうな真っ白な紐のショーツをするりと解いて、無理やり性器を押し当てて擦り合わせる。
 そうすれば彼はすぐにその気になって硬くなったあれを下から突き上げてくるのだ。

 けれどいくら擦り合わせてもとろける熱が伝わってこない。

「どうしたの? 遠慮しなくってもいいのよ? ふふ、奥さんに隠れてイケナイことするってとっても興奮するわね♡」
「クリスティーヌッ……!」
「ジョセフったら自分の初夜のあとだってあんなに激しく求めてきて♡ うふふ、エマさんじゃ満足出来ないんでしょ? 分かるわ。田舎者だものね。閨の場でも盛り上がらないでしょう?」
「うぅ、クリスティーヌ……」
「あん♡ ほら♡ はやくはやく♡」
「違う、違うんだクリスティーヌ……逆なんだ……」
「逆? なにが逆なの? 私が下の方がいい?」
「君じゃ……君じゃ勃たないんだよ……」
「………………は?」

 自身の耳を疑う。
 驚いてジョセフの顔を見れば、脂汗をかき苦悶の表情に瞳には涙まで浮かべている。

「は、は……? え? なに? どういうこと?」
「一度は愛した人にこんなことは言いたくないんだ……だけど、反応しないんだよ……」
「は??? 意味わかんないんですけど」
「本当はきちんとした場で伝えたかった。こんな形で伝えたくなかった。もうどう頑張っても時間は戻せないから仕方ないけど、」
「なにそれ! 私に魅力がないって言いたいわけ!?」
「違う! クリスティーヌは、素敵な女性だ……!」
「嘘つき! 貴男こういう女嫌いでしょ!? ふわふわした女が急に感情むき出しになるような女! ジョセフって昔からそうよね! 見た目通りを望んで! だから女同士の諍いに巻き込まれないように学生が終わってから近づいたのに!!」
「クリスティーヌ、ちょっと落ち着いて、」
「何が落ち着けよ!! 何!? いつから!? いつから別れようと考えてたわけ!? 私が何歳だか判ってて言ってんの!?」
「一応それも考えてもしクリスティーヌが良ければ縁談だって用意しようと……!」
「はあ!!? 馬鹿にしてるの!? アンタから紹介受けろって!? 一体誰が私と結婚するっていうのよ!! ジョセフと結婚したと振る舞ってた大法螺吹きの女なんか……!!」
「それは私だって同じだ……! 私だって友人にすらもエマを紹介せず……!」
「ッふざけないで……!! すでに結婚したアンタに言われたくないわよ!」

 ──バチン……!!
 静かな夜に強烈な平手打ちが響く。

「最後のお土産にくれてやるわ……!」

 これから大いに腫れるジョセフの頬に、ひらりと落とされたのは真っ白なショーツだった。

「っ──、いった……」
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