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出逢い1

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「は~~、も~、どこ行っちゃったのよお義姉さまは……」

(あんなに目立つ人なのにこんな広い会場でこんなに人が居たんじゃあ探せるもんも探せねぇっつうの)
 心の中でやさぐれつつ、先程から胃を刺激する香ばしいかほりが自然と脚を動かしている。
 あまり履かないヒールで脚も疲れてきた。
 もういい加減ダメかもしれない。これ以上我慢できっこない。

「あ゙~~~、お腹すいた……」

 いい匂いに誘われて、気がつけば目の前に美しいお肉たち。
 信じられない。こんなにお肉が並んでいるなんて。鯛のお頭造りならまだしも、ステーキ? パストラミ? ロースト? ナニコレ。全部お肉なの?
 え? なに? 更にはお酒も飲み放題?? シャンパンにワインにウイスキーですって?
 そんなに戴いても宜しいんですか?
(仕方ない。そこまで言うなら戴いてやるか)

 誰も何も言ってはいないがとにかく腹が減っては戦も出来ねぇ。
 順々に皿に肉を盛り、最後は酒か。いちいち注ぎに来るのも面倒だからボトルごと貰おうとしたらスタッフに「は?」って言われてしまった。
 だからこっちも「あ゙?」って言ったら「お持ち帰りは出来ません」と断られた。
 そんぐらい分かってますけどココの酒全部飲んだろかいと喉まで出掛かったが頑張って呑み込む。
 危ない危ない。早く胃を満たさないと余計なことを口走ってしまうぞこれは。

 ふう、と一息ついて、じゃあグラス4杯だけと言ってシャンパンを貰う。
 それでも『は?』って顔されたけど同じく『あ゙?』っていう顔でお返ししといた。流石にそれぐらいはクレよ。

 随分と怪しまれながらシャンパンを貰い、左手の指の間全てにグラスを挟んで右手にはたんまり盛り付けた皿を乗せれば、スタッフに『あぁなんだ同業者の方ですか』と安心された。
 これでも一応は伯爵家の娘で現在は侯爵家の妻なのだけどまぁ違うこともなくもない。なにせうちの家はレストランを営んでいたからこれぐらいは容易く運べるのだ。

 さて、いざ征かんと小さな丸いテーブルに食事を並べ、カウンターチェアに腰掛ければ、やっと脚を休ませれた。
 ふう、とまた一息つくと、すぐ隣のテーブルに同い年くらいの男の子達が随分と騒いでいるではないか。お酒も入っているし声が大きくなるのは分かるけど。やっぱり男の子の精神年齢ってどこに行っても同じなのね。

 最初は気にせず食べて飲んでしていたのだが、なんだか会話の内容が気になってきた。
 どうもグループの一人がアルコールが苦手らしく、あまり飲んでいないようだからもっと飲めと強要しだしているのだ。
 やんわり断っているみたいだけど、眼鏡のマッシュルームくんは気が弱そうだからこのままだといつか根負けしそうね。

 本当に駄目なのよね。
 放っておけばいいものを、口を出しちゃうのよこういうのって。

「ねーえ? 彼が飲まないなら私が飲んでもいいかしら? 取りに行くの面倒なのよね」
「え……っと……? 君は……?」

 突然話し掛けられたから当然のように皆驚くが、グループのリーダーみたいな男性が代表して私に問う。
 エマよと自己紹介すればまた「エマ?」と一様にして首を傾げた。

「うん、まぁ知らないでしょうね。初めましてですもの」
「そ、そっか。え、っと、それで君が代わりに飲むって……?」
「ええ! もっと飲みたいんだけど脚が疲れちゃって」
「っへえ……!」

 立ち姿だと生地が重なって見えぬ脚は、椅子に腰掛けることによって露わになる。彼らのつい落ちる視線に今ならナタリーが言ってたことが分かる気がする。

「それは大変だ! 女性に無理はさせちゃあいけないよなぁ?」
「うんうん。でもマルコのグラスに入ってるのはウイスキーだよ? 飲めるかい?」
「ええもちろんよ。なんでも飲めるわ!」
「そっかそっか! それじゃあ俺達が代わりに頼んでくるからさ、遠慮なく言ってよ!」
「マルコ、お前の代わりに飲んでくれるっつーんだから取ってきてやれよ」
「う、うん、それは良いけど、でも、君は、エマさんは良いのかい……? 無理してるなら……」
「なに言ってんのよ! わたし、お酒だーい好きだもの!」
「──ン゙ぐへェッ……! っそそそそそっか、君が好きなら良いんだ……!」

 なんかいま撃ち抜かれたような声がしたけど大丈夫かしら。心臓を押さえてるし持病とか持ってたり。だとしたらお酒なんて飲んじゃダメよね。

 そんなマルコの肩をグイと掴んで後ろに除けるリーダーの男。名前はミカエルというらしい。金髪でキラキラしてて青い瞳が王子様みたい。それに旦那様に負けず劣らずの整った顔をしている。
(ホンットに旦那様って見た目はパーフェクトなのに中身が残念なお祭り騒ぎなのよねぇ…………あゝ、早く祭りに出たい……)

「実はさっきから君のことが気になってたんだよ」
「え? 私を?」
「ああ! だってこんなに美しい女性が目に入らないなんて有り得ないだろう?」
「そかしら……」
「もちろん! 今まで出会えなかったのが悔しいぐらいさ。エマさんは俺達と同い年ぐらいに見えるけど……カレッジに行ったのかな? それともまだ卒業前? 俺達は学園からそのままユニバーシティに行ったんだけど」
「えーっと? ごめんなさい、つい最近辺境から出てきたものだから、都会の学園には通ってないわ。因みに20歳になったばかりよ」
「あそうなんだ! じゃあひとつ先輩なんだね。どこ出身なの?」

 そんな感じでズルズルと会話が続き、ユニバーシティでは何を専攻してるだの将来は何になるだのと話をしてて、ハッと気付けば皆気分が悪そうだった。
 唯一お酒を飲まなかったマルコを除いて。

「あら? みんな大丈夫? 顔色悪いわよ?」
「ハ、ハハ……エマって結構お酒強いんだね……」
「そうみたいね。辺境から出てくるまでそんなこと思ったことも無かったけど。水飲んで休んだほうがいいわよ。飲み過ぎは身体に悪いんだから」
「ハハハ……君に言われると何だかなぁ……」

 呼び捨てを許すぐらいには仲良くなったのだけど、これじゃ晩酌には付き合えそうもない。
 彼らは私が本当につい最近都会に来たんだと知って、良ければ自身の通うユニバーシティを案内しようかと提案してくれた。
 聞くところによると今度お祭りがあるらしい。そりゃモチロン絶対行く。お祭りだもの。

「エマさんごめんね、僕は介抱に回るから……その……」
「ああ! もう脚も十分休ませたから次からは自分でお酒を取りに行くわ、ありがとね」
「ン゙ぐふうッ……! そそそそそれじゃあ次また会えるのを楽しみにしてるよ……!」
「ええ! 気を付けて」

 顔色が悪くても笑顔で手を振る彼ら。皆学園では生徒会メンバーだったらしく、ユニバーシティでも学生自治会に所属したのだとか。よく分からないけどたぶん凄いことなんだろう。凄いことみたいに話してるから、たぶんそう。
(う~~ん、例えるなら、漁業組合とか?? そんな感じかしら?)

 うん。たぶん漁業組合みたいなものね。

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