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精霊達の土地編
36.守るから
しおりを挟む夕食のために広めのリビングに行くと、朝食みたいなメニューが用意されていた。
後から聞いた一心いわく、「あれだけ暴飲暴食した後なのですから、軽いものを用意しました。」だって。
アーシェやラトネス、フォルじいは笑顔だが他の精霊王と同じように一心を睨んでいる。
………なんかあったっけ。
まあいったん置いといて、夕食だ。いつも一心が用意している。
「夕食はトーストに玉ねぎドレッシングのサラダです。おかずとして卵焼きとソーセージ野菜スティックをご用意させていただきました。お飲み物はブラックコーヒー、カフェオレ、紅茶の中からお選びください。」
「じゃあブラックコー」
「姫、待て。」
アクスが一心を睨みつける。
「昨日の言葉、まるで実際にお前は盛ったような口ぶりだった。今回毒を盛っていない確証はない。姫、これからはミカやウィンに食事を用意させようと思うんだ。」
「その必要はないよ。一心、用意を。」
「かしこまりました。」
「姫!」
「姫、私もアクスに賛成です。どうか私に食事の用意をさせてください。毒を盛る可能性のある者に食事の用意をさせる必要はありませんわ!」
「断る。一心よりも君らの方が私は信用ならない。一心、今回のことをしっかりと記憶しておきな。自分自身の行動がこの結果だよ。そんでほら、反論反論。」
苦笑して
「かしこまりました。」
と完璧な礼をした一心は、精霊王達と対面する。
「私はこの世界に来てから、マスターに暗殺用の毒を3度盛りました。それが何の問題でしょうか。」
ギョッとした精霊王達は殺気だった。血気盛んなのはイアとアイセンなようだ。
「自分の主に毒を盛るなど!そのような者は私自ら切り伏せてくれよう。」
片手でイアとアイセンを制す。
「アクス。私が命じた。一心を怒るのは筋違いだ。」
「姫、しかし…」
なおも下がらないアクスに殺気を込めて言い放つ。
「私が命じた。反論は私が受け付けよう。」
ひるんだアクスになおも重ねる。他の精霊達にも向けて。
「毒の耐性を作るため、また、いかなる時でも緊張感を忘れぬために私が命じた。ニアも私に毒を盛るように。反論は?」
「「反論あり。」」
少しこわばった顔のアーシェと笑みを消したフォルじいが代表して話す。
「わたくしは先代の精霊王から精霊使いが狙われる危険性を存じております。しかし、毒はアクスとわたくしが、危険人物の割り出しはウィンとミカで行えばいいことでございます。」
「そして、護衛としてイア、アイセン、ラトネス、ダーネス、わしがおります。緊急の時はラトネスで姿を隠し、ダーネスの空間異動で移動すればよいではありませんか。わしらには姫がそこまで危惧する危険性は分からないのです。」
精霊王たちの考えはもっともであり、護衛する側の考え方そのものだ。
自分達が守るから、安心して欲しい。そんな優しさからくる思い。
……だが、たった一つの可能性が抜けている。
「では聞こう。精霊達が一切近づけない状態に陥った時、どうするつもりだ。」
「それは……」
「そんな状況にはなりませんわ!精霊達は数億といますのよ!」
「『精霊封じ』が残っている可能性は高い。そんな状況だと知った今も同じことを言えるか?」
「っ…………。」
精霊封じはその名の通り、精霊自身が使用する力を封じ強制的に精霊の力を奪い取り使用できるようになる道具のことだ。
精霊は上級精霊が一番人間に見つかりやすいから、上級精霊が基本的には被害にあう。
精霊につけて隷属させるものと範囲内にいる精霊の力を奪い取るものが在るため、数が一番多い下級精霊や小精霊は近寄ることすらできなくなる。精霊の力が奪われることは、命を奪われることと同義だ。
法によって禁止しているところが多いが、その法すら今は風化して忘れ去られている。
そんな中で精霊が考え付かない方法での攻撃は必ずしてくるだろう。
精霊の力は誰だって独占したいのだから。
国同士のトップが集まるあの会合でさえ婚約者や夫候補を斡旋はもとより、媚薬が盛られた。
媚薬は私が精霊妃だった時、傷物にしてしまえばいいと考えたのだろう。「責任を取る」なんて耳障りのいい言葉で私を囲えばいい。
「範囲型の精霊封じが使われたとき、どう私を守るつもりだ。」
沈黙を貫く精霊王達。切り裂いたのはダーネス。
「一番力が多い俺達で押し通ればいい。」
「そんな確実性のない策で通用するほど相手がバカだといいんだけれどね。」
「!…………っ。」
「………質問を変えようか。今回私には媚薬が盛られた。この世界の基準で見ても、元の世界の基準で見ても強力なものだった。私に媚薬の耐性がなかった時、どんな事態が予想された?それを考えた上で今後の行動をするんだね。」
改めて一心にコーヒーを頼み、夕食後は情報を精査してそのまま情報収集に…
「おやマスター。どちらへ?情報収集ではないですよね。」
……………………………………
エスコートのために手をのばし、微笑む一心。
「マスターの自室はこちらです。」
「はい…………。」
……情報精査後、そのまま休みました。シクシクシク………。
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