可愛い子が押し掛けて来たけど信用しても良いのだろうか

サクラギ

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19 小さな騎士

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 部屋に戻ったタイミングでマールから電話が入った。

 社長が逮捕され、年末年始後、新たな社長が来るという話だ。

 その状況に深く関わっているのだが、知らないで通した。

 言えばミルルの辛い話もしなければならない。いずれ、ミルルの引き取り先になっているから、孤児院の方から連絡が入るかもしれないが、そこはミルルとは関係ないと言い張ればいいだろう。

 風呂に入り、お茶を入れて、本を持ってミルルの所に行く。

 口端と口の中が切れただけで、腫れは目立たない程度だった。肘と脇腹に青アザが出来ていたが、触れなければ痛みはないから、ただの打身で済んだ。

 眠っているミルルの横に座って、本を開く。まだ夕刻にも早い時間だ。ミルルのそばでゆっくりしようと思ったが、どうにも疲れが先にあるようで、ミルルを後ろから抱える位置で寝転がる。

 定期的に上下する毛布の膨らみを見て、ほっとした気分になった。

 毛布がゴソゴソ動く。

「ゆーちゃん?」

「はずれ、アレスだ」

「あれす?」

 疑問形の間の伸びた言い方にホッコリする。まあ、ユートに間違われるのは仕方がない。付き合いの年数も深さも違うから。

「そうだよ」

 ゴソゴソが続いている。
 ふわっと隙間が開いて、ミルルの手が出て来た。

 抱き寄せられる。
 驚いた。
 ミルルは相手の負の感情に聡いのかもしれない。

「だいじょうぶ?」

 間近にミルルの顔があり、じっと目を見つめられた。

「ありがとう、大丈夫だ」

 可愛すぎて微笑ましい。
 全ての出来事が遠くになった。

「ん」

 って、何の「ん」だと思っていると、小さな手が両頬を包んで、ちゅっと唇に唇が触れた。

「ミルル?」

「もっと?」

 可愛くきょとんという表情をされて、思わず唇を重ねた。ミルルの舌が私の舌を誘う。

 可愛いのに、誘うのが上手で、でもその先を知らない? わからない。いったい彼らはミルルにどこまで教え込んでいるのか。そして思う。ミルルは小さな身を張って、ユートを守っていたのではないのか?

 人族の男に未成年だからという大義名分はあってないようなもの。

 ミルルが守っていなかったら、未成年で体を売らされていたのではないか?

 キスを繰り返しながら、ミルルの生き方を尊く思う。私の出来なかった事を、ミルルは身を張ってやり遂げている。

「ミルルはすごいね。格好良いよ」

 好きだと思う。
 間違って植え付けられた知識を塗り替えてしまいたいと思う。

「ぼく、かっこいい?」

「大好きだよ、ミルル。ずっとそばにいて欲しい」

 可愛い頬を撫でて言えば、嬉しそうな笑顔になる。

「ん、いいよ、あれす、ずっといっしょ」

 眠りに落ちて行くミルルを見ている。
 スースーと寝息が聞こえ出した。

「私にももっとやれる事があったのだろうか」

 故郷の人族を思う。
 貴族の人族の扱いは酷いままだ。
 幼い頃、面倒を見てくれた少し歳上の男の事を思う。

 今なら助けられるのだろうか。
 いや、今更だと侮蔑されるのだろう。
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