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18 昔馴染みと未来の友人
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顔を見られないように荷物を持ち出し、社を後にする。
マールにどう説明したものかと悩んで歩いていると、隣にすっと黒塗りの車が平行して来る。
さっきの今だ。
車に乗せられて、連れ去られたら。それだけは絶対に避けなければ。
運転席の窓が下げられる。
警戒している私の前に現れたのは見知った顔で。あからさまに安堵の息を吐いた。
「よう、アレス」
狼の獣人。軽薄そうな態度が昔のままで、一気に懐かしさを覚えた。
「良い感じにやられたな、乗れよ」
口元をトントンしながら言われ、こいつ、事のあらましを知っているなと思う。
後部座席に乗り込み、ウォルが乗っているのを知る。
「すでに把握済みですか」
ウォルの話はマールから聞いているだけで、実際に会うのは、最初に会った蜂蜜の宿以来だ。
「ジラル領の領主に領を潰すと伝えろと言われましたが?」
「すでに軍が動いている。問題の娼館も摘発済みだし、孤児を売っていた経営者も逮捕済みだ」
存在の格が違う。ウォルが領主かどうかは知らない。だがそんな肩書きなど必要のないくらい、ウォルには人脈があり、一声で動く機関がたくさんあるのだろう。
「ミルルくんの居場所も見張りを入れてある。安心して良い」
それは私の家を把握済みという事か。まぁ、これでミルルが連れ出されましたじゃ何の意味もない。有り難く行為を感謝する。
「ありがとうございます」
「いや、ミルルくんに何かがあれば、ユートが悲しむからね」
そういう理由か。なるほど、わかりやすい。
ウォルがフッと笑う。
何かと思えば、親しげな表情のウォルが私を見ていた。
「アレスくんとはきっと長い付き合いになると思ってね」
「あぁ、そうですね。そうなれば良いなと思いますよ」
ミルルとユートの仲は兄弟のようだ。きっとずっと仲良く暮らして行くのだろう。
「まずはお互いの相手を射止めないと、だな」
「そうですね」
二人で苦笑いをする。
「さきほどの社だが、上部をすげ替えて経営は続く。安心して務めると良い」
「社全体ではなく、社長の個人的な犯行でしたか?」
そう聞くと、苦い顔になる。
「まぁ、資金的に言えば社も黒だが、職を失いたくはないだろう?」
「そうですね。社員は良いヤツばかりですし。助かります」
運転席の男がクックッと笑っているから、思わずシートの背を蹴った。
「痛えよ、アレス!」
「笑うな、ルフ」
ルフ、ルフレッドは、10代の頃にいた軍学校の宿舎仲間だ。同じ時間を過ごし、同じような悩みを抱えていた。
「ウォルさんの運転手なのですか?」
ルフもまた貴族の出で、家を嫌い、逃げ出したくちだ。
「護衛兼運転手かな。時に情報収集にも向かってもらう」
「何でも屋だよ」
ルフが悪態をつく。
車は私の自宅マンションの前に停まる。
「10日ほど休みなさい。その間に片付けておく」
どのみち年末年始休暇だ。
このタイミングを見ての行動なのだろう。
「ありがとうございました。失礼します」
車を降りて頭を下げ、ドアを閉める。
マンションの周りには見知らぬ男がひっそりといる。住人でもわからないくらい、風景に溶け込んでいる様は、流石だと思う。
マンションを見上げ、息を吐く。
ミルルが無事で本当に良かった。
マールにどう説明したものかと悩んで歩いていると、隣にすっと黒塗りの車が平行して来る。
さっきの今だ。
車に乗せられて、連れ去られたら。それだけは絶対に避けなければ。
運転席の窓が下げられる。
警戒している私の前に現れたのは見知った顔で。あからさまに安堵の息を吐いた。
「よう、アレス」
狼の獣人。軽薄そうな態度が昔のままで、一気に懐かしさを覚えた。
「良い感じにやられたな、乗れよ」
口元をトントンしながら言われ、こいつ、事のあらましを知っているなと思う。
後部座席に乗り込み、ウォルが乗っているのを知る。
「すでに把握済みですか」
ウォルの話はマールから聞いているだけで、実際に会うのは、最初に会った蜂蜜の宿以来だ。
「ジラル領の領主に領を潰すと伝えろと言われましたが?」
「すでに軍が動いている。問題の娼館も摘発済みだし、孤児を売っていた経営者も逮捕済みだ」
存在の格が違う。ウォルが領主かどうかは知らない。だがそんな肩書きなど必要のないくらい、ウォルには人脈があり、一声で動く機関がたくさんあるのだろう。
「ミルルくんの居場所も見張りを入れてある。安心して良い」
それは私の家を把握済みという事か。まぁ、これでミルルが連れ出されましたじゃ何の意味もない。有り難く行為を感謝する。
「ありがとうございます」
「いや、ミルルくんに何かがあれば、ユートが悲しむからね」
そういう理由か。なるほど、わかりやすい。
ウォルがフッと笑う。
何かと思えば、親しげな表情のウォルが私を見ていた。
「アレスくんとはきっと長い付き合いになると思ってね」
「あぁ、そうですね。そうなれば良いなと思いますよ」
ミルルとユートの仲は兄弟のようだ。きっとずっと仲良く暮らして行くのだろう。
「まずはお互いの相手を射止めないと、だな」
「そうですね」
二人で苦笑いをする。
「さきほどの社だが、上部をすげ替えて経営は続く。安心して務めると良い」
「社全体ではなく、社長の個人的な犯行でしたか?」
そう聞くと、苦い顔になる。
「まぁ、資金的に言えば社も黒だが、職を失いたくはないだろう?」
「そうですね。社員は良いヤツばかりですし。助かります」
運転席の男がクックッと笑っているから、思わずシートの背を蹴った。
「痛えよ、アレス!」
「笑うな、ルフ」
ルフ、ルフレッドは、10代の頃にいた軍学校の宿舎仲間だ。同じ時間を過ごし、同じような悩みを抱えていた。
「ウォルさんの運転手なのですか?」
ルフもまた貴族の出で、家を嫌い、逃げ出したくちだ。
「護衛兼運転手かな。時に情報収集にも向かってもらう」
「何でも屋だよ」
ルフが悪態をつく。
車は私の自宅マンションの前に停まる。
「10日ほど休みなさい。その間に片付けておく」
どのみち年末年始休暇だ。
このタイミングを見ての行動なのだろう。
「ありがとうございました。失礼します」
車を降りて頭を下げ、ドアを閉める。
マンションの周りには見知らぬ男がひっそりといる。住人でもわからないくらい、風景に溶け込んでいる様は、流石だと思う。
マンションを見上げ、息を吐く。
ミルルが無事で本当に良かった。
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