獣人カフェで捕まりました

サクラギ

文字の大きさ
105 / 112

105 お世話

しおりを挟む
 獣人国における竜の飛行機は、竜族長の伴侶であるトオルが代表を務める一大事業となっている。そのおかげで友人である紘伊は乗車料無料のフリーパスをもらっていて、どの区間も無料で乗れるから、ハーツの手を煩わせる事なく王都中央区へ行けるのに、未だに一度も行っていない。別に望めばハーツがプライベートジェットならぬ竜機を出してくれるのだけど、正式な伴侶にもなっていないし、特別な存在として位置づけられたくない紘伊は、ハーツが王代理になってから王都を拒んでいる。

「紘伊ただいまー」

 イヨカが予告した通り、イヨカが訪れた日の夜にエルがやって来た。エルは自分で飛べるから、煩わしいものもなく自由で羨ましくもある。

「おかえりエル」

 あとは寝るばかりの状態で本を読んでいた紘伊は、エルを迎えると居間に移動した。

「お腹空いてない? お茶飲む?」

 久しぶりにエルの世話をする。

「大丈夫だよ、それよりも髪洗って欲しいな」

 向こうのバスルームは猫足のバスタブで、仰向けの状態でお湯に肩までつかって、長い足を向こう側へ投げ出してる状態で、髪をバスタブの外に出して洗う。エルお気に入りの甘い花の香りのソープを使って、ヘアパックやマッサージもしてやる。リラックスしたエルとおしゃべりしながらのバスタイムはとても思い出深く残っている。

「ここのバスルームは向こうとは違うよ? それでも良い?」

「いいよ」

 ウェルズにある紘伊の部屋は、ハーツが用意してくれたものだ。残念ながら猫足のバスタブをお願いする間はなかった。それにここはウェルズ領だ。向こうの様に四季がある訳でもないし、気候も生活様式も違う。紘伊の為にバスタブが設置されているだけでも気が利いている。

 紘伊が承諾すれば恥ずかしげもなく服をポイポイ脱いでバスルームへ駆けて行く。紘伊はその背中を見ながら変わらないなと思いながら笑みを浮べ、後を追った。

 シャワーでエルの体を洗いながらバスタブにお湯を溜めている。紘伊は長い裾をたくし上げているだけで、服を脱いでいない。濡れたら着替えるつもりでいる。

 エルの綺麗な白銀の髪は背中を覆うくらいに長く、洗うのも一苦労だ。

「明日から王城で暮らすんだって」

 湯の溜まったバスタブに浸かったエルが嫌そうに唇を尖らせている。

「紘伊も一緒に来て欲しいな」

 エルの可愛いおねだりだけど苦笑で返した。

「お休みの時に戻っておいで? 王になる勉強は集中して受けないとね」

「じゃあ毎日ここに来ても良い?」

「エルはもう王と同じ立場になるんだよ? 警護する兵士達に迷惑をかけないようにしないとね?」

 エルは自由に飛べてしまうから、他種族では追いつくことができない。だからといって竜族ばかりを側に置けば、竜族の神的存在のエルを崇めて自由にしてしまう。

 エルは成長と共に力も強くなっている。それでも体裁がある。守られてこその王という事を、覚えなければならないが、エルは煩わしく思うらしい。

 湯船に浸かってゆったりしているエルを眺めながら、あと何回エルのお世話ができるのだろうかと寂しく思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...