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106 語らい
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「紘伊が王都へ来ないのってなぜ?」
お風呂に入り、エルの髪を乾かし終えて、一緒にベッドへ入った時にエルに問われた。
「特に理由はないよ」
ただ邪魔になりたくないのと、誰かに傅かれる事に慣れないだけだ。
「ハーツとも会ってない?」
「会えてないね」
会えていないだけで連絡はある。領事館の通信を通して間接的にだけど。
「王ってそんなに自由がないもの?」
「どうだろうね? 交代したばかりだから仕事がたくさんあるんじゃないかな?」
これはハーツの弟のアルチェから聞いたのだけど、前王の伴侶と長兄が王の仕事を手伝っていたらしい。だから紘伊も手伝う方が良いと助言されたが、獣人国のルールさえも知らない紘伊が何の手助けになるのか。むしろ邪魔だし、アルチェが手伝った方が国民の反感もかわないだろうし、納得も行くだろう。
「ハーツはみんなの為にお仕事をしているんだから、会えないからってわがまま言うのも違うだろ? こうやってエルが一緒にいてくれるし、ここのみんなも良くしてくれてるから、心配はいらないよ」
そう言った紘伊をエルは信用できないらしく、至近距離でじーっと目を見つめられた。
「ほんとう?」
「エルは優しいね」
ここでの暮らしは充実してしている。たまに仲良さそうなツガイを街中にみつけては良いなと思うけど、この道を選んだのは紘伊だ。もう少しすればハーツの忙しさも落ち着くと聞いている。
「そういえば紘伊、まだハーツとツガイになってないね?」
エルに首筋をくんくんされてくすぐったい。
「やめてエル、匂いでわかるの?」
「わかるよ、紘伊はまだハーツと儀式をしていないね? 体の変化も中途半端だ」
エルに言われて驚く。匂いでそんな事まで分かるのだとしたら恥ずかしすぎる。
「匂いで? そこまで?」
「エルはずーっと紘伊のそばにいるから、少しの変化もわかっちゃうだけだよ?」
「だったら良いけど」
知らない獣人にそんな事を探られたくはない。体の変化は特に。
「紘伊は子ども、欲しくないの?」
「人の男性は本来なら子どもを産めないからね」
向こうにいた事のあるエルなら分かるだろう。向こうに着いて最初のうち、女性の存在に興味津々だった。
「でも産めるようになるんだよ? ハーツの子どもを望む民衆の声が多いってデュオンが言ってたし、エルも兄弟が欲しいな」
紘伊は思わず腹に手を当てていた。体の変化はここへ来てハーツと抱き合ってから少しずつ分かるようになっている。
「ハーツが望むのなら俺は別に——」
覚悟はできたつもりだ。それに人の出産とは違い、腹の中で拳大に成長したら産むと聞いた。だから体の負担は少ないと。それを聞いて思い出したのはパンダの出産だけど——獣人はそれが当たり前だから簡単に言える。紘伊が持つ引っ掛かりは、人としての尊厳にまつわる不安だ。でもそういう不安に目をつむれば、残るのは愛しさだろうと分かっている。
お風呂に入り、エルの髪を乾かし終えて、一緒にベッドへ入った時にエルに問われた。
「特に理由はないよ」
ただ邪魔になりたくないのと、誰かに傅かれる事に慣れないだけだ。
「ハーツとも会ってない?」
「会えてないね」
会えていないだけで連絡はある。領事館の通信を通して間接的にだけど。
「王ってそんなに自由がないもの?」
「どうだろうね? 交代したばかりだから仕事がたくさんあるんじゃないかな?」
これはハーツの弟のアルチェから聞いたのだけど、前王の伴侶と長兄が王の仕事を手伝っていたらしい。だから紘伊も手伝う方が良いと助言されたが、獣人国のルールさえも知らない紘伊が何の手助けになるのか。むしろ邪魔だし、アルチェが手伝った方が国民の反感もかわないだろうし、納得も行くだろう。
「ハーツはみんなの為にお仕事をしているんだから、会えないからってわがまま言うのも違うだろ? こうやってエルが一緒にいてくれるし、ここのみんなも良くしてくれてるから、心配はいらないよ」
そう言った紘伊をエルは信用できないらしく、至近距離でじーっと目を見つめられた。
「ほんとう?」
「エルは優しいね」
ここでの暮らしは充実してしている。たまに仲良さそうなツガイを街中にみつけては良いなと思うけど、この道を選んだのは紘伊だ。もう少しすればハーツの忙しさも落ち着くと聞いている。
「そういえば紘伊、まだハーツとツガイになってないね?」
エルに首筋をくんくんされてくすぐったい。
「やめてエル、匂いでわかるの?」
「わかるよ、紘伊はまだハーツと儀式をしていないね? 体の変化も中途半端だ」
エルに言われて驚く。匂いでそんな事まで分かるのだとしたら恥ずかしすぎる。
「匂いで? そこまで?」
「エルはずーっと紘伊のそばにいるから、少しの変化もわかっちゃうだけだよ?」
「だったら良いけど」
知らない獣人にそんな事を探られたくはない。体の変化は特に。
「紘伊は子ども、欲しくないの?」
「人の男性は本来なら子どもを産めないからね」
向こうにいた事のあるエルなら分かるだろう。向こうに着いて最初のうち、女性の存在に興味津々だった。
「でも産めるようになるんだよ? ハーツの子どもを望む民衆の声が多いってデュオンが言ってたし、エルも兄弟が欲しいな」
紘伊は思わず腹に手を当てていた。体の変化はここへ来てハーツと抱き合ってから少しずつ分かるようになっている。
「ハーツが望むのなら俺は別に——」
覚悟はできたつもりだ。それに人の出産とは違い、腹の中で拳大に成長したら産むと聞いた。だから体の負担は少ないと。それを聞いて思い出したのはパンダの出産だけど——獣人はそれが当たり前だから簡単に言える。紘伊が持つ引っ掛かりは、人としての尊厳にまつわる不安だ。でもそういう不安に目をつむれば、残るのは愛しさだろうと分かっている。
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