99 / 112
99 名乗り
しおりを挟む
和やかな雰囲気とは別に、席を外す者もいる。見学席のような離れた場所に座っていた面々だ。紘伊やハーツを中心としたやり取りが鼻についたのだろう。その顔ぶれの中にはマリカもいる。新たな王を決める会議の中で、大人しく末席以下の場に納まっている姿も珍しいし、一言の発言も見られない事が紘伊にとっては怖くもあった。
「だってよぉエルは次期王に名乗りをあげたんだぜ?」
オーギュはニヤニヤとした含み笑いを浮かべている。
「エルが?」
紘伊が言うとエルは誇らしげに頷く。
「エルはまだ成人前でしょう?」
獣人のルールを知らない。でも前王はハーツの兄だった。伴侶も子どももいる大人で——確かに王位継承権が血族へ継がれる場合、該当者が幼子のみという展開もないとは言い切れない。その場合、その子が王政をしけるようになるまで、代理が立てられる。でもエルには当てはまらない。
「ハーツになれるのならエルだってできる! それにその方が紘伊も嬉しいでしょう?」
エルが至近距離で視線を合わせながらそう言い、左右対称の綺麗な笑みを見せた。釣られて笑み返した紘伊は、惹き込まれてはいけないと視線を逸らした。
「許したのですか?」
紘伊は発言と共に周囲を見る。ニヤニヤ顔が続いている。許したのかどうなのか分からないので、ハーツを見上げる。ハーツは明らかに不機嫌のままだ。
「言っておくが、過去のどの議会の場を挙げても、こんなに馬鹿馬鹿しい話し合いはない」
発言は熊族長だ。うんうん頷いて思案顔だ。
「文献には種族間の争いに発展して大規模な戦乱が何年も続くとあるのにな」
デュオンが熊族長の意見に賛同する。
「馬鹿馬鹿しくしているのはヒロイのせいだろ? 一番に喰ってかかる野郎がのぼせあがって嫉妬にまみれてるってさぁ」
オーギュが腹を抱えて笑っている。それに対してはハーツも不機嫌を通り越し無言の圧をオーギュに向け、敏感に察知したオーギュは一瞬で笑いを引っ込め、机に伏すという弱者の姿を晒す。
「俺には良く分かりませんけど。でも俺なんていなくたってハーツは戦争を仕掛けて王位を奪うようなまねはしないと思うけど」
紘伊がそう言うと、周囲から重いため息が漏れ聞こえた。オーギュに至っては「いやいやいや」と伏したままで声に出している。
「そいつは獣人国じゃ暴れてすぎて困るから人国へ更迭されたも等しいんだぜ? お前を持ち帰るのも強引で乱暴だったと思わねえの?」
オーギュは怖い物知らずだ。言いたいことは我慢できない性質なのかもしれない。またもやハーツに睨まれている。
紘伊にも心当たりはある。自分の圧が強すぎて人を怯えさせるから、怯えない紘伊を貴重と思ったのだろうし、紘伊を負傷させたからという理由で、爬虫類の領を丸ごと潰そうという発想も横暴すぎる。
「……確かに」
紘伊がつぶやくと、エルは紘伊を心配して抱きついたし、ハーツは傷ついた表情になった。
それに対しても周囲は笑う。紘伊はそれを見て、ハーツのこの表情も以前には無かったものなのかと思った。
「だってよぉエルは次期王に名乗りをあげたんだぜ?」
オーギュはニヤニヤとした含み笑いを浮かべている。
「エルが?」
紘伊が言うとエルは誇らしげに頷く。
「エルはまだ成人前でしょう?」
獣人のルールを知らない。でも前王はハーツの兄だった。伴侶も子どももいる大人で——確かに王位継承権が血族へ継がれる場合、該当者が幼子のみという展開もないとは言い切れない。その場合、その子が王政をしけるようになるまで、代理が立てられる。でもエルには当てはまらない。
「ハーツになれるのならエルだってできる! それにその方が紘伊も嬉しいでしょう?」
エルが至近距離で視線を合わせながらそう言い、左右対称の綺麗な笑みを見せた。釣られて笑み返した紘伊は、惹き込まれてはいけないと視線を逸らした。
「許したのですか?」
紘伊は発言と共に周囲を見る。ニヤニヤ顔が続いている。許したのかどうなのか分からないので、ハーツを見上げる。ハーツは明らかに不機嫌のままだ。
「言っておくが、過去のどの議会の場を挙げても、こんなに馬鹿馬鹿しい話し合いはない」
発言は熊族長だ。うんうん頷いて思案顔だ。
「文献には種族間の争いに発展して大規模な戦乱が何年も続くとあるのにな」
デュオンが熊族長の意見に賛同する。
「馬鹿馬鹿しくしているのはヒロイのせいだろ? 一番に喰ってかかる野郎がのぼせあがって嫉妬にまみれてるってさぁ」
オーギュが腹を抱えて笑っている。それに対してはハーツも不機嫌を通り越し無言の圧をオーギュに向け、敏感に察知したオーギュは一瞬で笑いを引っ込め、机に伏すという弱者の姿を晒す。
「俺には良く分かりませんけど。でも俺なんていなくたってハーツは戦争を仕掛けて王位を奪うようなまねはしないと思うけど」
紘伊がそう言うと、周囲から重いため息が漏れ聞こえた。オーギュに至っては「いやいやいや」と伏したままで声に出している。
「そいつは獣人国じゃ暴れてすぎて困るから人国へ更迭されたも等しいんだぜ? お前を持ち帰るのも強引で乱暴だったと思わねえの?」
オーギュは怖い物知らずだ。言いたいことは我慢できない性質なのかもしれない。またもやハーツに睨まれている。
紘伊にも心当たりはある。自分の圧が強すぎて人を怯えさせるから、怯えない紘伊を貴重と思ったのだろうし、紘伊を負傷させたからという理由で、爬虫類の領を丸ごと潰そうという発想も横暴すぎる。
「……確かに」
紘伊がつぶやくと、エルは紘伊を心配して抱きついたし、ハーツは傷ついた表情になった。
それに対しても周囲は笑う。紘伊はそれを見て、ハーツのこの表情も以前には無かったものなのかと思った。
2
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる