上 下
98 / 112

98 雑談

しおりを挟む
 紘伊が思っていたよりも気軽な雰囲気の会議場で、なごやかな雰囲気の場に、なぜハーツは紘伊を呼んでくれなかったのかと思う。しかもエルまでいる。今までにも参加していたのだったら、疎外感が顔をのぞかせる。それにマサキもいる。竜族長デュオンの付き添いなのだろうから、紘伊がどうこう思うべきではないのだが……人が参加できるのなら、なぜ自分は呼ばれないのか——そう思い、自分を過大評価している事に気づいて恥ずかしくなる。

「どうした、ヒロイ」

 ハーツが後ろから覗き込んで来て、顎に触れて顔を上げさせられた。至近距離でハーツと視線を交わすと吸い込まれそうな気分になるけど、そこは集中する外野の視線により削がれる。ハーツの手に触れて拒んだタイミングで、熊族長の笑い声が聞こえる。見れば周りもニヤニヤして見て来ていて、カーッと頬が熱を持つ。

「ヒロイ!」

 それを病気か何かと勘違いしただろうエルが紘伊の頬を撫でる。

「甘やかすにも程があるだろう」

 未だに笑い声を上げているのは熊族長で、呆れた顔の面々が続く。紘伊はいたたまれない気分になっていたが、心配して来たエルを拒む事は出来なくて抱きしめた。

「ヒロイ、だいじょうぶ? 痛くない?」

 エルを可愛がる事でハーツの機嫌が悪くなる。でもエルを拒む事は出来ない。どうする事もできない双方の間で気持ちを揺らしながら、いつハーツが切れるのかと緊張するしかない。

「ハーツェリンドは不安なんだよ、ヒロイ」

 言い出したのは、ハーツと長い付き合いであるデュオンだ。隣にいるマサキが生温かい視線を送って来る。デュオンの意見に周囲の視線も同意の様子だ。

「契約の儀を結んでも外部からの介入はある。現に俺たちは周りの策略に振り回されて、真実に辿り着くまで時間を要してしまった」

 デュオンとマサキが見つめ合って笑っている。肩を抱かれたマサキはとても幸せそうだ。

「エルは将来有望だからな、契約の儀を結ぶのさえ許してもらえねえハーツェリンド様は嫉妬でイラついてるってよ」

 オーギュの軽口にはハーツが睨みを効かせて黙らせていたけど、紘伊はエルに対する嫉妬が本気のものだとは思っていなかった。エルは見目は大きくともまだ子どもだ。伴侶としての嫉妬というよりは、距離の近さによる嫉妬だと思っていた。静かな争いの攻防が紘伊の膝の上と背後で行われている。

「それはさすがにないです」

 紘伊はありえないと否定した。エルはますます引っ付いて来るし、ハーツは冷たい空気を纏っている。

 いやいや~と獣人に通じるかも分からないゼスチャーをした紘伊だが、それは何となく伝わったようで、周囲は否定的な、それでいて諦めろというような視線を向けて来る。でも、だってエルは子どもだろ? 真面目にハーツとエルを天秤にかけると思う? 紘伊は納得が出来なかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

【完結】ワンコ系オメガの花嫁修行

古井重箱
BL
【あらすじ】アズリール(16)は、オメガ専用の花嫁学校に通うことになった。花嫁学校の教えは、「オメガはアルファに心を開くなかれ」「閨事では主導権を握るべし」といったもの。要するに、ツンデレがオメガの理想とされている。そんな折、アズリールは王太子レヴィウス(19)に恋をしてしまう。好きな人の前ではデレデレのワンコになり、好き好きオーラを放ってしまうアズリール。果たして、アズリールはツンデレオメガになれるのだろうか。そして王太子との恋の行方は——?【注記】インテリマッチョなアルファ王太子×ワンコ系オメガ。R18シーンには*をつけます。ムーンライトノベルズとアルファポリスに掲載中です。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

食べて欲しいの

夏芽玉
BL
見世物小屋から誘拐された僕は、夜の森の中、フェンリルと呼ばれる大狼に捕まってしまう。 きっと、今から僕は食べられちゃうんだ。 だけど不思議と恐怖心はなく、むしろ彼に食べられたいと僕は願ってしまって…… Tectorum様主催、「夏だ!! 産卵!! 獣BL」企画参加作品です。 【大狼獣人】×【小鳥獣人】 他サイトにも掲載しています。

俺がペットを飼いたくない理由

砂山一座
BL
姉が今度は犬を拾ってきた。小さな犬じゃない。獣人だ。 「友達が拾ったんだけど、全然懐かないからって預かってたのね。可愛いし。でも、やっぱり私にも全然懐かないのよねー。ちょっと噛みそうだし」 「俺は動物が好きなわけじゃないんだよ!」 獣人愛護法によって拾った獣人は保護するか別の飼い主を探さなければならない。 姉の拾った動物を押し付けられ気味のフランは、今度はたらい回しにされていた犬獣人を押し付けられる。小さな狂犬の世話を始めたフランの静かな生活は徐々に乱されていく。

処理中です...