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100 安堵

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 紘伊の前では気を荒げないハーツだけど、外でのハーツを知らない紘伊は、ハーツを良く知る面々の表情から、ハーツがいかに傍若無人に振る舞っていたか分かるような気がした。

「ヒロイ」

 ハーツに呼ばれて見上げれば、真剣な目のハーツがいる。見つめられて惹き込まれそうになって、エルに両頬を手で挟まれて向きを変えられてハッとする。ハーツの真剣な時の顔が好みの紘伊だが、エルに頬を膨らまされると相好が崩れる。

「俺よりもエルの味方をするのか?」

 ハーツが紘伊の肩に触れ、頬を寄せて来る。そうするとエルの機嫌が悪くなるし——紘伊は嬉しいのだけど、それを顔に出すとどっちがより好きかと問われそうで困っている。

「仕事と私、どっちが大事なの? っていう妻とか、子どもばかり優先していないで俺の面倒を優先しろって言う、亭主関白を履き違えた夫みたいだねー」

 頬杖をついてじっとりとした視線を向けていたマサキが言う。咄嗟にデュオンが口を塞いだが遅かった。

「……すまない」

 なぜかデュオンが謝って、マサキがキョトンとしている。

 でもマサキの発言は向こうのあるあるだ。獣人に女性はいないし当てはまらないと思うのだけど。

「エルごめん、少し待っててくれる?」

 綺麗な白銀の髪を撫でて笑んで見せる。エルをオーギュに任せて、ハーツの腕を取って席を立つ。ハーツは周りを威嚇して見せるのに、紘伊には甘い。腕を引かれるままついて来る。

 会議の部屋を出れば廊下には、先に部屋を出ていた面々が壁に背を預けたり、座り込んだりしながら愚痴を言い合っていたようだけど、ハーツの出現に態度を改めて直立する。それを尻目に歩いて元のハーツの部屋に戻った。

 最悪な事にナナがいる。門番が気まずそうな顔をしたのはこのせいか。ソファにだらしなく座り、勝手にお茶を飲んでくつろいでいたのに、ハーツを見つけてぱあっと笑顔になる。

「おかえりなさいハーツェリンド様」

 紘伊がいるのに紘伊を押し退けてハーツの胸に飛び込もうとしたナナの気の強さには驚きを通り越して唖然とする。でもハーツの機嫌が良くない。紘伊があっと思った瞬間にはもう、ナナは壁に激突していた。派手な音をたてて壁にぶつかったナナは混乱したまま蹲っている。咄嗟に駆け寄って怪我の具合を確かめようとしたのに、ハーツに手を引かれて止められた。ナナの引き攣った呼吸が聞こえたと思ったら、わーんと大声をあげて泣き出した。両手を目に当てて大口を開けて、言葉はわーんわーんだ。まるで子どもの嘘泣きのようで見苦しい。それはハーツも思ったようで、門番を呼んで衛兵が駆けつけ、ハーツの命令で部屋から連れ出されて行く。二度と勝手な真似をさせるな!と怒鳴ったハーツの言葉にホッとした。なんだ、やっぱりナナの勝手な行動で、ハーツは少しも靡いていない。ナナには悪いけど、ハーツの行動に安堵を覚える。全ての苛立ちが消えて行った。
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