96 / 112
96 強行
しおりを挟む
ハーツの口からナナの名が告げられるだけでも嫌なのに、寝ていたと告げられたらどうしよう。——死にたくなるくらい心が潰れるんだろう。
「言わなくて良いよ? ハーツの好きにして良い」
紘伊は投げやりな気持ちでハーツの腕から抜け出し、ハーツを見上げて微笑んだ。
「ハーツが王様になったら、俺はどこに居れば良い?」
「王にはならない」
ハーツの表情は真剣だ。紘伊の真意を探ろうとしている。でも紘伊は笑んで見せている。長く大学と塾で勤めていた経験から、笑みを作るのには慣れている。
「ハーツがそう言っても周りが許さないんだろ? 望まれているのなら受けた方が良いよ。ハーツが王様になったら、俺たち人もこの国に居やすくなりそうだね」
いっそハーレムに入って子を産めと命令して欲しい。そうすれば曖昧に揺れる感情の持っていき場所を決められる。
「王にはならない。それに俺にはハーレムなど必要ない」
考えてみればライオンって一頭のオスにメスが数頭の群れだった。獣人に女性はないけど、子を産む者とか受け身の者を女性に見立てたら、獅子族がハーレムを持つのも当然だ。
「獣人の子って孕ったら何日お腹の中にいるのかな? 人は十月十日って言うけど? それも種族によって違う? まだまだ知らない事がたくさんあるよ」
子どもを孕った事も、トオルを見たから分かっている。処女厨だと言ったマサキの状況も。一度孕ってしまえば別の者の子を産む事は難しくなる。細かな事は知らないけど、人とは使い捨てのアイテムだ。
紘伊はふっとハーツを見上げた。ハーツは紘伊の表情を見つめながら、唖然としており、紘伊と視線を合わせた瞬間、悲しそうに目を細める。
「いつからだ? ——いつ俺の事を見限った。なぜそんなに遠くにいる」
ハーツの手が紘伊の頬に触れようとするが、紘伊は思うよりも先に避けていた。ハーツの手が握られる。震えてもいるようだ。
「——それでも……悪いが、俺はヒロイを手放す気はないよ」
傷む表情のまま紘伊に触れ、無理やり抱き込むと、抱え上げて部屋を出る。部屋の前には従者が並んで立っており、その中にナナの姿もある。筆頭にいたトマスが一歩前に出て、ハーツを足止めする。
「まもなく夕刻の会議の時間です」
腰を曲げ、両手を腹の前で組んで、ハーツとは視線を合わせないようにしている。声も極力抑え、低く保つのが主人と従者の作法らしい。紘伊と対する姿とはまるで違い、纏う空気に畏怖が見える。
「下がれ! 誰も近づいて来るな!」
紘伊はハーツの腕に抱き上げられ、尻を支えられて肩口から後方を見る状態でいるのだが、ハーツとは視線も合わせられなかった彼らが、ハーツが背を向けた瞬間、紘伊に冷めた視線を向けて来る。ナナに至っては、嫉妬と怒りを露わにしている。それを見て紘伊は悟る。ナナはハーツと関係があったのかもしれない。でもハーツの気持ちはナナに向かってはいないのだと言うことが。
睨まれて落ち着くのも違うのかもしれないけれど、少しだけホッとする。
「ハーツ、どこへ行く?」
ハーツは紘伊を抱き上げたまま、廊下を進んで行く。すれ違う兵士や従者は、ハーツを見つけると廊下の端に寄って視線を下げる。兵士は片手を胸に、従者は腹前で組む。ハーツが通り過ぎると視線は紘伊へ向かう。疑問を持つ視線を受け、紘伊だって分からないから、そのうちハーツの肩に顔を埋め、視界を閉ざした。
「言わなくて良いよ? ハーツの好きにして良い」
紘伊は投げやりな気持ちでハーツの腕から抜け出し、ハーツを見上げて微笑んだ。
「ハーツが王様になったら、俺はどこに居れば良い?」
「王にはならない」
ハーツの表情は真剣だ。紘伊の真意を探ろうとしている。でも紘伊は笑んで見せている。長く大学と塾で勤めていた経験から、笑みを作るのには慣れている。
「ハーツがそう言っても周りが許さないんだろ? 望まれているのなら受けた方が良いよ。ハーツが王様になったら、俺たち人もこの国に居やすくなりそうだね」
いっそハーレムに入って子を産めと命令して欲しい。そうすれば曖昧に揺れる感情の持っていき場所を決められる。
「王にはならない。それに俺にはハーレムなど必要ない」
考えてみればライオンって一頭のオスにメスが数頭の群れだった。獣人に女性はないけど、子を産む者とか受け身の者を女性に見立てたら、獅子族がハーレムを持つのも当然だ。
「獣人の子って孕ったら何日お腹の中にいるのかな? 人は十月十日って言うけど? それも種族によって違う? まだまだ知らない事がたくさんあるよ」
子どもを孕った事も、トオルを見たから分かっている。処女厨だと言ったマサキの状況も。一度孕ってしまえば別の者の子を産む事は難しくなる。細かな事は知らないけど、人とは使い捨てのアイテムだ。
紘伊はふっとハーツを見上げた。ハーツは紘伊の表情を見つめながら、唖然としており、紘伊と視線を合わせた瞬間、悲しそうに目を細める。
「いつからだ? ——いつ俺の事を見限った。なぜそんなに遠くにいる」
ハーツの手が紘伊の頬に触れようとするが、紘伊は思うよりも先に避けていた。ハーツの手が握られる。震えてもいるようだ。
「——それでも……悪いが、俺はヒロイを手放す気はないよ」
傷む表情のまま紘伊に触れ、無理やり抱き込むと、抱え上げて部屋を出る。部屋の前には従者が並んで立っており、その中にナナの姿もある。筆頭にいたトマスが一歩前に出て、ハーツを足止めする。
「まもなく夕刻の会議の時間です」
腰を曲げ、両手を腹の前で組んで、ハーツとは視線を合わせないようにしている。声も極力抑え、低く保つのが主人と従者の作法らしい。紘伊と対する姿とはまるで違い、纏う空気に畏怖が見える。
「下がれ! 誰も近づいて来るな!」
紘伊はハーツの腕に抱き上げられ、尻を支えられて肩口から後方を見る状態でいるのだが、ハーツとは視線も合わせられなかった彼らが、ハーツが背を向けた瞬間、紘伊に冷めた視線を向けて来る。ナナに至っては、嫉妬と怒りを露わにしている。それを見て紘伊は悟る。ナナはハーツと関係があったのかもしれない。でもハーツの気持ちはナナに向かってはいないのだと言うことが。
睨まれて落ち着くのも違うのかもしれないけれど、少しだけホッとする。
「ハーツ、どこへ行く?」
ハーツは紘伊を抱き上げたまま、廊下を進んで行く。すれ違う兵士や従者は、ハーツを見つけると廊下の端に寄って視線を下げる。兵士は片手を胸に、従者は腹前で組む。ハーツが通り過ぎると視線は紘伊へ向かう。疑問を持つ視線を受け、紘伊だって分からないから、そのうちハーツの肩に顔を埋め、視界を閉ざした。
2
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる