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97 会議場
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ハーツの行動を読んだ兵が脇に控えたり、ドアを開けたりする。歩いて行くだけで道が開けて行く様子を垣間見ながら、王が決まっていない状況の中でも薄れない、ハーツの存在の大きを知る。
「ハーツ、まさか——」
一際大きなドアの前には甲冑に身を固め、剣を穿いた兵がドアを守り、その脇には各種族の補佐役が別室との間を忙しく動き回っている。
「部屋に閉じ込めておいてもろくな結果にならないと分かった。閉じ込めていた理由も自分の目で見れば納得も行くだろう。そのうえでもう一度、俺を評価してくれ」
紘伊の目の前で両開きのドアが開いて行く。室内からのザワザワとした雰囲気が、ドアが開くと共に落ち着き、入室者の顔が分かると歓声に変わった。
紘伊は恥ずかしさを覚える。さっきまでエルと昼寝をしていて、着ている服は部屋着である簡単な物だし、泣いていたから目も腫れているし髪もぐちゃぐちゃになっている。しかもハーツに子どもみたいに抱き抱えられて——靴さえも履いていない裸足で。室内に揃う面々を見て恐縮する。なのにハーツは堂々とした態度で自身の席へ向かい、ハーツ専用の席、円卓のたったひとつ空いている席に紘伊を座らせ、自身は紘伊の御付きの者のように背後に立つ。
「ハーツ——」
円卓の面々とは、各種族の代表となる者たち。ここは王を選出する会議の場である。場違いすぎる紘伊はハーツに助けを求めた。が、なぜかこの場にエルがいる。円卓の紘伊からは右側になるが、3名の代表の向こう側で、皿にむしゃぶりつくように果物を食べている。ハーツが怪我をさせた部分は手当をされていて——どういう状況か分からず唖然とした。
「ハーツにいじめられたか?」
聞き覚えのある声に視線を向ければ、熊領主で——彼の笑いを含んだ言葉で場に笑い声が溢れる。
「だから言ったろ? そいつは信用ならねえって」
呆れた声を出したのはオーギュだ。虎族代表として出席しているようだ。
「傷の手当を」
紘伊の怪我を一番に気遣ってくれたのはデュオンだ。竜族領主となったのだからこの場にいるのは当然なんだけど、その脇にマサキがいる。ヒラヒラと手を振られてびっくりした。元気そうで何よりだけど。なぜ人であるマサキが出席出来るのか疑問は尽きない。
室内に円卓とは別に、見学用なのだろうか、一段低く造られた部分に置いてある椅子に、横柄な態度で座るのは、狼領主だったマリカで、相変わらずの美しさと豪華な衣装を身に纏っている。
「ヒロイ!」
果物の汁で顔や手をベタベタにして、紘伊の気配に気づいたエルが走り寄って来る。その途中で竜の従者に止められ、汚れを拭ってもらっている姿は、美しい細身の青年であるのに、表情は幼い子どもだ。バタバタと早く行きたいと態度で示し、解放された瞬間、走って来て膝に乗り上げられた。嬉しそうに頬を寄せられて、ハーツを見て睨んでいる。ぶぅっと頬を膨らませて「ハーツ、キライ」と言って、周囲の笑いを誘った。
「ハーツ、まさか——」
一際大きなドアの前には甲冑に身を固め、剣を穿いた兵がドアを守り、その脇には各種族の補佐役が別室との間を忙しく動き回っている。
「部屋に閉じ込めておいてもろくな結果にならないと分かった。閉じ込めていた理由も自分の目で見れば納得も行くだろう。そのうえでもう一度、俺を評価してくれ」
紘伊の目の前で両開きのドアが開いて行く。室内からのザワザワとした雰囲気が、ドアが開くと共に落ち着き、入室者の顔が分かると歓声に変わった。
紘伊は恥ずかしさを覚える。さっきまでエルと昼寝をしていて、着ている服は部屋着である簡単な物だし、泣いていたから目も腫れているし髪もぐちゃぐちゃになっている。しかもハーツに子どもみたいに抱き抱えられて——靴さえも履いていない裸足で。室内に揃う面々を見て恐縮する。なのにハーツは堂々とした態度で自身の席へ向かい、ハーツ専用の席、円卓のたったひとつ空いている席に紘伊を座らせ、自身は紘伊の御付きの者のように背後に立つ。
「ハーツ——」
円卓の面々とは、各種族の代表となる者たち。ここは王を選出する会議の場である。場違いすぎる紘伊はハーツに助けを求めた。が、なぜかこの場にエルがいる。円卓の紘伊からは右側になるが、3名の代表の向こう側で、皿にむしゃぶりつくように果物を食べている。ハーツが怪我をさせた部分は手当をされていて——どういう状況か分からず唖然とした。
「ハーツにいじめられたか?」
聞き覚えのある声に視線を向ければ、熊領主で——彼の笑いを含んだ言葉で場に笑い声が溢れる。
「だから言ったろ? そいつは信用ならねえって」
呆れた声を出したのはオーギュだ。虎族代表として出席しているようだ。
「傷の手当を」
紘伊の怪我を一番に気遣ってくれたのはデュオンだ。竜族領主となったのだからこの場にいるのは当然なんだけど、その脇にマサキがいる。ヒラヒラと手を振られてびっくりした。元気そうで何よりだけど。なぜ人であるマサキが出席出来るのか疑問は尽きない。
室内に円卓とは別に、見学用なのだろうか、一段低く造られた部分に置いてある椅子に、横柄な態度で座るのは、狼領主だったマリカで、相変わらずの美しさと豪華な衣装を身に纏っている。
「ヒロイ!」
果物の汁で顔や手をベタベタにして、紘伊の気配に気づいたエルが走り寄って来る。その途中で竜の従者に止められ、汚れを拭ってもらっている姿は、美しい細身の青年であるのに、表情は幼い子どもだ。バタバタと早く行きたいと態度で示し、解放された瞬間、走って来て膝に乗り上げられた。嬉しそうに頬を寄せられて、ハーツを見て睨んでいる。ぶぅっと頬を膨らませて「ハーツ、キライ」と言って、周囲の笑いを誘った。
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