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獣人の従者が人化をやめたのは、人に見目を繕う必要がなくなったからだ。
世間的には獣人国と人国とを繋ぐ道が閉ざされた事になっている。だから新たに人が来る事はない。
紘伊の部屋を訪れたのは、華奢な体つきの可愛らしい子で——紘伊は見た瞬間、ゾッとした。
「お久しぶりです、白石さま——ううん、ここでは紘伊さまですね。僕はナナと言います」
可愛らしく小首を傾げて微笑んで見せている。三角の茶色い耳の先端が白く、お尻から生えている尾がその獣人の種別を教えている。
「きみの名前、ナナって言うんだね、初めて知ったよ」
そう言うと駆け寄って来て隣に座る。寄り添う様に体を預けられて、距離を置くように避けたのに、その距離を詰められた。
「こっちに戻って来ていたんだね」
懐かしいふわふわの感触にときめいていたのは遠い過去だ。
「紘伊さまはとても出世されたんですね。まさか王城内で会えるとは思いませんでした」
ふふふと笑んで上目遣いで見つめられる。短いパンツから太ももが出ていて、手を握られて誘導され、太ももの際どい位置に運ばれた。
「勝手に入ったら怒られるよ」
「だいじょうぶですよぉ。だって僕は王族専用の愛玩従者ですから」
指を絡められて思わず手を引き抜いた。ナナは頬をぷっくり膨らませて見せて来る。前なら可愛いと鼻の下を伸ばしたんだろうけど今は違う。誰かに仕掛けられて送られたハニートラップだろうかと疑う気持ちと、王族専用の愛玩従者だと言った言葉に引っかかっている。
「愛玩従者ってなに? それと王族って、新しい王様はまだ決まっていないだろ?」
紘伊がそう言うと、ナナは驚いた表情で紘伊を見て、それからにっこりと笑みをつくる。
「やだ~紘伊さまったらおもしろーい。愛玩従者も知らないんですかぁ~? それに次の王様が誰かも知らないなんて可哀想ですぅ」
腕を指先でツンツンされて痛い。いくらキツネの獣人だっていっても力は人より強い。ましてやナナはわざと痛む様にやっている。それが仄暗く思える表情の奥から感じられた。
「愛玩従者はぁ、王族を慰める為にいるんですよぉ。それに紘伊さまだって僕の向こうのお客さまだったじゃないですかぁ? あの店は誰の店でしたっけぇ? ふふふ、わかりますよねぇ? いくらど・ん・か・ん・な紘伊さまだって、ねぇ?」
ナナの言いたい事はわかった。ナナが簡単にこの部屋に入れた意味も。紘伊の前に現れた理由も。ハーツの過去を咎めるつもりはない。紘伊と出会う前に誰と何をしていようが勝手だ。それを話す話さないもハーツの自由で——勝手に傷ついている紘伊は弱い。
「ハーツェリンド様が王になったらぁ、とても大きなハーレムがつくられるそうですよぉ? だってハーツェリンド様は、ねぇ? とぉーってもお強くて、ひとりでお相手なんて無理ですよぉ? ひとりじめなんてズルいって怒られますよぉ?」
紘伊はソファから立ち上がり、ナナに背を向けた。傷ついたら負けだ。それはハーツを信じられない事を意味してしまう。ハーツはモテる。そんな事は初めから分かっている事だ。
世間的には獣人国と人国とを繋ぐ道が閉ざされた事になっている。だから新たに人が来る事はない。
紘伊の部屋を訪れたのは、華奢な体つきの可愛らしい子で——紘伊は見た瞬間、ゾッとした。
「お久しぶりです、白石さま——ううん、ここでは紘伊さまですね。僕はナナと言います」
可愛らしく小首を傾げて微笑んで見せている。三角の茶色い耳の先端が白く、お尻から生えている尾がその獣人の種別を教えている。
「きみの名前、ナナって言うんだね、初めて知ったよ」
そう言うと駆け寄って来て隣に座る。寄り添う様に体を預けられて、距離を置くように避けたのに、その距離を詰められた。
「こっちに戻って来ていたんだね」
懐かしいふわふわの感触にときめいていたのは遠い過去だ。
「紘伊さまはとても出世されたんですね。まさか王城内で会えるとは思いませんでした」
ふふふと笑んで上目遣いで見つめられる。短いパンツから太ももが出ていて、手を握られて誘導され、太ももの際どい位置に運ばれた。
「勝手に入ったら怒られるよ」
「だいじょうぶですよぉ。だって僕は王族専用の愛玩従者ですから」
指を絡められて思わず手を引き抜いた。ナナは頬をぷっくり膨らませて見せて来る。前なら可愛いと鼻の下を伸ばしたんだろうけど今は違う。誰かに仕掛けられて送られたハニートラップだろうかと疑う気持ちと、王族専用の愛玩従者だと言った言葉に引っかかっている。
「愛玩従者ってなに? それと王族って、新しい王様はまだ決まっていないだろ?」
紘伊がそう言うと、ナナは驚いた表情で紘伊を見て、それからにっこりと笑みをつくる。
「やだ~紘伊さまったらおもしろーい。愛玩従者も知らないんですかぁ~? それに次の王様が誰かも知らないなんて可哀想ですぅ」
腕を指先でツンツンされて痛い。いくらキツネの獣人だっていっても力は人より強い。ましてやナナはわざと痛む様にやっている。それが仄暗く思える表情の奥から感じられた。
「愛玩従者はぁ、王族を慰める為にいるんですよぉ。それに紘伊さまだって僕の向こうのお客さまだったじゃないですかぁ? あの店は誰の店でしたっけぇ? ふふふ、わかりますよねぇ? いくらど・ん・か・ん・な紘伊さまだって、ねぇ?」
ナナの言いたい事はわかった。ナナが簡単にこの部屋に入れた意味も。紘伊の前に現れた理由も。ハーツの過去を咎めるつもりはない。紘伊と出会う前に誰と何をしていようが勝手だ。それを話す話さないもハーツの自由で——勝手に傷ついている紘伊は弱い。
「ハーツェリンド様が王になったらぁ、とても大きなハーレムがつくられるそうですよぉ? だってハーツェリンド様は、ねぇ? とぉーってもお強くて、ひとりでお相手なんて無理ですよぉ? ひとりじめなんてズルいって怒られますよぉ?」
紘伊はソファから立ち上がり、ナナに背を向けた。傷ついたら負けだ。それはハーツを信じられない事を意味してしまう。ハーツはモテる。そんな事は初めから分かっている事だ。
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