獣人カフェで捕まりました

サクラギ

文字の大きさ
上 下
91 / 112

91 疑惑

しおりを挟む
「ハーツは王様にならないよ」

 紘伊に出来る反撃はこれしかない。自分が愛されていると信じて、ナナを遠ざける事。でもナナは可愛い仕草で笑って見せる。

「それはあなた個人の願望でしょう? あなたの価値なんて子どもが出来る事だけなのに。何か勘違いしてませんかぁ?」

 獣人の軽い動きで距離を詰められる。胸元に突きつけられた爪が皮膚に食い込む。

「こーんな所に監禁されて、ハーツェリンド様に甘やかされて、ぽぉっと頬を染めて骨抜きにされているんですよねぇ?」

 首に手を回されて、背伸びをしたナナの唇が見下ろせば重なる位置にある。ナナから甘い誘うような香りがしている。仰け反って逃げようとしても獣人の力から逃れられない。

 ナナの可愛らしい表情が暗く歪む。

「ハーチェリンド様のアレはぁ、長くておおきいからぁ、奥のふかぁーい場所までえぐられて、意識とんじゃうの、きもちイイですよねぇ?」

 耳を引っ張られて、吐息と共に耳に吹き込まれた言葉に胸が軋むように傷んだ。本当ではないと思う。でも本当かもと思ってしまう。体の奥深くをえぐられた感覚が蘇って来て、ナナのセリフに体感が重なる。

「離れてくれ」

 胸を押しやろうとしたら、軽く手が触れただけで倒れて見せたナナのヤリ口が以前の光景を呼び覚ます。狼族のヴォグだ。姿はまるで違うのに、印象が重なっている。ヴォグは狼領主の伴侶だった。しかも複数いる伴侶のひとりで——獣人には珍しくない光景だと知ってしまっている。

「顔色が悪いですよぉ? 傷ついちゃいましたかぁ?」

 クスクス笑っている表情が歪んでいる。紘伊が傷ついた分だけ喜んでいるのだろう。

 ドアがノックされる。紘伊は驚いて身をビクつかせた。同時にナナがシナを作る。可哀想な私を演出している。

「ハーチェリンド様?」

 ナナの目に涙が浮かび、歓喜で頬をピンクに染めている。

 ドアが開く。紘伊は動揺した。この状況をどう取られるのか。ナナの意見が真実であるのなら、紘伊は将来の伴侶仲間へ暴力をふるった事にならないか。それともたかが人が獣人を傷つけたと捕らえられるのだろうか。

「ナナ様、なぜこちらに? ハーツェリンド様のお呼びは掛かっておりませんが?」

 現れたのはトマスだったが、トマスがナナにかけた言葉にも傷ついた。ハーツがナナをこの部屋に呼ぶ事があると知ってしまったからだ。

「えーそうだった? そっか、まだ時間が早かったね?」

 ナナは紘伊をチラッと見てからトマスを見上げ、優雅な態度で右手を差し出す。トマスは慣れた仕草でナナの手を取り、引き上げて立たせている。

「ありがとうトマス」

 ナナにはハーツの部屋に入る権利があるし、トマスを呼び捨てる権利もある。トマスはナナに様を付け、紘伊よりも優先させている。

 ナナが部屋を出て行き、ドアを閉めて振り返ったトマスは、食器を引き取りに来たらしく、テーブルにあるほとんど手を付けていない食事状況に疑問を抱き、顔を紘伊に向けて、やっと紘伊の普通ではない状況に気づいたようだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

竜王の妃は兎の薬師に嫁ぎたい

にっきょ
BL
大きな山を隔て、人間界と動物界が並ぶ世界。 人間界の小村から動物界の竜王に友誼の印として捧げられた佑は、側室として居心地の悪い日々を送っていた。 そんな中、気晴らしにと勧められたお祭りを見に行く途中、乗っていた蜘蛛車が暴走し、車外に放り出されてしまう。頭に怪我を負った佑を助けてくれたのは、薬師の明月だった。 明月がどうやら佑の身分を知らないようだ、ということに気づき、内裏に戻りたくなかった佑はとっさに嘘をつく。 「名前が思い出せない。自分が誰か分からない」 そして薬師見習いとして働き始める佑だったが、ひょんなことから正体がばれ、宮中に連れ戻されてしまう。 愛している、けれども正体を知ってしまったからには君と付き合うことはできない――明月は、身分を明かした佑にそう告げるのだった。 お花好きで気弱な白兎の薬師×姉の代わりに嫁いできた青年

処理中です...