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88 決意
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獣人国の空は広い。
高層ビルがないせいもあるし、空気が澄んでいるからかもしれない。
獣化したエルはとても綺麗な日に透けると透明度を増すシルバーの鱗を持つ、まだ成長途中の小柄な体格だ。紘伊はエルの竜化を初めて見た時、人化の時と同様に綺麗だと思った。だけど竜の基準で行くとエルはまだ半人前で、鱗は美しいが成獣としての美しさはなく、子どもの域を越えていないと聞く。
「向こうでエルを竜化させる事はできないし、ウェルズ領ではエルにとって窮屈だろうし、だからってストムズ領には行きたくないし。中央区もなぁ……堅苦しいと思うんだよな」
紘伊としてはウェルズ領の家に住んでユウ達の成長を見守りながらハーツと暮らすのが良いような気がしている。ハーツと再会する前に暮らしていてずいぶん慣れているからだ。でもそこにハーツがいたらどうかと思う所もある。元王弟で、現在の役職は未定だけど、一般民と仲良く身分差なく暮らせるかと考えたら難しそうだ。別居? と一瞬よぎった思考は追い払っておく。ハーツと離れると、離れたぶんだけ存在が遠くなってしまう気がしているからだ。
だいたいハーツが紘伊を想っていてくれているのも紘伊にしてみれば奇跡だ。紘伊から見ればハーツにお似合いの相手なんてたくさんいる。ハーツが紘伊を好きになってくれたきっかけが、獣人に怯えない性質なんて曖昧な部分である事も納得できていない。ただハーツの想いは疑っていないから、無理矢理納得させているのだけど。
「ヒロイは考え過ぎる所があるな。エルは竜だ、今はヒロイを必要としているが、生体になれば親離れをするし竜は飛べる。居場所など好きに決めるだろう」
紘伊の独り言にハーツがヒントをくれる。なるほどエルは飛べる。寝場所が紘伊のいるウェルズ領であっても、生活場所はどこにでもできる。そう考えたらスッキリした。
「ハーツありがとう」
未だにベッドから起き上がれない紘伊の為に、ハーツは仕事を自室へ持ち込んで紘伊の側にいてくれる。紘伊が熱い視線をハーツに送ったら、ソファに座りながら書類に目を通していたハーツは立ち上がり、紘伊のいるベッドへ来て腰を下ろす。
「何に対するお礼の言葉なのかわからないが、気持ちが定まったのか?」
紘伊の頬に触れたハーツの手が、するりと撫でて顎を上向かせて来る。近づいてくる影に合わせて目を閉じれば、緩く唇が重なって来る。目を開ければハーツの綺麗な瞳が間近にあって、すっと細められる表情に見惚れてしまう。ほんとうにこんなに格好良くて紘伊のタイプど真ん中の獣人が紘伊を甘やかしてくれる現実が事実になるなんて。
「ハーツのそばにいたい。できればウェルズ領の家で静かに暮らしたい」
陶酔する気持ちでハーツを見つめ、そう言葉にすれば、ハーツは緩く笑んでくれた。
「愛してる」
紘伊の言葉に応えるようにハーツが見つめて来る。深く唇が重なった。
高層ビルがないせいもあるし、空気が澄んでいるからかもしれない。
獣化したエルはとても綺麗な日に透けると透明度を増すシルバーの鱗を持つ、まだ成長途中の小柄な体格だ。紘伊はエルの竜化を初めて見た時、人化の時と同様に綺麗だと思った。だけど竜の基準で行くとエルはまだ半人前で、鱗は美しいが成獣としての美しさはなく、子どもの域を越えていないと聞く。
「向こうでエルを竜化させる事はできないし、ウェルズ領ではエルにとって窮屈だろうし、だからってストムズ領には行きたくないし。中央区もなぁ……堅苦しいと思うんだよな」
紘伊としてはウェルズ領の家に住んでユウ達の成長を見守りながらハーツと暮らすのが良いような気がしている。ハーツと再会する前に暮らしていてずいぶん慣れているからだ。でもそこにハーツがいたらどうかと思う所もある。元王弟で、現在の役職は未定だけど、一般民と仲良く身分差なく暮らせるかと考えたら難しそうだ。別居? と一瞬よぎった思考は追い払っておく。ハーツと離れると、離れたぶんだけ存在が遠くなってしまう気がしているからだ。
だいたいハーツが紘伊を想っていてくれているのも紘伊にしてみれば奇跡だ。紘伊から見ればハーツにお似合いの相手なんてたくさんいる。ハーツが紘伊を好きになってくれたきっかけが、獣人に怯えない性質なんて曖昧な部分である事も納得できていない。ただハーツの想いは疑っていないから、無理矢理納得させているのだけど。
「ヒロイは考え過ぎる所があるな。エルは竜だ、今はヒロイを必要としているが、生体になれば親離れをするし竜は飛べる。居場所など好きに決めるだろう」
紘伊の独り言にハーツがヒントをくれる。なるほどエルは飛べる。寝場所が紘伊のいるウェルズ領であっても、生活場所はどこにでもできる。そう考えたらスッキリした。
「ハーツありがとう」
未だにベッドから起き上がれない紘伊の為に、ハーツは仕事を自室へ持ち込んで紘伊の側にいてくれる。紘伊が熱い視線をハーツに送ったら、ソファに座りながら書類に目を通していたハーツは立ち上がり、紘伊のいるベッドへ来て腰を下ろす。
「何に対するお礼の言葉なのかわからないが、気持ちが定まったのか?」
紘伊の頬に触れたハーツの手が、するりと撫でて顎を上向かせて来る。近づいてくる影に合わせて目を閉じれば、緩く唇が重なって来る。目を開ければハーツの綺麗な瞳が間近にあって、すっと細められる表情に見惚れてしまう。ほんとうにこんなに格好良くて紘伊のタイプど真ん中の獣人が紘伊を甘やかしてくれる現実が事実になるなんて。
「ハーツのそばにいたい。できればウェルズ領の家で静かに暮らしたい」
陶酔する気持ちでハーツを見つめ、そう言葉にすれば、ハーツは緩く笑んでくれた。
「愛してる」
紘伊の言葉に応えるようにハーツが見つめて来る。深く唇が重なった。
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