獣人カフェで捕まりました

サクラギ

文字の大きさ
上 下
87 / 112

87 居場所

しおりを挟む
 紘伊はハーツのそばにいる選択をした。その選択は間違っていないようで、ハーツは紘伊のやりたいようにさせてくれようとしたけど、紘伊が好きなのは獣人のハーツで、人化したハーツを紘伊は望んでいない。

 紘伊は自分の気持ちを固め、一呼吸おいて顔を上げ、ハーツに笑顔を見せると、たくさんキスをして腫れたように感じる唇をハーツの唇に触れさせた。

「ハーツ、ハーツは何になりたい?」

「紘伊の望むものに」

 ハーツの願いはずっと変わらない。でも最初から王になる気も領主になる気もなかったと思う。自由な立ち位置だからこそ、向こうに行って裏の仕事を担っていたのだと思う。それに兄弟仲が悪い訳でもない事を知っている。ただ王であった兄がハーツを恐れてしまった。離れている時間が長かったせいと、向こうでのハーツの仕事が思った以上の功績をあげたせいもある。要はハーツが力を持ち過ぎたのだ。

「俺はユウとの約束があるし、向こうだとエルが窮屈そうだと思うし」

 ハーツの背中に腕を回しながらキスの距離でハーツを見つめる。

「ハーツと毎日会いたい」

 そう言うとハーツが嬉しそうに表情を崩し、紘伊を抱きしめてくれた。胸元に抱き込まれると少し柔らかめな胸の獣毛にくすぐられて気持ちいい。

「門をウェルズの家と繋いでしまおうか」

「そんな事ができるの?」

 ハーツの言葉を聞いて体を起こす。
 門は現在、王城の地下室と研究施設の地下と繋がっている。今回はエルの能力が作用して門が開き、紘伊の望む場所、ハーツの居場所へ導かれたのだが、これはきっと頻繁にできるものではない。

「こうして突然ヒロイが現れるのも嬉しいが、特殊な方法は後にどんな副作用があるか分からないから、あまり多用しない方が良いだろう」

 ハーツの言いように紘伊は不貞腐れる。エルに気持ちを読まれるくらい、ハーツに会いたかった。そう思わせるくらいハーツは紘伊を放置していたのだ。

「だったらもっと会えるようにしてくれよ」

 体勢を替えてハーツの仰向けの上に乗る。呼吸で上下するのを楽しみながら、全てが密着する事でハーツを強く感じる。

「次期王の選別は長期を要する。俺がいない方が纏まるかもしれない。ヒロイが望むのなら向こうで暮らす。ヒロイがウェルズに居たいと望むのなら、領の仕事を手伝う事にする。俺の全てをヒロイに委ねる。もうヒロイを寂しくさせない。それにエルが懐きすぎるのも勘に触る」

「嫉妬?」

 そう言うとハーツに抱き込まれて位置を替えられた。ハーツの両腕の間で仰向けになっていて、深く唇を合わせられ、苛立つように攻められた。

「エルはおまえの竜だ。多少は目を瞑る。だがお前の全ては俺のものだ。嫉妬させるな」

 だったら毎日側にいて、毎日抱きしめられる距離で眠って欲しい。

「ウェルズに帰ろうかな」

 激しいキスの合間に吐息のような言葉を伝えた。息で笑ったハーツの表情が格好良過ぎて蕩けてしまう。

「ヒロイの望み通りに、愛してるよ、ヒロイ」

 もう心も体も蕩けている。全てがハーツに捕えられている。

「俺も愛してる、ハーツ」

 何度してもしたりない。ハーツが欲しい。ハーツに求められて紘伊の中の寂しさが埋められて行く。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

ふたりの距離

春夏
BL
【完結しました】 予備校で出会った2人が7年の時を経て両想いになるまでのお話です。全9話。

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

エスポワールで会いましょう

茉莉花 香乃
BL
迷子癖がある主人公が、入学式の日に早速迷子になってしまった。それを助けてくれたのは背が高いイケメンさんだった。一目惚れしてしまったけれど、噂ではその人には好きな人がいるらしい。 じれじれ ハッピーエンド 1ページの文字数少ないです 初投稿作品になります 2015年に他サイトにて公開しています

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

処理中です...