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75 理由

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 竜の背に移動して、マサキとの再会を喜んだ。

「ヒロイ、ありがとうね。今度は僕が助ける番だよ」

 マサキは何かを知っている。やはりウェルズ領を出た方が情報を得られるようだ。

「人界から来た虎族が処分されると聞いたけど」

 紘伊はオーギュの顔を見たら聞かずにはいられなかった。

「直前でハーツが止めたぜ?」

 オーギュが言う。

「王命でハーツが王軍を指揮して、処分が決まった者を一箇所に集めさせたんだ。俺はハーツを止めたくてヒロイを利用しようとしていたんだが——ハーツに処分の意思はなかった」

「どういうこと?」

 オーギュの珍しく真剣な表情がある。

「俺はハーツを敵だと思っていた。お前の事も建前だけで、どうせ捨てて王命には逆らえないんだと思っていた。でもハーツはお前の為に王命に叛いた。処分対象になった人をぜんぶ守って戦ってる」

 竜の向かう先は南。竜族の領がある方向だ。

「戦うって……」

 思考が追いついていない。だって獅子の軍はウェルズ領に帰還している。ハーツは王弟だ。いくら王弟といえど王命に逆らい、味方になってくれる者などいるのだろうか。

「虎族がいる。あとはハーツを慕う者が味方している。熊族も手を貸してくれているそうだ」

 紘伊はオーギュ説明を聞き、多くの味方がいるのだと少しだけ不安を拭う。マサキが心配そうに見て来て、手を握ってくれた。

「ヒロイ、大丈夫だよ。デュオンが竜族の長なんだよ。デュオンはハーツの味方だって言ってた」

 背に乗せてくれている竜は竜族ではない野生の竜だ。なのに紘伊たちを拒む事なく乗せてくれているのは、竜族長の命令なのだろう。

「竜族と熊族、獅子族も領はハーツの味方だ。分かるだろ?」

 オーギュはニヤリと笑む。

「4大種族の内の3大種族の同意?」

 それは紘伊が熊族と狼族の領へ行く事になった原因だ。この時は竜族の王の退位要求に対し、他領が同意しなかった為、王退位、次王位をかけた争いには至らなかった。だけど今回は違う。ハーツを救う為に3大種族が合意する。

「じゃあ、王位争いになる?」

 それもまた怖い。
 紘伊は実際にどうやって争われるのか知らないが、王位をかけた争いが簡単に終わる訳がないと思う。

「あそこだ、見えて来た」

 オーギュが示す方を見る。

「あそこはお前のせいで奪われた、爬虫類の領地だぜ?」

 竜が高度を下げて行く。領地といっても壁で囲われている訳でもなく、門で入領制限が行われている訳でもない。ただ海岸線が続く波打ち際と、海に注ぐ大河が見える。あとは切り立った崖と崩れた建物の残骸があり、人の姿は見えなかった。

「王軍は撤退してるな」

 竜が崖と海岸の境に下りる。
 竜の背から先に降りたオーギュの手を借り、紘伊とマサキも砂浜に降りた。

 潮風が髪を乱す。懐かしくも感じる波の繰り返す音。潮の香りと強い日差し。竜の背に乗り飛べば、各領地の行き来も簡単になる。

「マサキ」

 崖の上から竜族の者が降りて来て、見つけて駆け寄るマサキを抱き止めた。

 オーギュも虎族の仲間の元へ行くのだろう。紘伊を見る事もなく歩いて行く。竜も風を巻き上げる様にして飛び立ち、紘伊がひとりで残されている。

 ハーツがいるのだろうか。いるならどこに? せめて居場所くらい教えて欲しいとオーギュの背を追った。
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