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74 後悔
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異世界生活に慣れて来たなと思うのは、共同洗濯場で洗濯をして、獣人語で世間話に交じっている時や、市場へ買い物に出た時に、見た事もない肉や野菜の調理法を聞く事が出来るようになった時だった。
街の住民の噂話から、中央区の情報が耳に届く。
人界から保護された獣人を始末させたという噂が広がっている。ただの噂だと信じないようにしているけど、あの時、オーギュの誘いに着いて行っていたら、虎族の血を引く者たちを助けられたのかも、とタラレバが頭を過ぎる。
たかが人である紘伊に出来ることなどないと思いながら、人であるから、人としてやらなければならなかったのでは? と後悔が先に立つ。
もっと早くハーツを求めれば良かった。こんなに長い時間を離れて暮らす事になるとは考えてもいなかった。中央区へ行けば、ウェルズ領へ戻ればハーツが待っている。ハーツの方から紘伊の元へ戻って来てくれると思い込んでいた。
もう見限られたと言いながら、そんなはずはない。ハーツが戻らない訳がないと、信じる事で自分を守っていたのだと知る。
ウェルズ領に来て10日が経っている。聞こえて来るのは噂話で、各領地の現在の様子と王都での出来事が中心で、その中に王弟の話題は出て来ない。
ユウはハーツの事情など知らないのだと思う。早く帰って来ると良いねといつも笑顔で言ってくれる。詳しくは知らないのだろうなと思いながらも、ユウの笑顔には癒されている。
10日、時に流されるように暮らした。キースも軍に関わる者たちも、紘伊を避けているのだろう。そのくせ監視されている気がしている。それほど聡い訳ではないが、一定の距離を空けて外出先を確認されているようだ。
ウェルズ領から離れよう。ハーツの情報を得る為には、ウェルズ領から出なければならない。そう思い立ち、市場へむかっている足を門へと向けた。紘伊はウェルズ領の住民ではない。誰かに監視される謂れもない。それなのに向かう先が門だと見当を付けられた瞬間、兵に腕を掴まれた。
「お戻り下さい。門を出るには許可が必要です」
片腕を兵の脇に取られ、方向を転換させられる。
「なぜ許可が必要なのですか?」
「あなたはハーツ様の大切な方だと聞いております」
「だったらなぜハーツがいない? せめて行方くらい教えろよ!」
道で騒いだら道行く者が足を止めて見やっている。獣人語も少しだけ理解できるから、人が騒いでいると小声で非難されているのも聞こえる。
「ヒロイ!」
声に気づいた時には、兵に飛びかかった者の手に引かれて、抱え上げられていた。
「探したぜ」
深くフードを被った者の声で分かった。オーギュだ。紘伊を抱えたまま向かって来る兵を蹴散らして門へと走る。紘伊は邪魔にならないように荷物に徹した。
門を抜けて領主城から離れて行く。ウェルズ領の外門を目指すのかと思ったら、方向を変えて奥へと向かって行く。オーギュの肩越しに外門へウェルズ軍の兵が集まって行くのが見えた。
「獅子族に監禁でもされてるのかと思ったぜ」
屋根を越えて砂漠へ繋がる道を走っている。その先に見えて来たものがある。
「ヒロイ!」
竜が紘伊の方へ向かって来る。その背から名を呼ばれ、それが日本語だったから、マサキだと分かった。
オーギュが竜の足を掴んで空へ舞い上がって行く。あっという間に領主城が小さくなる。
「ハーツの所へ連れて行ってやるよ」
オーギュの言葉を聞いて胸が傷んで涙が浮かぶ。生きていた。どこかでハーツの死も予感していた。みんながハーツの存在を隠す理由として強いのはそれだったからだ。
「会いたい……ハーツに会いたい」
オーギュの腕の中に守られながら、願うのはハーツとの再会だった。
街の住民の噂話から、中央区の情報が耳に届く。
人界から保護された獣人を始末させたという噂が広がっている。ただの噂だと信じないようにしているけど、あの時、オーギュの誘いに着いて行っていたら、虎族の血を引く者たちを助けられたのかも、とタラレバが頭を過ぎる。
たかが人である紘伊に出来ることなどないと思いながら、人であるから、人としてやらなければならなかったのでは? と後悔が先に立つ。
もっと早くハーツを求めれば良かった。こんなに長い時間を離れて暮らす事になるとは考えてもいなかった。中央区へ行けば、ウェルズ領へ戻ればハーツが待っている。ハーツの方から紘伊の元へ戻って来てくれると思い込んでいた。
もう見限られたと言いながら、そんなはずはない。ハーツが戻らない訳がないと、信じる事で自分を守っていたのだと知る。
ウェルズ領に来て10日が経っている。聞こえて来るのは噂話で、各領地の現在の様子と王都での出来事が中心で、その中に王弟の話題は出て来ない。
ユウはハーツの事情など知らないのだと思う。早く帰って来ると良いねといつも笑顔で言ってくれる。詳しくは知らないのだろうなと思いながらも、ユウの笑顔には癒されている。
10日、時に流されるように暮らした。キースも軍に関わる者たちも、紘伊を避けているのだろう。そのくせ監視されている気がしている。それほど聡い訳ではないが、一定の距離を空けて外出先を確認されているようだ。
ウェルズ領から離れよう。ハーツの情報を得る為には、ウェルズ領から出なければならない。そう思い立ち、市場へむかっている足を門へと向けた。紘伊はウェルズ領の住民ではない。誰かに監視される謂れもない。それなのに向かう先が門だと見当を付けられた瞬間、兵に腕を掴まれた。
「お戻り下さい。門を出るには許可が必要です」
片腕を兵の脇に取られ、方向を転換させられる。
「なぜ許可が必要なのですか?」
「あなたはハーツ様の大切な方だと聞いております」
「だったらなぜハーツがいない? せめて行方くらい教えろよ!」
道で騒いだら道行く者が足を止めて見やっている。獣人語も少しだけ理解できるから、人が騒いでいると小声で非難されているのも聞こえる。
「ヒロイ!」
声に気づいた時には、兵に飛びかかった者の手に引かれて、抱え上げられていた。
「探したぜ」
深くフードを被った者の声で分かった。オーギュだ。紘伊を抱えたまま向かって来る兵を蹴散らして門へと走る。紘伊は邪魔にならないように荷物に徹した。
門を抜けて領主城から離れて行く。ウェルズ領の外門を目指すのかと思ったら、方向を変えて奥へと向かって行く。オーギュの肩越しに外門へウェルズ軍の兵が集まって行くのが見えた。
「獅子族に監禁でもされてるのかと思ったぜ」
屋根を越えて砂漠へ繋がる道を走っている。その先に見えて来たものがある。
「ヒロイ!」
竜が紘伊の方へ向かって来る。その背から名を呼ばれ、それが日本語だったから、マサキだと分かった。
オーギュが竜の足を掴んで空へ舞い上がって行く。あっという間に領主城が小さくなる。
「ハーツの所へ連れて行ってやるよ」
オーギュの言葉を聞いて胸が傷んで涙が浮かぶ。生きていた。どこかでハーツの死も予感していた。みんながハーツの存在を隠す理由として強いのはそれだったからだ。
「会いたい……ハーツに会いたい」
オーギュの腕の中に守られながら、願うのはハーツとの再会だった。
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