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ハーツがどうしているのか、聞くのは容易い。でも周りから言って来ないのもおかしく感じるので、紘伊から言い出せずにいる。
紘伊が案内されたのは、もうとても遠い昔に話していた気がする、紘伊を先生にするという試みの施設で、領主城から一番近い街の中に造られた日干し煉瓦の建物だった。
街全体が砂に溶け込む色をしていて、建物が連なり、日陰を多く持つ造りだ。地下水が水路になって流れていて、家には地下室が造られている。
丸い半円の屋根は共同施設で、高い塔は風を捕まえて下の施設へ通す自然乾燥を目的として建てられている。
街の共同施設が一棟増設されていて、その地下に紘伊の部屋が用意されていた。紘伊に仕える使用人がいて、身の回りの世話をしてくれる。ウェルズ領に住む獣人は、そのほとんどが獅子族だというのに、落ち着いて治安の良い場所だった。
トオルはヴィルと仲が良い。考えてみればトオルたちが竜族から逃れて中央区へ行く時、ヴィルが同行していたのだ。紘伊の知らない付き合いがある。なのになぜトオルがヴィルにまで怯えたのかと思えば、そういえばあの時のヴィルは人化をしていたのだ。それでは気付けない。
だからあの時、ヴィルはトオルに気兼ねなく手を差し伸べたし、同乗を快く引き受けたのかと今更に知る。さらには現在ヴィルの家にはトオルがいる。まるで家族のように暮らしていると、使用人から聞いた。
共同施設には長机が用意されていて、その前方に紘伊の机が用意されているのだが、紘伊はまだ自分専用だという机に着いた事がない。
ユウたちは、朝早くと日中を避けた夕方から学校に通っていて、休みの日に紘伊の元へやって来る。2日行って3日休む制度の学校はとても緩い授業内容のようだ。どうやら身分によって教育を受ける施設が違うようで、身分の高い者の子は家庭教師を雇い自宅で教育を受け、年に一度ある入学試験を受ける。試験に受かれば中央区にある寮制の学校へ行く。
ユウも身分の高い親の子だけど、親が人だと扱いが違うらしいのだと、純粋な血を引く獣人の子の態度で悟った。なので紘伊に近づいて来る子は、人の子か、人に免疫のある子だけだった。
紘伊はトオルから獣人語を学んでいる。だから専用の机ではなく長机に着いている。紘伊にとってはユウが良い勉強相手だ。
「トオルはどうして言葉が話せるの?」
ユウがトオルに質問をする。
「獣人の伴侶になる約束をしていたからね」
トオルの獣人に対する怯えは、街にいる住民には発揮されない。高官や役人が持つ強い威圧に怯えを感じてしまうが、ヴィルの側にいてずいぶん慣れたようだった。
「トオルは約束した相手がいるの? なのにヴィルの家にいるの?」
ユウの質問に紘伊の方が驚いてしまった。でもトオルの態度は変わらない。恥ずかしそうに笑ってユウの髪を撫でる。
「残念だけど振られちゃったんだよ」
そっか~と今度はユウが、椅子に膝立ちになってトオルの髪を撫でた。
「じゃあヴィルに優しくしてもらわないとだね!」
ユウの言葉を聞いてテレているトオルはとても穏やかな表情をしている。トオルにはこの領の空気が合っているようだ。
「優しくしてもらってるんだ」
紘伊がニヤッと見やれば、トオルはさらにテレて頬を赤くする。
「そういう意味じゃないよ? ヴィルは元から優しいんだ」
「確かに優しいけど、トオルには特別に優しいと思うな」
ねーっとユウと視線を合わせてにっこりすれば、トオルは揶揄うなよと机に突っ伏している。穏やかな生活が過去を忘れさせてくれたら良いと心の中で願っている。
紘伊が案内されたのは、もうとても遠い昔に話していた気がする、紘伊を先生にするという試みの施設で、領主城から一番近い街の中に造られた日干し煉瓦の建物だった。
街全体が砂に溶け込む色をしていて、建物が連なり、日陰を多く持つ造りだ。地下水が水路になって流れていて、家には地下室が造られている。
丸い半円の屋根は共同施設で、高い塔は風を捕まえて下の施設へ通す自然乾燥を目的として建てられている。
街の共同施設が一棟増設されていて、その地下に紘伊の部屋が用意されていた。紘伊に仕える使用人がいて、身の回りの世話をしてくれる。ウェルズ領に住む獣人は、そのほとんどが獅子族だというのに、落ち着いて治安の良い場所だった。
トオルはヴィルと仲が良い。考えてみればトオルたちが竜族から逃れて中央区へ行く時、ヴィルが同行していたのだ。紘伊の知らない付き合いがある。なのになぜトオルがヴィルにまで怯えたのかと思えば、そういえばあの時のヴィルは人化をしていたのだ。それでは気付けない。
だからあの時、ヴィルはトオルに気兼ねなく手を差し伸べたし、同乗を快く引き受けたのかと今更に知る。さらには現在ヴィルの家にはトオルがいる。まるで家族のように暮らしていると、使用人から聞いた。
共同施設には長机が用意されていて、その前方に紘伊の机が用意されているのだが、紘伊はまだ自分専用だという机に着いた事がない。
ユウたちは、朝早くと日中を避けた夕方から学校に通っていて、休みの日に紘伊の元へやって来る。2日行って3日休む制度の学校はとても緩い授業内容のようだ。どうやら身分によって教育を受ける施設が違うようで、身分の高い者の子は家庭教師を雇い自宅で教育を受け、年に一度ある入学試験を受ける。試験に受かれば中央区にある寮制の学校へ行く。
ユウも身分の高い親の子だけど、親が人だと扱いが違うらしいのだと、純粋な血を引く獣人の子の態度で悟った。なので紘伊に近づいて来る子は、人の子か、人に免疫のある子だけだった。
紘伊はトオルから獣人語を学んでいる。だから専用の机ではなく長机に着いている。紘伊にとってはユウが良い勉強相手だ。
「トオルはどうして言葉が話せるの?」
ユウがトオルに質問をする。
「獣人の伴侶になる約束をしていたからね」
トオルの獣人に対する怯えは、街にいる住民には発揮されない。高官や役人が持つ強い威圧に怯えを感じてしまうが、ヴィルの側にいてずいぶん慣れたようだった。
「トオルは約束した相手がいるの? なのにヴィルの家にいるの?」
ユウの質問に紘伊の方が驚いてしまった。でもトオルの態度は変わらない。恥ずかしそうに笑ってユウの髪を撫でる。
「残念だけど振られちゃったんだよ」
そっか~と今度はユウが、椅子に膝立ちになってトオルの髪を撫でた。
「じゃあヴィルに優しくしてもらわないとだね!」
ユウの言葉を聞いてテレているトオルはとても穏やかな表情をしている。トオルにはこの領の空気が合っているようだ。
「優しくしてもらってるんだ」
紘伊がニヤッと見やれば、トオルはさらにテレて頬を赤くする。
「そういう意味じゃないよ? ヴィルは元から優しいんだ」
「確かに優しいけど、トオルには特別に優しいと思うな」
ねーっとユウと視線を合わせてにっこりすれば、トオルは揶揄うなよと机に突っ伏している。穏やかな生活が過去を忘れさせてくれたら良いと心の中で願っている。
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