獣人カフェで捕まりました

サクラギ

文字の大きさ
上 下
55 / 112

55 謝罪

しおりを挟む
 次の日の朝、朝食と共にやって来た従者に、いつ領主と会えるかと聞けば、本日は忙しくお時間が取れないようですと告げられる。

「ハーツが来るのは? それも聞けない?」

 ホテルの朝食みたいにいろんな料理の皿が並んだテーブルを前に、おいしく口に運びながら悪態をついている。横に立つ従者は人化をした獣人だから表情は変わらない。ただ申し訳なさそうに項垂れて見せている。

「今夜辺りに到着されるとは思うのですが、正確には何とも……」

「絶対だな?」

 ここへ来て4日目だ。本来の約束としては10日間ここにいなくてはならないのだけど、それが竜族を欺く言い訳でしかない事を紘伊は知っている。こうしている間に竜族と何かがあってトラブルに見舞われていたら——ハーツの身を案じる気持ちもある。

「到着されましたら報告に参ります」

 従者が下がると部屋が静かになる。この3日間まともに話してくれる者もおらず、部屋に戻れば広い空間にひとりきりで退屈すぎる。ハーツといた時が楽しくて幸せで、実は夢じゃないのかと思うくらい、ここでの暮らしに参っている。

 だからと言ってハーツ以外には望んでいないのに、ノックと共に現れたのは、昨夜悪態をついて来た領主の伴侶のひとりのヴォグだった。

「昨夜の失態を謝罪しに参りました。どうかお許しください」

 閉めたドアの前で土下座をして絨毯に頭をつけている。耳がしゅんとなっている所を見ると本心かもしれないが、昨夜の態度を思うとやらされているんだろうと思えた。しかも服装がおかしい。この領の従者はスーツで、昨夜の彼らは緩いシャツとパンツというラフな格好をしていたけど、基本は高級な服装をつけている。それこそ紘伊の世界のハイブランドな布も縫製もしっかりした一目で高級だと分かるものだ。それなのにヴォグは簡素な膝丈のシャツ一枚だけで足も裸足という格好だ。プライドの高そうなヴォグがする格好とは思えない。

「別に怒っていないけど、俺がどう思おうが関係ないんじゃないのか?」

「そんな事はございません。領主のお客人であるヒロイ様に対して行った私の態度は罰せられる程のものであったと反省しています」

「立って? 謝罪はいらない。もしかして領主に怒られたのか? だったら謝罪を受け取りましたと伝えてくれたら良いよ。俺は早く帰りたいだけだから、ついでにハーツがいつ来るか聞いて来てくれないか?」

 若い子に土下座をされているのも心苦しい。塾にも悪ぶって悪態をついて来る子がいた。だからといって土下座させる事はない。まあ親に連絡が行くからその後の事は知らないが。

「お許し頂けるのですか?」

 ヴォグはゆっくり立ち上がり、紘伊との距離を詰めて来る。隣の席に座るのかなと思っていたら、膝に手を置かれて、キスの距離で見上げられ、青い宝石のような目で見つめられていた。それはとても魅力的なお誘いの方法なのだろうけど、紘伊には不快でしかない。

「やめてくれ」

 肩を押しやると簡単に絨毯に倒れた。いやいや獣人が紘伊如きの力で倒れる訳がない。上手に倒れて肩が痛かった風に手で押さえて、悲しそうな、痛々しい表情で紘伊を見上げている。同情を誘いたいのか? 暴力を受けたと被害者ぶりたいのか? ヴォグを信用する事はできなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

初恋

春夏
BL
【完結しました】 貴大に一目惚れした将真。二人の出会いとその夜の出来事のお話です。Rには※つけます。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...