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55 謝罪
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次の日の朝、朝食と共にやって来た従者に、いつ領主と会えるかと聞けば、本日は忙しくお時間が取れないようですと告げられる。
「ハーツが来るのは? それも聞けない?」
ホテルの朝食みたいにいろんな料理の皿が並んだテーブルを前に、おいしく口に運びながら悪態をついている。横に立つ従者は人化をした獣人だから表情は変わらない。ただ申し訳なさそうに項垂れて見せている。
「今夜辺りに到着されるとは思うのですが、正確には何とも……」
「絶対だな?」
ここへ来て4日目だ。本来の約束としては10日間ここにいなくてはならないのだけど、それが竜族を欺く言い訳でしかない事を紘伊は知っている。こうしている間に竜族と何かがあってトラブルに見舞われていたら——ハーツの身を案じる気持ちもある。
「到着されましたら報告に参ります」
従者が下がると部屋が静かになる。この3日間まともに話してくれる者もおらず、部屋に戻れば広い空間にひとりきりで退屈すぎる。ハーツといた時が楽しくて幸せで、実は夢じゃないのかと思うくらい、ここでの暮らしに参っている。
だからと言ってハーツ以外には望んでいないのに、ノックと共に現れたのは、昨夜悪態をついて来た領主の伴侶のひとりのヴォグだった。
「昨夜の失態を謝罪しに参りました。どうかお許しください」
閉めたドアの前で土下座をして絨毯に頭をつけている。耳がしゅんとなっている所を見ると本心かもしれないが、昨夜の態度を思うとやらされているんだろうと思えた。しかも服装がおかしい。この領の従者はスーツで、昨夜の彼らは緩いシャツとパンツというラフな格好をしていたけど、基本は高級な服装をつけている。それこそ紘伊の世界のハイブランドな布も縫製もしっかりした一目で高級だと分かるものだ。それなのにヴォグは簡素な膝丈のシャツ一枚だけで足も裸足という格好だ。プライドの高そうなヴォグがする格好とは思えない。
「別に怒っていないけど、俺がどう思おうが関係ないんじゃないのか?」
「そんな事はございません。領主のお客人であるヒロイ様に対して行った私の態度は罰せられる程のものであったと反省しています」
「立って? 謝罪はいらない。もしかして領主に怒られたのか? だったら謝罪を受け取りましたと伝えてくれたら良いよ。俺は早く帰りたいだけだから、ついでにハーツがいつ来るか聞いて来てくれないか?」
若い子に土下座をされているのも心苦しい。塾にも悪ぶって悪態をついて来る子がいた。だからといって土下座させる事はない。まあ親に連絡が行くからその後の事は知らないが。
「お許し頂けるのですか?」
ヴォグはゆっくり立ち上がり、紘伊との距離を詰めて来る。隣の席に座るのかなと思っていたら、膝に手を置かれて、キスの距離で見上げられ、青い宝石のような目で見つめられていた。それはとても魅力的なお誘いの方法なのだろうけど、紘伊には不快でしかない。
「やめてくれ」
肩を押しやると簡単に絨毯に倒れた。いやいや獣人が紘伊如きの力で倒れる訳がない。上手に倒れて肩が痛かった風に手で押さえて、悲しそうな、痛々しい表情で紘伊を見上げている。同情を誘いたいのか? 暴力を受けたと被害者ぶりたいのか? ヴォグを信用する事はできなかった。
「ハーツが来るのは? それも聞けない?」
ホテルの朝食みたいにいろんな料理の皿が並んだテーブルを前に、おいしく口に運びながら悪態をついている。横に立つ従者は人化をした獣人だから表情は変わらない。ただ申し訳なさそうに項垂れて見せている。
「今夜辺りに到着されるとは思うのですが、正確には何とも……」
「絶対だな?」
ここへ来て4日目だ。本来の約束としては10日間ここにいなくてはならないのだけど、それが竜族を欺く言い訳でしかない事を紘伊は知っている。こうしている間に竜族と何かがあってトラブルに見舞われていたら——ハーツの身を案じる気持ちもある。
「到着されましたら報告に参ります」
従者が下がると部屋が静かになる。この3日間まともに話してくれる者もおらず、部屋に戻れば広い空間にひとりきりで退屈すぎる。ハーツといた時が楽しくて幸せで、実は夢じゃないのかと思うくらい、ここでの暮らしに参っている。
だからと言ってハーツ以外には望んでいないのに、ノックと共に現れたのは、昨夜悪態をついて来た領主の伴侶のひとりのヴォグだった。
「昨夜の失態を謝罪しに参りました。どうかお許しください」
閉めたドアの前で土下座をして絨毯に頭をつけている。耳がしゅんとなっている所を見ると本心かもしれないが、昨夜の態度を思うとやらされているんだろうと思えた。しかも服装がおかしい。この領の従者はスーツで、昨夜の彼らは緩いシャツとパンツというラフな格好をしていたけど、基本は高級な服装をつけている。それこそ紘伊の世界のハイブランドな布も縫製もしっかりした一目で高級だと分かるものだ。それなのにヴォグは簡素な膝丈のシャツ一枚だけで足も裸足という格好だ。プライドの高そうなヴォグがする格好とは思えない。
「別に怒っていないけど、俺がどう思おうが関係ないんじゃないのか?」
「そんな事はございません。領主のお客人であるヒロイ様に対して行った私の態度は罰せられる程のものであったと反省しています」
「立って? 謝罪はいらない。もしかして領主に怒られたのか? だったら謝罪を受け取りましたと伝えてくれたら良いよ。俺は早く帰りたいだけだから、ついでにハーツがいつ来るか聞いて来てくれないか?」
若い子に土下座をされているのも心苦しい。塾にも悪ぶって悪態をついて来る子がいた。だからといって土下座させる事はない。まあ親に連絡が行くからその後の事は知らないが。
「お許し頂けるのですか?」
ヴォグはゆっくり立ち上がり、紘伊との距離を詰めて来る。隣の席に座るのかなと思っていたら、膝に手を置かれて、キスの距離で見上げられ、青い宝石のような目で見つめられていた。それはとても魅力的なお誘いの方法なのだろうけど、紘伊には不快でしかない。
「やめてくれ」
肩を押しやると簡単に絨毯に倒れた。いやいや獣人が紘伊如きの力で倒れる訳がない。上手に倒れて肩が痛かった風に手で押さえて、悲しそうな、痛々しい表情で紘伊を見上げている。同情を誘いたいのか? 暴力を受けたと被害者ぶりたいのか? ヴォグを信用する事はできなかった。
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